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第1話 存在しない国

「おーい。松永?」

「ああ、悪いぼーっとしてた」

「もうすぐ高崎だよ」


カタンカタン…カタンカタン…。

鈍行電車に乗り、倉賀野の駅を過ぎた。

地元に戻ってきて、ようやくホッとする。


両親が事故で亡くなり、今は一人暮らしをしている。

実家の家があるからまだ良かったけど。

せめて…もう少し生きていてくれればなあ。


高校二年の夏休み。

俺はコミケ(所謂いわゆるコミックマーケット)に行っていたその帰りだ。

背中のリュックには、戦利品が入っている。


「「次は、高崎ー高崎ー終点高崎です。お降りの方は…」」


駅のアナウンスが聞こえた。


「じゃあ、またな」

「おう」


オタク仲間の田中と別れ、高崎駅を出た。


「夕飯は…スーパーで何か買って帰るか」


家に帰っても、食べるものが何もないな。

せめてもう一人、家族がいたらよかったのに。

考えても仕方ない事を思う。


「夏休みは…長いな」


両親は事故で中学の時に亡くなってしまった。

学校にいれば、一人だという事を忘れられる。


幸いにも両親の生命保険がおりて、生きていくには困らないのだけど。

大学にも進学できる。

だけど。


「一人が、こんなに寂しいとは…思わなかったよ」


友達といても、ずっと一緒にいられるわけじゃない。

一人になって、独り言が増えた気がする。

ゲームをしてもつまらないし、マンガも楽しくない。



「「ビューー」」

急な突風が吹く。



長い銀髪でエメラルドグリーンの瞳の美しい女性。

民族衣装のような古風な服装。

見慣れた場所なのに、その場所だけ違う風景に見える。


耳が長くて、あれはエルフのコスプレか。

高崎で何かイベントがあったのだろうか?


彼女は、何故かぼーっと突っ立っていた。

白い足が車道を跨ぐ。

そこには横断歩道はない。

白い普通自動車が、目の前を通り過ぎようとしていた。


「おい!キミ!まさか、死ぬ気か?」


ブブーッ!

車のクラクションが鳴り響いた。


…俺は思わず彼女の手を引っ張り、その場に倒れ込む。


「きゃっ!」

「危ないじゃないか。車にひかれるぞ」


女性はぼーっとして、道路を眺めている。


「車?あれは”くるま”というのか…気が付いたらここにいたのだけど…ここは一体…」


彼女は、まるで生まれて初めて車を見たと言っているようだった。



「「どうした」」


ザワザワ…。


野次馬が、集まってきたので俺たちはその場から離れた。

彼女の恰好は目立ちすぎる。

駅前は人が多い。



「ともかく…この場から離れよう」


俺は彼女の手を引き、自宅まで連れてきてしまった。

いつもの俺なら、女性を家に連れてくるなんてしないと思う。

無我夢中で、何も考えられなくなっていた。

しいて言えば、死なせたくないと思った事だろうか。



「危ないところを助けてくれたのだろう?礼を言うのが遅くなった…ありがとう」

「…礼はいい。とっさに体が動いただけだ」


助けようと思ったわけじゃない。

考える前に体が反応していた。


「君は外国人でいいんだよな?どこから来たんだ?」

「外国?」


「いや、日本語通じてるよな…意味が分からないのか?外国と言うのは日本以外の国…出身国の事だ」

「ああ、出身の国か。ペルデ王国、カストラール地方のエルフ村出身だが」


「ヨーロッパのどこかかな…」


聞いた事無いし。

俺が知らないだけかもしれないけど。

そうだ。

スマホで調べれば良いじゃないか。

早速、検索してみたがヒットしない。


近いので「カーボベルデ」という国が、ヒットしたがアフリカらしいし。

黒人だろうから肌の色が違う。


「変だな…ネットで引っかからないなんて」

「あの…ちょっといいだろうか。変な事を聞くようだが、この国では魔法は使われていないのだろうか?どうやらマナが少ないようなのだが」


魔法?

外国人でオタクが過ぎると、憧れて日本に来る人もいるという。

彼女もそういうたぐいの人なのだろうか?

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