第14話 お弁当
「お腹空いたー」
家では、カモミールが率先してご飯を作ってくれている。
作らなくても良いとはいったのだが、何かしないと落ち着かないらしい。
それで気が休まるなら…と思っていたのだが。
「今日はお味噌汁を作ってみたよ」
家の味噌汁はインスタントをお湯で溶かして飲んでいた。
今日は鍋でお味噌汁を作ってくれたらしい。
「ちゃんと出汁を取るところからしたかったのだけど…あいにく材料が無くて。とりあえず、出汁の粉をいれてみたんだ」
出汁って昆布で取るんだっけ?
流石に昆布は置いていないや。
みそ汁には豆腐とネギが入っている。
美味しそうな良い匂いがして、ホカホカと湯気が立ち上っていた。
「ズズーッ。美味い」
「本当?よかったあ」
和食はきちんと作ると、結構手間暇かかるからな。
今まで、ネットで調べた簡単な洋食を作ってもらっていたのだ。
「いい嫁さんになれるな」
「えへへー。そうかな…」
カモミールが照れて、もじもじしている。
結婚は出来なくても結婚式は挙げたいな。
お金はかけられないけど、教会で式くらいは挙げられるだろう。
親しい友人たちを呼んで小さな結婚式。
ぼーっとしていると、カモミールに声を掛けられた。
「ユウヤ?どうかしたの?」
「いや、何でもない」
このままの生活がずっと続けば良いな。
先ずは高校を卒業しないといけないけど。
*
「最近、お弁当だね。自分で作ってるの?」
隣の席の男子に話し掛けられた。
今まで、コンビニのおにぎりとかパンばかりだったからな。
自分で弁当を作るのも正直面倒だ。
俺が一人暮らしなのは、割と知られている。
「まあ、そうだな」
説明するのも面倒なので、適当に返事をする。
実は、カモミールに作ってもらっているんだけどね。
料理もコツを掴んだのか、だんだん上手になってきたんだよな。
「へえーそうなんだ。料理をする男子ってモテるって言うし、僕も作ってみるか」
俺が作っていると勘違いしてるけど…。
まあ、いいか。
「嘘つきね。実は、カモちゃんに作ってもらってるんでしょ?」
あみが弁当を覗き込み、言う。
ていうか、いつの間に教室に来たんだ。
「松永くん、彼女居たんだね。正直に言えば良かったのに」
「あ…嘘ついてゴメン」
「良いよ、別に…羨ましいな」
あはは。
俺は笑って誤魔化した。
「からあげと卵焼き、ブロッコリーと…色鮮やかなお弁当ね。美味しそう」
「食べたいって言ってもやらんからな」
俺はお弁当を手で覆い隠した。
「ええー?そんな事言わないわよ」
グルルー。
あみのお腹が鳴る。
「もしかしてお昼食べてないのか?」
「ダイエットしてるの」
「ええ?太ってないだろ…ていうかしっかり食べないと倒れるぞ?」
「それは気を付けているから大丈夫」
何が大丈夫なんだか。
そうじゃなくても、あみは食が細いから痩せていると言うのに。
「少しくらい太っていた方が健康的だし、俺はその方が好みだけど」
「えっ?あら…そう?」
「うん。俺はぷよぷよしている方が良い。柔らかそうだし」
「貴方の好みを聞くのは癪だけど、そういう事にしておいてあげるわ…教室に戻る。またね」
あみは手を振って、教室に帰っていった。
確かあみの家は、お母さんがお弁当を作っていたはずだ。
残すなんて親が悲しむだろうしな。
これでちゃんと食べるだろうから良かったよ。




