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婚約破棄された令嬢、マッチョ売りに転職しました!〜筋トレのために男装してたら、王子の護衛にされました〜  作者: k-ing☆書籍発売中


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31.筋肉令嬢、代わりになる

 すぐに私たちはルシアン様に集められた。

 その場にはガレスさん、アシュレイの他に動物使いのブレーメンがいた。


「みんなに集まってもらったのはウラギールで起きている魔物襲撃についてだ」


 優しいルシアン様のことだから、すぐに魔物の討伐に向かうと決断するだろう。


「今回は静観するつもりでいる」

「話と違う――」

「なんですって!!」


 私の声はブレーメンの声をかき消すほどに部屋に響いた。

 だって魔物と戦えないなんて――。


「リリナ、少し静かにしようか」

「はい……」


 ルシアン様は笑顔なのに、どこか笑っていない視線で私を見つめてくる。

 その笑みは、まるで凍りついた湖の上に貼りつけた仮面のようだった。

 普段のような温もりはどこにもなく、静かに何かを押し殺しているように見えた。

 普段見たことないルシアン様の表情に胸が苦しくなる。

 ルシアン様って、たまに少年ぽくない大人のような真面目な表情をする。

 それが魅力でもあるんだけどね。


「くくく、怒られてる」


 怒られた私を見て、アシュレイは笑っていた。


「アシュレイも無駄口を挟まない」

「はい……」


 変なこと言うから、アシュレイも一緒になって怒られていた。

 誰も話さない静かな空気が流れた後に、ブレーメンが静かに立ち上がった。


「俺は家族を助けに行きます」


 低く芯の通った声だった。


「家族……ですか?」


 私は話したことに気づいて、すぐに手で口を押さえたが遅かった。

 みんなの視線が私に向いている。


「家族を捕虜にされているブレーメンの気持ちはわかる」

「捕虜ですって!?」


 ルシアン様の言葉に驚いて声が出てしまった。


「リリナー? 君はすぐに忘れちゃうのかなー?」

「すみません」


 だって、急に捕虜の話が出てきたら、誰だってびっくりする。

 ブレーメンの家族が捕まっているなら、助けに行かないといけない。

 ただ、ルシアン様が動けないってことは、何か問題に繋がるのだろうか。


「今、私が動けば魔物を使ってウラギールを襲撃したと思われる」

「それはわかってます」


 あれ? どういうこと?

 ルシアン様がウラギールを襲撃して利益があるのだろうか。

 ブレーメンだけではなく、ガレスさんやアシュレイも頷いているから、理解できていないのは私だけのようだ。


 なんで、みんなわかっているの?


 胸の奥がざわざわする。

 この場にいる全員が、あらかじめ何かを共有しているような、そんな空気だった。

 まるで私だけが知らない地図の上に立たされているみたい。

 私だけが知らない話題、私だけが理解していない空気。

 ガレスさんも、アシュレイも、ブレーメンも――まるで事前に答え合わせを済ませているような顔だった。

 私がここにいる意味って、なんだろう。

 胸の奥がキリキリと痛み、知らない地図の上に一人きりで立っているような錯覚に襲われる。


 視線が自然とルシアン様に向く。

 彼の表情はどこまでも静かで、優しげなまま、どこか張り詰めていた。

 普段のような朗らかさはなく、その瞳には冷たい水面のような光が宿っていた。


 まるで、何かに縛られているような……。


「まずは状況の確認だが――」

「状況の確認をしている場合ではないですよね?」


 私は我慢できずに口を挟む。

 理由がわからないだけで、動けないなんて納得できなかった。

 ブレーメンの家族は今魔物に襲われているウラギールにいるんだよね?

 それにウラギールにもセラフのように住んでいる人がいる。


「リリナ?」

「次はここかもしれないし……」


 私はブレーメンに近づき肩に手をかけた。

 彼の体温がじんわりと手のひらに伝わる。

 きっとさっきの決意は本物だろう。

 私だって、誰かが家族を助けたいと思う気持ちを止めることなんてできない。


 ルシアン様が動けない理由はわからない。

 でも、動かないまま誰かが傷つくのは、もっとわからない。

 なら――私が代わりに動けばいい。

 魔物と正面から戦えない……手合わせできないなら、見つからなければいいだけだ。

 私は私なりに力を使いたい。

 せっかく作ったこの町がまた住めなくなるのは悲しいからね。


「ルシアン様がいけないなら私が行きます」

「えっ!?」

「「はぁん!?」」


 私はブレーメンを肩に担ぐ。

 その行動に私以外のみんなは驚いている。


「彼の家族を助けられたらいいんですよね? 私、隠密行動も得意なんです!」


 魔物と手合わせができないなら、見つからないように素早く動けばいいだけだ。

 魔物って動物よりも感覚が鋭いって聞くから、それも訓練の一つになりそう。

 プロテイン公爵家の使用人たちも、よく隠密訓練って言って、私の後を追いかけてきたからそれと似たようなものだろう。


「勝手な行動は――」

「それに……今のルシアン様は……なんかあまり好きじゃないです」


 私がルシアン様の側で働きたいと思ったのは、優しくて眩しい笑顔をしたルシアン様。

 どこか暗くて、大人っぽいのはルシアン様ではない。

 そんなルシアン様になってしまうなら、側付きマッチョとして『正々堂々と力で勝負』して解決すれば問題ない。


 ブレーメンを抱えたまま外に出る。


「おい、ここは屋敷の3階……うぎゃあああああ!?」


 肩に抱えているブレーメンもやる気があるのか、大きな声で叫んでいた。

 私は森の奥にあるウラギールに向かった。

お読み頂き、ありがとうございます。

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