39.筋肉令嬢、帰宅します! ※一部ルシアン視点
気絶した男をその場に放り投げて、私は結界のようなもので守られている檻に近づく。
「こんなもので拘束できると本当に思ってるのかしら?」
私は慣れた手で結界を振り払う。
大体の結界って腕の勢いと衝撃で吹き飛ばすことができる。
そんなことはプロテイン公爵家では、幼い時から教えられている常識だ。
「今開けるから待っててくださいね」
檻に手をかけると、そのまま押し広げる。
一人分が通れるくらい隙間があれば、ここからは出られるだろう。
「パパ!」
「あなた!」
親子は檻から出ると、すぐにブレーメンの元へ向かった。
これが本物の感動の再会だろう。
さっきは男が作り出した幻影みたいなものだった。
「よし、悪いやつに見つかる前に帰りましょうか」
まだまだ騎士にバレただけで、ウラギールの悪いやつにはバレていないはず。
隠密が得意とルシアン様に言ったから、さすがに偉い人に見つかるわけにはいかない。
だが、自然とブレーメンたちの視線が私の足元に集まってくる。
「どうしました?」
「いや……その人がウラギールの中で一番偉い人だ」
「えっ……一番気持ち悪い人じゃなくて?」
私の言葉にブレーメン一家は頷く。
どうやら私は気づかないうちに、偉い人を気絶させてしまったようだ。
これが騎士たちにバレたら、大変なことになるだろう。
「みなさん、逃げますよ!」
私はブレーメンと奥さんを抱え、娘さんを肩車する。
「まさか――」
「ほら行きますよ!」
窓を開けて勢いよく飛び降りていく。
「玄関からいけよおおおお!」
「いやあああああ!?」
「えへへへ、楽しい!」
大人は怖がっているが、どこか娘さんは楽しそうにしていた。
屋敷の入り口にはすでに誰もおらず、人々は町の中に戻っていた。
虫も全て投げ飛ばしたから、普段の生活に戻ったのだろう。
「では、セラフに帰り……ルシアン様!?」
町の外に目を向けると、トカゲさんに乗っているルシアン様が目に入った。
「どこにいるんだ?」
「あそこにいますよ?」
私が伝えても、他の人には遠くて見えないらしい。
やはり私のルシアン様への愛は、距離なんて関係ないのだろう。
今回はそこまで問題も起こらず、無事にブレーメンの家族を救出できた気がする。
それにルシアン様には迷惑をかけていないからね。
ただ、残念なのは魔物と手合わせができなかったことだ。
魔物が襲撃していると聞いたのに、実際は虫ばかりで一番残念だった。
「スピード上げますよー!」
私はそのままみんなを抱えたまま、ルシアン様の元へ戻ることにした。
♢ ♢ ♢
『ふぉふぉ、さっきから魔物が飛んできておるのー』
私はアースドラゴンの背中に跨ってウラギールに向かっていた。
道中、何かが飛んでいることに気づき視線を向けると、魔物が宙に浮いていた。
まだ、翅が生えている虫系の魔物ならわかる。
だが、ポイズンスパイダーやムカドレイクは脚がたくさんあっても、翅は生えていない。
「やっぱりあいつは魔物と手合わせしに行ったのか……」
「手合わせしているなら、もっとウラギールの方から音が聞こえると思うけどね」
アシュレイはリリナが魔物と戦いに行ったと思っているが、私はそうは思ってない。
あれだけ私に歯向かって行ったんだ。
魔物と手合わせしていたら、お仕置きをしないといけないだろう。
『ふぉふぉ、次は門と壁が飛んでくるぞ』
うん……やはり、リリナは魔物と手合わせをしていそうだな。
普通は門と壁が飛んでくることはない。
「……壁!?」
ウラギールに門があるとしたら、町への入り口か代表の人物がいる屋敷ぐらい。
ウラギール代表のキッショイは、男の私でもなるべく関わりたくない相手だ。
何かリリナがやらかしていそうで、不安でならない。
「アースドラゴンよ。もう少し速く走れないか?」
『何を言っておる。リリナが投げてくる物を避けながら向かうのは大変だぞ?』
「くっ……」
アースドラゴンの言う通り、なぜかリリナが投げてくる魔物は私たちの前で落ちてくる。
少しでも無駄な戦闘を避けるには、速度を緩めて警戒を強める必要がある。
動物系の魔物ならアースドラゴンから遠ざかるが、知能が低い虫系の魔物は立ち向かってくるからな。
そんなことを思いながらも、森の中を進んでいると段々と声が近づいてきた。
「ルシアン様ー!」
「「うわああああああ!」」
聞き慣れた声に視線を上げると、リリナが飛んできた。
その腕にはブレーメンと女性が抱えられていた。
それに頭の上にはにこやかな少女がいる。
きっとブレーメンの家族を救出してきたのだろう。
「ブレーメンの家族を救って、ただいま帰ってきました」
「無事でよかったが……本当に君は手加減という言葉を知らないな」
満面な笑みで帰ってきたリリナにひとまず安心した。
お読み頂き、ありがとうございます。
この作品を『おもしろかった!』、『続きが気になる!』と思ってくださった方はブックマーク登録や↓の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価して下さると執筆の励みになります。
よろしくお願いします(*´꒳`*)




