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8.筋肉令嬢、兵舎は大変です ※一部アシュレイ視点

 プロテインドリンクを飲んだルシアン様は複雑そうな顔をしていたが、味は美味しいと褒めてくれた。

 これできっと癖になるだろう。

 そう思いながら、仕事を終えた私は余りのプロテインドリンクを持って兵舎に戻っていく。


「よっ!」


 兵舎の前にはアシュレイが待っていた。

 手合わせする前とは打って変わって、私に対する敵意は感じられない。

 何か用があって待っていたのだろうか。


「そういえば、俺と同室なのを伝えてなかったからな」


 どうやら私はアシュレイと同室らしい。

 兵舎って言っても、そこまで大きくないから仕方ない。

 ただ、私とアシュレイの性別が違うのは問題ないのだろうか。

 そんなことを思っていると、アシュレイの視線は私の手元に向いていた。


「それは……なんだ?」


 アシュレイは私の持っているプロテインドリンクが気になっているようだ。


――グゥー!


 どこからかお腹の音が鳴っている。


「ああ、すまない。今日は夕食に毒が混ざっていたらしく、食べるものがなくなったからな」


 どこか恥ずかしそうにアシュレイは頭を掻いていた。

 ルシアン様の食事に毒が入っていたことで、使用人や騎士に行き渡る食事も処分されてしまったらしい。

 あの時どこで毒が入れられたかは、確認していなかったもんね。

 それに調理場に置いてあった食材も少なかった。

 食べるものすら、この国には少ないのだろう。

 ただ、アシュレイの視線が気になってしまう。

 プロテインドリンクをアシュレイにあげてしまうと、唯一の筋肉への栄養源がなくなる。


「一口だけですよ……?」

「おう!」


 そう言って、アシュレイに渡すと嬉しそうに飲み始めた。


「おっ……思ったよりもうまいな!」


 初めは少し戸惑ってはいたものの、一口飲むとプロテインドリンクに魅了されていた。

 そのまま二口、三口と……。


「ストップ!」


 全て飲まれそうな勢いに、私は急いで止めた。

 我が家でも、初めはみんな同じような反応をしていたからね。

 なんとなく全て飲まれそうな気はしていた。


「じゃあ、お礼に兵舎の中を案内する」


 そう言って、アシュレイは兵舎の中を歩き出した。


「なんか……変わった匂いがしますね」


 兵舎の中は、どことなく汗と皮脂の匂いが強くて、戦う男が集まる場所って感じがする。

 女性の甘くて花のような香水の匂いよりかはいいけど、父様や兄様と違って爽やかさが少ないわ。

 どこか泥臭いって言うのかな?

 ただ、私はそんな泥臭さが嫌いではない。

 一生懸命頑張っている証拠でもあるからね。


「男だらけだから仕方ない」


 そういえば、騎士団の中に女性の姿はいなかった。

 それだけ女性の騎士がいないのだろう。


「ここが俺たちの部屋だ」


 中を開けると、ベッドが二つ置いてあるだけの簡易的な部屋だ。

 衣服が散らかり部屋が汚れていた。

 私の部屋の半分以下のスペースで、二人も寝泊まりすることに私は驚きを隠せない。

 しかも、カーテンがあるわけでもなく、プライベートがここまでないとは思わなかった。

 

「すまない、今すぐに片付ける」


 アシュレイはすぐに服を自分のベッドの上に載せていく。


「そんなに汚かったか?」

「そうですね……」


 私はコクリと頷く。


「ただ寝るだけのところだからな。家がないよりはマシだろう」


 確かにアシュレイが言うように、家があるだけマシなんだろう。

 私も路頭に迷った時は、その辺の道端で寝ていた。

 精神を強くする屋外訓練って感じがして楽しんでいたけど、雨が降っていたら今頃大変だった。


「それもそうだね」


 私は返事をして、そのままベッドの上で横になる。

 硬くて寝づらそうだが、疲れた体を休ませるには道端で立って寝るよりは、体は休まるだろう。

 チラッとアシュレイを見ると、なぜか彼は服を脱いでいた。


「ちょ、君は何をしてるんだ!」

「何って……お前は服を着たまま寝るのか?」


 アシュレイは着ていた服を床に放り投げて、下着一枚になっていた。

 床に服が落ちていたのは、脱いだままにしておいたからだろう。

 アシュレイは気にすることなく、そのままベッドの中に入っていく。


「着たまま寝るとしわくちゃになって、明日も着れないからな」


 どうやら今日着ていた服をそのまま明日も着るようだ。

 確かにアクアナッツがないと飲み水も確保できない地域なら、洗濯に使う水も少ないのだろう。


 明日は水と食料を探しつつ、セラフ周囲を探索するのもいいだろう。

 屋外訓練で山岳地帯や森に何日か生活したことがあるから、どうにか生きるのに必要なものは手に入れられる気がする。

 そうなると、ルシアン様の護衛はおやすみになるのかしら……。

 私は明日のことを考えながら、そのまま眠りについた。


 ♦︎ ♦︎ ♦︎


「もう寝たか?」


 静かな部屋で俺は声をかける。

 毎回のごとく、突然連れてきたルシアン様の新人騎士は俺と同室になった。

 今まではこの環境に耐えきれずに逃げて行ったものや、力がなくて逃げだしたものばかりだ。

 だが、あいつは初日から楽しそうにルシアン様の護衛から帰ってきた。


 普通はあの命懸けの食事から帰ってきたら、げっそりしているのが当たり前なのにな。

 俺も心配になって兵舎の前で待っていたら、何事もないような顔をしていた。

 あいつは将来大物になるだろう。

 それだけルシアン様の近くにいると、神経をすり減らす。

 でも、それが俺たちの仕事だからな。


「ルシアン様……」

「くくく、寝言でもルシアン様を慕ってる」


 あいつはどういうわけでここに来たのかはわからない。

 ただ、ルシアン様に助けられたのは間違いないだろう。

 ルシアン様は俺らみたいな、生きる価値もなく、住む場所や家族がいないやつも隔てなく助けてくれた。

 俺は元々家族を亡くして、生きる希望を失った孤児だからな。

 そもそもセラフはそんなやつらの集まりだ。

 目の奥に希望を抱いてるやつは誰一人いない。

 

「あいつは正々堂々と拳で戦うって言っていたな……」


 俺は体を起こして、自身の手を握る。


「ルシアン様……プロテインドリンクですぅー」


 今も寝言が止まらないあいつは拳で俺に戦いを挑んできた。

 剣の実力がなくても戦えることを示してくれた。

 そもそも俺は戦うのをやめたんだけどな……。

 だって、あいつが拳を振るったら突風が吹いて、立っていることすらできなかった。

 あそこで降参しなければ、今頃死んでいただろう。

 なのに今は掛け布団を蹴飛ばして、無防備に寝ている。


 俺はそっと近づいて、布団をかけることにした。


「なんか妙に色っぽい……いや、こいつは男か」


 あの強い姿と無防備なところがギャップに感じたのだろう。

 俺はすぐに布団をかけて眠ることにした。



 ……寝ようと思ったのに。


「あー、くそ! 寝れない!」


 俺は再び体を起こす。

 目をつぶっても、さっきの寝顔が脳裏に焼きついた離れない。

 変な寝言を言ってるのに、掛け布団からはみ出た力は強いのに引き締まった細い腕、そして――あの妙に艶めかしい鎖骨。


「いやいや、あいつは男だ。力強くて、多分俺よりもバカな男だぞ。あいつには同じものがついている」


 自分も同じ男であることを再確認して、気持ちを鎮める。

 あいつにも同じものがついているからな。

 でも、頭ではそう言い聞かせても、なぜか心がざわついたままだ。

 なんなんだ、あの無防備さは……油断しすぎだろ。

 昼間のあの姿はなんだったんだ!


「俺が悪いこと考えたらどうするんだ……いや、しねぇぞ?」


 再び横になって掛け布団の中に潜り込む。


「くそ……寝れねぇ……」


 結局その晩、俺は一睡もできなかった。

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