30.筋肉令嬢、筋トレを教える
動物使いの男ブレーメンを連れて帰った翌日、私は彼の元へ向かった。
「あのー、イヌとネコの散歩に行かなくても大丈夫ですか?」
我が家で飼っていた上腕三頭筋は数時間毎に散歩をしていた。
それ以外は私と手合わせしたり、走ったりととにかく運動量が多い。
一匹……三頭でも大変だったため、私は声をかけたのだ。
『オソトコワイ……』
『ムリムリ、ココガイイ』
今もブレーメンの影から顔をひょっこりと出している。
「あー、すまない。あいつらは外には出たくないらしい」
動物にとってストレスを溜めることは、早死にするリスクがあってあまり良くないと聞いたが、ブレーメンのイヌとネコは問題ないようだ。
「それならロバさんを鍛えてきますね」
一方、ロバは思ったよりもゴブさんたちと相性が良かったのか、目が覚めた後にゴブさんたちの体を見て、一緒に鍛えたいと言っていた。
なんでもミノタウロスみたいな筋肉隆々になるのに憧れているらしい。
さっきもチラッと見たら、一緒に腕立て伏せをしていた。
二足立ちになれるようになったばかりだから、腕よりも脚を重点的に鍛えないと、バランスが悪くなってしまう。
ここは私がスクワットを指導しないとね。
「おっ……おう……」
男は戸惑いながらも、同じ仲間として私を見送ってくれた。
私も動物たちと仲が良いから、動物使いと思われているかもしれない。
でも、私はただの側付きマッチョだからね。
『「48、49、50」』
筋トレをしているロバの元へ向かうと、大きな声が遠くからでも聞こえてくる。
ゴブさんだけではなく、ガレスさんやアシュレイも一緒になって鍛えていた。
どうやら騎士団も一緒に参加しているらしい。
「私も一緒に参加していいかな?」
『「……」』
一緒に筋トレをしようとしたが、なぜか視線が集まってくる。
これは私が前に立って指導してほしいってやつだろうか。
「よし、ならプロテイン公爵家式筋トレ――」
「いや、俺は普通でいいからな!」
せっかく教えようと思ったのに、アシュレイに止められた。
別に教えるぐらいどうってことないのにな……。
『アニキサスガ!』
「命がいくつあっても足りないだろうからな」
ゴブさんとアシュレイは小さな声で話していた。
いつのまにか仲良くなったようだ。
「次はスクワットだ!」
ガレスさんの声に反応して、急いで肩幅に脚を広げる。
ちょうど良いタイミングでスクワットをするようだ。
私はその様子を眺めることにした。
「1!」
『「1!」』
「2!」
『「2!」』
ガレスさんが掛け声をしたと同時に、他の皆も一緒になって膝を曲げていく。
見た目は綺麗でも、これだと鍛え終わる頃には老人になっているだろう。
「やっぱり負荷が足りないな……」
プロテイン公爵家で受け継がれているスクワットはこんな簡単なものではない。
私は一人だけ姿勢を変えて、数をこなしていく。
「おい、あいつ何やってるんだ?」
「俺も試して……うっ……」
言葉ではああやって言っていたが、プロテイン公爵家式に筋トレが気になってはいたのだろう。
他の騎士も私のマネをしてみるが、中々姿勢を維持できないようだ。
「こんな簡単なのもできないのね……」
片足を上げて、反対側の脚のみでお尻を踵まで下げていく。
それから勢いよく飛びながら、膝を伸ばして着地する。
何回か同じ脚で繰り返したら、今度は支える脚を変えてひたすらしゃがみ込む。
「おい、なんでお前はできるんだ?」
アシュレイが声をかけてきたが、すでに脚がプルプルと震えていた。
自分ができないのが気になったようだ。
「慣れれば簡単だよ? 筋力を鍛えながら、バランス能力も補える。さらに繰り返せば耐久性も改善できる筋トレをしないと実践では使えない」
プロテイン公爵家で働く使用人も毎朝の体操としてみんなでやっていたが、これぐらい当たり前にできていた。
それもできないってことは鍛え方が足りないのだろう。
「やっぱりガレスさんは戦場を経験した筋肉の付き方をしているのか……」
アシュレイの視線の先には、スクワットをしているガレスさんがいた。
ここにいる中で、見よう見まねでちゃんとできているのはガレスさんぐらいだ。
ゴブさんすらアシュレイのように脚が震えている。
「そんな貧弱な体ではルシアン様の側付きは卒業かな? ははは!」
私はアシュレイを煽るように何度も繰り返す。
ルシアン様の側付きには、屈強な肉体がいるだろう。
森の中を駆け回ったり、移動は抱えて運ぶからね。
「やっぱりあいつおかしいよな……」
アシュレイは悔しいのか、何かをボソッと呟きながらも、プロテイン公爵家式の筋トレを続けていた。
『大変だ! 大変だ!』
筋トレをして過ごしている中、空からニワさんが飛んできた。
また鶏を連れてきたのだろうか。
「ニワさん、どうしたの?」
『町が魔物に襲われているぞ!』
「「魔物!?」」
私はアシュレイと顔を見合わせる。
まさか魔物と手合わせするチャンスが訪れたのだろうか。
「お前まさか魔物と手合わせできると思ってないか?」
「うっ……」
「はぁー」
最近のアシュレイはため息ばかりついている。
そこまで表情に出ていたのだろうか。
魔物使いと言われていたブレーメンはただの動物使いだったから、魔物と手合わせすることもできなかったし……。
「それでその町はどこだ?」
ガレスさんはニワさんに問う。
『オラやブレーメンがいた町だー!』
「「ウラギールか!」」
「胡散臭い町ね!」
ガレスさんとアシュレイと視線が合う。
なぜ、また私の顔を見るのだろうか。
ここ最近、何かあるたびに二人して私の顔を見る。
「「は――」」
「ため息はつかないでくださいね?」
私が拳を握りながら、睨み返すと二人は息を呑んだ。
何かあるたびにため息をついて、まるで私が世間知らずだと言いたいのだろう。
「魔物がいたからってすぐに行かないです。勝手なことをすると、ルシアン様に怒られますから!」
「さすがルシアン様だな」
「リリナを手懐けている」
ルシアン様を魔物使いみたいに……いや、私専属のリリナ使いなら悪い気はしない。
現にルシアン様の命令なら、喜んで聞く気がする。
「それで損害規模はどれくらいだ?」
『んー、たくさん!』
ニワさんの話では、鶏探しをしている時にウラギールが魔物に襲われているのを見たらしい。
そこら中から煙が上がっているようで、襲撃の規模も大きいようだ。
「ルシアン様に現状を伝えてくるから、お前たちは待機しろ」
「「はい!」」
私とアシュレイは声を揃えて返事をする。
「特にリリナは勝手な行動を慎むようにな! 魔物がいるからって、頭を突っ込むと国の問題になるぞ!」
そう言って、ガレスさんはルシアン様の元へ向かった。
私ってどれだけ魔物好きだと思われているのかしら?
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