表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/43

 現実世界では小さなプレハブ小屋を案内された。ここがオーシャンと行き来するための場所だと。


「秘密基地のようですね」

「……いや、ボロすぎだろ」

「リフォームしていいか聞いてみましょう」


 各々のプライベートも保証しようと、同時に近くのアパートも借りることにした。

 現実世界では帰って寝るだけの生活。だが、本来の生活はプレハブ小屋の中と、画面を超えた先にあるオーシャンでのアビス退治。出雲たちは二つの世界を行き来する生活が始まった。


「皆さん、オーシャン専門管理局という名前はどうでしょうか」


 アビス退治に慣れたある日。梨羅の淹れたコーヒーを飲みながら、可夢偉は出雲たちに提案した。


「なんの名前?」

「僕たちの活動名です。ただアビス退治の集団と名乗るのではつまらないでしょう」


 へぇ、とスマホから顔を上げながら祢音が反応する。


「ゲームのギルドも名前つけるし、俺はいいと思うよ」

「気に入っていただけたようでなによりです」


 その日から、オーシャン専門管理局という名前で活動することにした。

 偶然の出会いから始まった出雲たちは、オーシャン専門管理局という居場所を確立した。


 あるとき、可夢偉が遺体となって発見されたニュースが報道された。


「……え?」


 全員がモニターに注目し、衝撃的なニュースを呆然と眺めていた。


「……どういうことだ?」

「僕の物体を複製するスキルを使ったのですよ」


 唖然としている出雲の呟きに可夢偉は平然と答えた。


「なんで、わざわざこんなことをしたの……?」

「自由に生きるためです。現実世界で死んだことにすれば、今後の行動が楽になると思いまして。僕なりの現実世界からの決別の方法ですよ」


 潮可夢偉は天才だ。凡人である自分たちの何歩先も前を行っている。だから、理解の及ばないことも簡単に考えつくのだろう。出雲たちはそう結論づけた。

 そんな彼は、ある日突然オーシャンで姿を消した。出雲と一緒に、いつものようにアビスを退治していた日のことだった。


「可夢偉さん、どこ行ったんだよ……」


 出雲たちはオーシャンで可夢偉を探し続けたが、なんの手がかりも見つからなかった。マリンの力を持ってしても可夢偉は見つからなかった。

 まるで神隠しにあったかのように、忽然と姿を消した。


「出雲、一旦戻ろ」

「まだだ。可夢偉さんを見つけるまで……」


 歯を食いしばる出雲の背中を、マリンは不安げに見守っていた。

 可夢偉がオーシャンにいるのは間違いない。いつかきっと見つかるはずだ。


「可夢偉さんは絶対に見つける」

「もちろん。まだ一緒にやる予定のゲームあるし」

「私も、またコーヒーを淹れるって決めてるよ」


 出雲たちは自分たちを繋げてくれた人物を、一日たりとも忘れることはなかった。


「オーシャン専門管理局に、新人?」


 可夢偉を探してしばらく経った頃、マリンから出雲たちに伝えられた。


「うん! スカウトしたの!」


 マリンの明るい声がオーシャン専門管理局に響いた。


「なんで新しい子が入るの?」

「……まさか、可夢偉さんの代わりってわけじゃないよな?」


 梨羅の疑問と出雲の鋭い瞳がマリンに向く。マリンは穏やかな笑みとともに首を振った。


「あたしが助けたいって思ったの」


 マリンが突き動かされるなにかがあったのだろう。マリンの儚げな瞳に出雲たちは押し黙る。


「その子、オーシャンの調査をしてるみたい」

「調査? なんで?」

「警察庁の公安なんだって」


 マリンの発言に出雲たちは目を見開いた。


「……なんで」


 気色ばむ出雲。声の調子がいくらか低くなる。


「なんでスカウトなんかしたんだよ。ここに来たらマリンのこととかアビスのこととか、オーシャン専門管理局の全部が知られるだろ」


 怒気を孕んだ出雲の声。梨羅と祢音は口に出さずとも出雲に同意していた。

 自分たちはオーシャン専門管理局で第二の人生を歩んでいる。なのに、その事情を知らない人間――公安の調査が来てしまえば、素性が知られて自分たちの居場所がなくなってしまうのでは。


「出雲たちの気持ちもすっごく分かるよ。でもね、その子も新しい人生を歩みたいって言ってくれたの。――出雲たちと同じだよ」


 新しい人生を歩もうと言うマリンからの誘い。その状況は全員が一致していた。

 つまり、自殺を図った。

 見も知らぬ人物の境遇を知り、出雲たちはなにも言い返せなかった。


「調査に来たところで、あたしとかアビスのことなんてどうせ信じないだろうから大丈夫!」


 へらりと笑ったマリンは、「だからね」とマリンは改まって出雲たちに向き直る。


「自分らしく生きられる場所があるんだって安心して欲しいの。いきなりじゃなくていい。出雲たちも少しずつでいいから受け入れてくれたら嬉しいな」

「……分かった」


 出雲に続いて、梨羅と祢音も頷いた。

 調査という名目でも、同じ境遇の人間なら見捨てるわけにはいかない。

 やってくる人物は敵ではない。オーシャン専門管理局に新しく来た仲間として迎え入れよう。

 出雲たちはそんな共通認識を抱き、彼女――瀬戸揚羽を迎えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ