第16話 価値観の違い
*** 長坂愛実 視点
「うううん…」
「あれれ…あみ、眉間にしわが寄ってるよ?可愛い顔が台無しなんだけど。別に、悩むことなんて無いと思うけどな」
悩むあみに、愛実は話し掛けた。
「愛実はさ、あみにもっと素直でいてほしいと思うの。今一番大好きなのは祐也くんな訳でしょう?きっと彼もあみには正直でいてほしいと思うけどな」
「素直?正直?でもカモちゃんの事を考えると…」
あー。
彼女さんとも親しいのか…厄介だわね。
「その彼女も、あみには正々堂々としてほしいと思うんじゃないかな?」
うーん。
あみはまた悩み始めた。
よし、もう少しだ。
「あみはさ、本心はどうしたいって思っているの?」
「そりゃ…祐也と付き合いたい…」
「だったら…」
愛実は、学校の裏庭に彼を呼び出して、抱きついたりするよう提案した。
そうすれば彼は、生理的にあみを意識せざるを得なくなる。
後は、あみの努力次第だけど…。
*
愛実は校舎の陰に隠れながら、あみを見守っていた。
あみは裕也に抱き着いた。
「何とか、うまくいったわね」
松永くんがぼーっとしていると、あみが近づいてきて…キスをした。
えええっ?
思っていたよりも上手くいっているんじゃない?
愛実は、流石にキスしろとまでは、言わなかったのだけど。
あみったら、思ったよりも根性があるわね。
後でお祝いをしてあげないと。
そうこうしているうちに、二人は校舎裏から離れて言った。
じゃあ、愛実も帰りますか。
*** 松永裕也 視点
体が熱くなって堪らない。
俺どうしちゃったんだ?
カモミールの事は今でも大好きなのに。
隣には、あみが俺の腕を組んで一緒に歩いている。
いつも通りに、一緒に下校しているだけなのだけど。
「裕也、顔真っ赤だね」
「誰のせいだと思っているんだ」
あみはニヤニヤと笑って言ってくる。
ああーーーっもう。
本当に俺って奴は。
もう「妹としか見られない」なんて言えない。
ていうか、もう見られなくなってしまった。
「あーもう。カモミールに何て言えばいいんだよ…」
「言いづらいの?わたしが言ってあげるよ」
え?
それって修羅場になるんじゃないか?
勘弁してくれよ…。
*
とうとう…俺の家の玄関まで来てしまった。
あみは、相変わらずニコニコしている。
悪気が全くないのが、何とも言えないが。
「もう!どうにでもなれ!」
俺は、半ばやけくそ気味に玄関ドアを開けた。
「ただいま」
「おかえりなさい」
カモミールが玄関に出迎えに来た。
「カモちゃん。エプロンを着て奥さんみたいだねー」
陽気にあみが声を掛けるが、俺の腕に抱き付いたままだ。
顔から冷や汗が流れる。
「あのさ…実はこれには事情が…」
「カモちゃん。わたし、裕也と付き合う事にしたから」
って?
俺、付き合うとか言ってないぞ?
「そうなの?」
「あみ、俺付き合うって言ってないんだけど」
俺は、やっと口から言葉を絞り出した。
手で、冷や汗を拭いながら。
カモミールは怒った様子でも悲しんだ感じでもない。
ん?
何だこの反応は…?
「日本では、結婚して一人と共に過ごすのが一般的らしいね。私のいた世界では複数婚が当たり前だったので新鮮だよ。あっ、良かったらあみさんもこの家に一緒に暮らしたらどうかな?」
「「えっ?」」
俺とあみは口を開けて固まる。
俺たちは、驚きすぎて動けなくなってしまった。




