表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄された令嬢、マッチョ売りに転職しました!〜筋トレのために男装してたら、王子の護衛にされました〜  作者: k-ing☆書籍発売中


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/40

27.筋肉令嬢、動物と力比べをする

 ――ガサッ!


 草を踏みしめるような音。だが、それだけじゃない。

 空気が一瞬、冷たく凍りついた。


「誰だ!」


 ネザライトコアを埋めていると、突然物音が聞こえてきた。

 アシュレイはすぐに剣を抜き、私も迷わずルシアン様の元へ駆け寄る。

 やっと側付きマッチョらしい仕事にワクワクする。

 それに強い魔物だったら、手合わせができるからね。


『おい、オラあいつ知ってるぞ!』


 ニワさんは嬉しそうに飛んでいくと、茂みの中でバタバタと羽を動かしていた。


「おい、痛っ!?」

『早く出てくるんだ!』


 ひょっとしてまたヒヨコだって、連れてくるつもりだろうか。

 しばらく待っていると、何かが転がってきた。


『どうだ! オラを操っていた人間だぞ!』


 ニワさんが茂みから引っ張り出したのは、くたびれた服に身を包んだ男だった。

 髪はぼさぼさ、目の下にはクマ、服には泥――見るからにまともな人間には見えない。

 どうだと言わんばかりの表情で胸を張るニワさんとは対照的に、男の顔はどこか困惑している。

 そんな男と目が合うと、すぐに男は警戒心を強めた。

 それよりも私たちはニワさんが話した言葉に耳を疑っていた。


「「魔物使い!?」」

「操られていたの!?」


 ルシアン様やアシュレイと目が合うとお互いに頷く。

 アシュレイは剣を、私は拳を男に突きつける。


「お前の目的は何だ!」

「魔物と手合わせさせてください!」


 私とアシュレイの言葉が重なる。

 再びアシュレイを見ると、大きなため息をついていた。

 それは私だって同じだ。

 せっかくの魔物使いに会えたなら、手軽に素早く魔物と手合わせができるんだ。

 同じルシアン様の側付きなのに、中々私たちって考えていることが違うのね。


『お前、久しぶりだな!』

「おいおい、わかったから突くなよ!」


 ニワさんは男を突いて遊んでいる。

 操られていたというよりも、距離感が友達に近いような気がする。

 まぁ、ニワさんってヒヨコを鶏って言うぐらいだから、友達に操られていたって言ってもおかしくない。


「それで魔物使いが私たちに何かようか?」


 ルシアン様は私の後ろから身を隠すようにして、男に問う。

 ひょっこりと顔を出すその姿――。


「ルシアン様、可愛いです」


 私の頬もついつい緩んでしまう。

 だが、ルシアン様とアシュレイは驚きの表情とともに、私を強く睨みつける。

 それもそれでルシアン様の良さが出ている表情だ。


「はぁー、お前は先に考えてから話せよ」

「アシュレイには言われたくないよ?」


 私よりアシュレイの方が考えてないと思う。

 考えていたら、私に腹筋を触っても良いって許可なんて出さないはずだ。


「リリナ、君は何のための側付きマッチョなんだ?」

「ルシアン様を近くで観察……見守ることです!」


 ついうっかり本音を言いそうになった。

 ちゃんと私だって考えて発言しているからね。


「そう……。なら、相手が誰かわからない相手に二度も私の名前を呼ぶってことは、私を守るつもりはないのか?」

「二度も名前を呼ぶ……はっ!?」


 私は無自覚にルシアン様の名前を呼んでいた。

 確かに何者かわからない相手の前で、護衛対象のルシアン様の名前を呼ぶってことは、ルシアン様を危険に晒すことと同じだ。


「申し訳ありません」


 私はすぐに片膝ついて、ルシアン様に首を差し出す。


「どんな罰でも従い……いや、この男を形なく握り潰せば問題ないですよね?」


 ルシアン様のことを知られたが、目の前の男を消してしまえば問題ない。

 私は立ち上がり、男の頭も掴もうとする。


「「『おいおい、待て待て!』」」


 今度はニワさんまで私を止めてきた。

 問題なのは目の前にいる男が存在しているからだ。


「チッ! みんな出てこい!」


 男は危険を感じたのか、一歩下がると影から何かが飛び出てくる。


『ヒヒィーン!』

『ガウ!』

『ニャー!』


 突然の光景に私とアシュレイは驚いた。


「くそ、本当に魔物使いか!」

「魔物使いじゃなくて、動物使いじゃん!」


 目の前にいるのは真っ黒なロバ、上腕三頭筋の半分もないイヌ、影の薄いネコだ。

 期待していた私はバカね。

 そんな簡単に魔物使いがいるはずない。


「俺の魔物たちを舐めるな! ここでそれを持っていけば、俺は家族を救えるんだ!」


 男は動物たちに指示を出すと、一斉に埋めたネザライトコアに向かって走り出した。

 イヌとネコが掘り出して、ロバが運んで行く気だろう。


『お前らやめ――』


 ニワさんが止めようとしていたがもう遅い。


「追いかけっこだね!」


 私は足に力を入れて、動物たちの元へ走る。

 たくさんの動物と戯れるのって懐かしいわね。

 でも――。


「すぐに追いついちゃうね」


 やはり動物相手だと張り合いがない。

 いつかちゃんとした魔物と手合わせがしたいが、それは当分先になるだろう。


『ヒヒィ!?』

『ガガガガゥ!?』

『ニャニ!?』


 私が急に目の前に現れたから、みんな驚いていた。

 まるで怪物を見るような目をして見てくるが、私からしたら驚いて二足立ちしていることにびっくりしている。


 ロバは荒い息をつきながら、前脚――いや、もはや腕と呼べそうな肢を振り上げてくる。


「ひょっとして、これなら力比べになるかしら?」


 私は笑顔でロバの前脚を受け止めた。

 手と手……いや、蹄と拳がぶつかる。

 だが、衝撃は拍子抜けするほど軽い。

 まるで綿を押し返すようだった。

 この中だとロバが一番大きいから、力も強いと思った。

 だけど……やっぱり魔物と動物の差は大きかった。


『ヒィーン!!』


 ロバはその場で男を呼ぶかのように泣き叫ぶ。


「待ってろ! 今すぐに魔力を送るからな!」


 男が答えるように叫ぶと、ロバの力はだんだんと強くなってきた。

 それでも私は二割程度の力しか出していない。


「おい、あいつウマ……ロバタウロスに進化しているぞ!」


 アシュレイは何か勘違いしているが、さすがにミノタウロスみたいなロバは存在しない。

 ミノタウロスってお父様や兄様よりも屈強な体をしていたはず。

 出会ったら死を覚悟しないといけない魔物と言われてる。

 そんなミノタウロスに似ていたら、お父様や兄様よりも強いはずだわ。


「お父様や兄様と手合わせしたら、この世界の人みんな死んじゃうわね」

『ヒヒィ!?』


 私はロバの手を掴んだまま持ち上げる。


「錘にしては軽いから、中々使い道はないわね」


 そのまま男に向けて、ロバを投げ返す。

 大きな音を立てて、ロバはその場で倒れ込むように寝転んでいた。


「次はあなたたちかしら?」

『ガウンー!!!』

『ムリムリムリムリ!』


 イヌとネコは二足立ちしたまま、走っていってしまった。

 我が家の上腕三頭筋なら、喜んで私にぶつかってくるのに遊び甲斐がないわね。

 ふと、上腕三頭筋の甘噛みが懐かしくなってきた。

 いつも頭、脇腹、足と一気に齧ってくるけど、痛くも痒くもなかった。

 

「さぁ、男を握りつぶして……あれ? 何で倒れてるんですか?」


 ルシアン様たちの元へ戻ると、男は地面に倒れていた。


『カゲカエリュ!』

『ムリムリムリムリ、ワタシオイシクナイヨ!』


 イヌとネコが交互に前脚で揺さぶっていたが、男はぴくりとも動かない。

 それでも、どこか幸せそうに口元だけが緩んでいた。

 そんな男たちをルシアン様とアシュレイは眺めていた。


「魔力の使いすぎだろうね」

「さすがルシアン様! 魔力の使いすぎって気づかなかったです」


 やっぱりルシアン様は色んなことに気付ける優しい人だ。

 私にはただ寝ているだけにしか見えないからね。


「魔物が目の前で進化する姿を初めてみたぞ」

「……それと比べアシュレイわね……」

「おい、なんだ」


 魔物でもなく動物なのに、魔物の進化と勘違いするなんて勉強が足りないわね。

 動物が立ち上がることなんて、当たり前にあることだ。

 屋外訓練に行く島の動物は、ほとんど立って歩き回っているからね。


「ううん、アシュレイらしいね」

「そんな褒めるなよ」


 私は笑顔でアシュレイの顔を見ると、なぜか嬉しそうにしていた。

 別に褒めたわけでもないのにね。

お読み頂き、ありがとうございます。

この作品を『おもしろかった!』、『続きが気になる!』と思ってくださった方はブックマーク登録や↓の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価して下さると執筆の励みになります。

よろしくお願いします(*´꒳`*)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ