表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/43

2.はじめから

 揚羽がオーシャン専門管理局に来てから約一週間が経った。出雲たちと少しずつ会話も弾むようになり、少しずつ勝手も分かってきた。

 分かったこととしてはアビスの出現は不定期らしく、アビスが一切現れない日もあった。

 オーシャン専門管理局はアビス退治がなければどこにでもある休憩室のようで、各々自由に過ごしていた。オーシャン専門管理局という名前なのだから、オーシャン内のパトロールやアカウント管理はしないのかと、揚羽は一昨日あたりに出雲たちに尋ねた。

 出雲からの回答は以下の通り。「そういうのは全部ポセイドンがやってるらしいから」。

 オーシャン専門管理局は本当にアビス退治のためだけに存在するのだと、揚羽は改めて理解した。

 マリンからもらった力――刀を具現化するスキルも、それなりに使いこなせるようになってきた。刀の扱い方を知らなかったため、少しでも扱いに慣れようと剣道や殺陣を習い始めた。それを知った出雲たちは「本当に真面目だな」と呆れていた。


 ある日の休日。揚羽はオーシャン専門管理局にいるときと同じように、自室でパソコンと向き合っていた。

 何時間も同じ体勢をしていたため、一度休憩しようとパソコンを閉じて大きく伸びをする。近くに置いていた缶コーヒーを飲み干し、椅子の背もたれに体を預けた。


(……そういえば、オーシャン自体を楽しんだことがないような)


 ふとオーシャンのホーム画面を思い返した。オーシャンでは必要最低限の機能しか触れたことがない。

 この機会に、改めてオーシャン内をぐるりと周ってみてもいいだろう。閉じていたパソコンを再び開き、ログイン画面へ遷移した。

 ログインをすると、ホーム画面に揚羽のアバターが現れる。揚羽のアバターは女の子が白いTシャツと黒いズボンを着ている――登録してから一切変わっていない――いわゆる初期アバターのままだった。オーシャン内のショップで購入すれば様々なアバターが利用できるが、揚羽はさほど興味を抱いていなかった。そういったものは交流をメインに行う人々が楽しむものだと思っていたから。

 なにをしようかとホーム画面に目をやると、画面上部に横スクロール型のバナーが表示されていた。


【『ウェーブ・サバイバー』世界大会 放送中!】


 初めて見る単語に、揚羽は思わずバナーをクリックした。


『盛り上がってきたこのイベントも、ついに決勝戦だよ!』


 画面が遷移すると、マリンがマイクを片手に司会進行をしていた。


(ゲームの世界大会ですか……初めて見ますね)


 オーシャンを知る勉強の一環だと、揚羽は観戦スペースに移動した。


 ウェーブ・サバイバー。

 オーシャンの島を模した広大なマップで繰り広げられる、同時対戦型アクションゲーム。

 プレイヤーは個性豊かなキャラクターを操作して、他プレイヤーと最後の一人になるまで戦う。マップには様々なアイテムやギミックが配置されていて、プレイヤーはそれらを使用した戦術も求められる。

 ソロプレイだけでなくマルチプレイも可能で、自分のプレイスタイルに合わせてゲームを楽しめる。

 戦略的な要素やアクション要素があり、子供から大人まで、ライトユーザーからヘビーユーザーまで幅広く楽しめる、オーシャン内で一番人気のゲームである。


(――なるほど、そういったゲームですか)


 別ウインドウで概要を調べながら画面に視線を移す揚羽。

 ワイプで実況者や解説者も映っていて、さながらスポーツ観戦をしているようだった。

 司会進行をしているマリンは、一般人からすれば3Dモデルで動いているように見えているのだろう。マリンは架空のキャラクターではなく実在する人物なのだと知ったらどんな反応をするのかと、揚羽は盛り上がっている実況者や解説者を一瞥する。


『3、2、1……決勝戦、スタート!』


 マリンの掛け声を皮切りに、プレイヤーが一斉に動き出す。画面には参加しているプレイヤーの視点が同時に表示されていて、どの視点からも楽しめるようになっていた。

 揚羽がどのプレイヤーを追おうかと視線を動かしている間に、試合は流れるような速度で進んでいく。

 アイテムを利用して、ギミックを利用して、キャラクターのスキルを利用して。画面内の戦いは次第に激化していく。ソロプレイヤーからチームを組んでいるらしいプレイヤーまで、大勢いたはずのプレイヤーは最終的に四人に絞られた。

 プレイヤーの上にはアカウント名が表示されていて、その中に【田中(たなか)】と唯一漢字で表示されたアカウントが目についた。


(日本人はこの方だけのようですね。プレイ人口は海外の方が多いのでしょうか。それとも、ここまで残れるレベルが日本人ではこの方だけの可能性も?)


 揚羽は画面を食い入るように見つめ、試合の行く末を見守った。

 田中と表示されているプレイヤーは、マップに落ちていた爆弾を拾い、別のプレイヤーへと投げつける。爆風が晴れたタイミングで滑り込み、キャラクターの属性であろう炎攻撃を行う。

 休む暇もなく、田中は別のプレイヤーの元へと向かった。途中で拾った回復アイテムを使って体力を回復し、相手プレイヤーと遭遇したところでキャラクターのスキルを発動した。地面から広範囲に火柱が現れるが、相手プレイヤーは火柱を物陰に隠れてやり過ごす。しかしその挙動さえも読んでいたのか、田中は相手プレイヤーの目の前に現れて追撃を行っていった。


(田中さんが圧倒的ですね……)


 プレイしたことのない自分が思うのだから、田中のプレイヤースキルは相当なものだ。

 気がつけば田中と相手プレイヤーの一対一になっていた。ギミックを利用して距離を取り、お互いの様子を窺っていた。

 ここまで来たら田中に勝って欲しい。揚羽は心なしか手が汗ばんできた。

 先に動いたのは田中だった。田中が操作しているのは近接で戦うキャラクターらしく、俊敏な動きで相手プレイヤーの体力を少しずつ削っていく。だが、途中で相手が発動したスキルを避けきれずにダメージを負ってしまう。

 一進一退の攻防が続き、どちらが勝つのか揚羽には見当がつかなかった。

 そのとき、マップ上に巨大な竜巻が発生した。


(これは……)


 急いで概要を調べていたサイトに目を通す。ステージギミックとして稀にストームが発生する、と書かれていた。どう活かすかが勝利の鍵となるらしい。


(ですが、これをどう活かせばいいのでしょうか)


 マップを埋め尽くさんばかりの勢いがあるストームに、揚羽は手に汗をかきながら試合を見守る。

 田中と相手プレイヤーはストームを躱しながら、ほとんど同時にスキルを発動した。

 火柱と氷柱がストームを巻き込みながら発生し、マップ上を埋め尽くす。画面が揺れ動き、視界が眩んだ。

 ストームが過ぎ去ると、画面に『Winner!!』の文字が現れた。

 その文字は、田中のプレイ画面上に。


『優勝は田中さん! おめでとー!』


 マリンの喜びの声が揚羽の耳に届く。


「やった……!」


 揚羽は小さくガッツポーズをした。まるで自分が戦って勝利したかのような爽快感があった。


『いやぁ、接戦でしたねー』

『ストームを応用した戦い方は迫力がありましたね』


 実況者や解説者がリプレイを見ながら盛り上がっている中、


【田中:gg】


 と短いメッセージがチャット画面に表示された。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ