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6.筋肉令嬢、犯人探しも筋肉で解決

 ルシアン様が部屋に戻ると、しばらくしてガレスさんがやってきた。


「リリナ、ルシアン様は?」

「お部屋に戻りました」


 帰ってきたガレスさんの手には顔が少し腫れて、殴られた形跡がある男がいた。

 きっと彼がルシアン様を殺そうとしていた人物なんだろう。


「犯人を捕まえてきた」


 私の視線に気づき、男を差し出した。


「だから、俺はやってないって!」

「なら、なぜルシアン様の食事に毒が入ってたんだ!」


 一瞬、ガレスさんは私の方を見た。

 真面目な顔。心配そうで、でも安心しているような複雑な表情にも見えた。


 これは私に助けを求めているのだろうか?

 男は自分が犯人ではないと言い張っている。

 何か証拠があって捕まえてきたはずだが……。


「毒が入っていたなら、毒見役は死んでいるはずだろ! 俺が入れたって証拠は――」


 ルシアン様が無事でいられたのは、私が毒見役として毒をみつけたからだ。

 毒を摂取して誰かが死んでいたら、それはすでに遅い。

 それなのに自分は犯人じゃないと、シラを切るつもりか。


 私はゆっくりと男の元へ近づく。

 ガレスさんも私に協力して欲しそうな雰囲気が出ているものね。


「ん? ちょ……リリナ待て待て!」

「待ちません!」


 拳を軽く床に叩きつける。

 『コツン!』ってするぐらいの弱い一撃だ。


――ドオオオオオオン!


 大きく屋敷が揺れると同時に、床には大きな穴が開いていた。


「あれ? ちゃんと力を入れずに叩いたはずなのに……」


 やっぱり屋敷が古かったのがいけないんだね。

 すぐに穴が開いてしまう床なんて、私が走ったら床がなくなってしまう。


「あわわわ……」


 男は怯えた様子で、私の顔を見上げていた。

 これでルシアン様の食事をする度に感じる恐ろしさが伝わっただろう。


「あなたが犯人で間違いない――」


 男はその場で気を失って倒れていく。

 股からは、ちょろちょろと液体が染み出していた。

 どうやら恐怖のあまり、限界を迎えてしまったらしい。


「ははは……ごめんなさい」

「はぁー」


 すぐに謝るが、ガレスさんは呆れた顔をしていた。

 私だってこんなことになるとは思ってなかったんだからね。

 プロテイン公爵家は今みたいな方法で、悪いことをした人を炙り出していくのが普通だ。

 自然と犯人は自分だと名乗り出て――。


「しゅ……しゅみましぇん、私がやりました」


 か細く震えた声を上げたのは一人のメイドだった。

 まさか気絶した男ではなく、メイドが犯人だったなんて……。


「ほら、やっぱり彼は犯人じゃなかったですね。私は初めから分かっていましたよ」


 なぜか犯人よりも私に視線が集まってくる。

 まるで私が犯人だと勘違いしてそうな勢いだ。


「はぁー、こいつを隔離しろ」


 ガレスさんはすぐに他の使用人に指示を出して、メイドの女性を別室に隔離していく。


 問題は気絶をして倒れている男だ。

 何もしていないのに、ガレスさんには殴られて、私には脅され……。

 ううん、こういうことは誰だってあるから仕方ないわ。

 それに誰も触れたくないほど汚れているのが悪いのよ。

 どうしようかと周囲を見渡していると、毒見役を代わったメイドと目が合った。


「私がすぐに片付けますから、リリナさんは気にしないでください」


 私の意図に気づいたのか、片付ける用意をしてくれるらしい。

 彼女はきっと良いメイド長になるだろう。

 今後もルシアン様のために、一緒に働く同士だ。

 これで問題も解決した……いや、まだ解決していないことがあった。


「ルシアン様が食事を摂られてないです!」


 全ての食事に毒が含まれていたため、何も食べずに帰ってしまった。

 あの小さな体にはしっかりとした栄養が必要だ。


「いつものことなので問題ない」

「いつものこと!?」


 ガレスさんは問題ないというが、むしろ問題しかないだろう。

 騎士たちの体もプロテイン公爵家の使用人よりも、線が細かった。

 アシュレイは走り込みや筋トレは行っていると言っていた。

 なら、原因はなんなのか。

 それは食事に対しての意識が低いのが、影響していそうだと思った。

 ガレスさんの問題ないという発言も、それを表していた。

 まずは食事の重要性を伝えるところから始めないといけないのかしら。


「調理場はどこですか?」

「リリナさん、こちらですわ!」


 掃除道具を持ってきたメイドが、すぐに私の手を引き調理場まで案内してくれるようだ。

 早速、私のお手製プロテインドリンクを振る舞う日が来るとはね。


 調理場に着くと、早速調理に取り掛かる。


「おい、リリナ。本当に大丈夫なのか?」


 ガレスさんは心配そうに私を見ているが、優しく微笑む。

 これでも私が作るプロテインドリンクは家族や使用人には人気の栄養ドリンクだからね。


 まずは鶏肉を煮込んで、美味しい筋肉成分を出していく。

 その間に隣で卵をいくつか茹でる。

 基本的な材料はこれだけだ。

 簡単に作れないとプロテインドリンクとしては、意味がないからね。


 卵が茹で終わったら、すぐに殻を剥き、鶏肉も赤いところがなくなるまで、火が通っていれば完璧。


「また力で解決すると思ったんだが、思ったよりも普通――」

「ふん!」


 私は卵と鶏肉を力いっぱい握り潰す。

 ここでしっかりと筋肉がつくように祈るのも忘れない。


「避けろ筋繊維……癒えよ筋繊維……。育て、我が肉体よ」

「なっ……何をしてるんだ!?」


 作業中にガレスさんが止めてきた。


「形が残っていたら、ただのスープになるので」

「いや……さっきの呪文は――」

「ふふふ」


 私はにこりと微笑むと、ガレスさんは数歩後退りをした。

 人には聞かない方が良いこともある。

 私の回復魔法って主に自分の体のみに働くけど、呪文を唱えながらプロテインドリンクを作ると、少し効力を発揮するからね。

 ちなみにこのことは家族の誰にも伝えてないわ。

 

 鶏肉を茹でたお湯はそのまま布巾で濾してから、あとは潰した卵と鶏肉を形がなくなるまで混ぜたら完成だ。


 見た目は泥水、味は……卵スープと鶏の煮込みの中間。

 だけど、一口食べた……飲んだらクセになるのよ。

 我が家では取り合いになるプロテインドリンクだからね。


 私は完成したプロテインドリンクをすぐにルシアン様の元へ運んでいく。

 食事の大切さ、それは筋肉を愛する者の第一歩だ。


お読み頂き、ありがとうございます。

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