20.筋肉令嬢、迎えに行きます
逃げ......急いで外壁作業に戻った私たちはすぐに旧セラフ側の外壁を作り始めた。
『ボス、完成しました!』
「もう完成したの!?」
「ゴブさんありがとう」
『ゴブ……サン……?』
一番体格の良いリーダーっぽいゴブリンこと、ゴブさんが声をかけてきた。
体格の大きさだけで判断していたが、さすがにトカゲさんと違って人数が多いから名前を呼びづらい。
それにゴブリンさんって呼ぶと、みんな首を傾げながら反応しちゃうからね。
さっきも声をかけたら、誰のことを呼んでるのって言わんばかりの顔をしていた。
「こっちも終わるから、あとで見に行くね!」
『ハッ!』
ゴブさんは頭を下げて、戻って行った。
『本当にあいつをゴブさんって呼ぶのか?』
「だってゴブリンだよ……?」
『はぁー』
なぜかトカゲさんは大きなため息をついていた。
ずっと働いているから疲れているのかな?
もうそろそろルシアン様たちを迎えに行かないといけない時間だものね。
解雇はしないと言われたけど、本当に側つきマッチョとしてやっていけているのか不安になってくる。
ここは弱い自分と模擬戦するのが……いや、せっかくできた外壁を壊したら、それこそルシアン様に嫌われてしまう。
私はさっきのことで学んだからね。
一つ筋肉が成長したわ!
『よし、一通りできたから、あいつらを迎えに行くぞ』
「はーい」
私はトカゲさんの背中に乗って、セラフに向かって行く。
途中で旧セラフを横目で見たが、しっかりと住めるような見た目にはなっていた。
みんな疲れたのか、その場で死んだように眠っている。
きっと眠っているんだよね……?
明らかに死んだような顔をしているけど、大丈夫かしら?
さすがに働かせすぎとかではないと思うけど……。
私は屋外訓練で三日は寝なかったけど、たった一日だから大丈夫なはず。
それよりも、まずはルシアン様を迎えに行くことが大事。
セラフに着く頃には、ルシアン様たちは入り口で待っていた。
そこにはジャックと、彼のお母さんの姿もあった。
さらにガレスさんやアシュレイも並んで立っている。
「ルシアン様、準備ができました」
「本当に向こうまで外壁を作ってきたの?」
「もちろんですよ?」
私の言葉にルシアン様は嬉しそうにしていた。
ルシアン様に会った時はまだ暗かったから、遠くまでは見えなかったのだろう。
今は旧セラフまで一本道のように囲まれているから、奥まで見えるもんね。
ただ、後ろにいるガレスさんやアシュレイは呆れている。
「リリナー、今度は何をやらかしたの?」
「旧セラフを綺麗にしたから楽しみにしててね」
どこかジャックの聞き方に違和感を覚えたけど、何をしていたのか聞いていたのよね?
旧セラフが綺麗になれば、住む場所も増えて嬉しいはず。
「じゃあ、トカゲさんの上に乗りましょうか」
私はルシアン様の近くに行くと、不思議そうな顔をしていた。
ルシアン様の大きさなら、トカゲさんの背中に乗っていたら、落ちるかもしれない。
最悪な事態を招く前に、私は先手を打つことにした。
「側付きマッチョはご主人様を安全にお運びするのも仕事です」
私はルシアン様の腰に腕を回し、もう一方の手で膝の裏を抱える。
優しく力を入れて持ち上げると、ルシアン様の体がふわりと私の腕の中に収まった。
「わわわっ……!?」
ルシアン様の透明感ある瞳に私の姿が映る。
お姫様抱っこをするのは、初めて会った時以来だ。
少しこの間と反応が違うのは、少し汚れているからかしら。
もしくは汗臭かったりするのかな……。
「こんな側付きマッチョは嫌ですよね……?」
「どうしてそんなことを言うんだ?」
ルシアン様はそっと私の頬に触れる。
頬が今まで感じたことのない熱さで焦げてしまいそうだ。
「だって……ルシアン様が驚かれて……」
「私だって男性だ。抱きかかえられて、恥ずかしくなる――」
「うわわわ!?」
私は忘れていた。
ルシアン様が男性で、こんなに至近距離で抱きかかえていたことを――。
ただ、ルシアン様を落とすわけにもいかないし、どうすればいいのかわからず、頭が真っ白になってきた。
「あー、はいはい。そういうのは俺らの前ではやめてください」
何事もなかったかのように、ガレスさんはルシアン様を脇に抱えた。
いくら騎士団長だからって、ルシアン様の扱いが雑なような気がするわ。
「おい、ガレスは私に乱暴だろ」
「そんな純情なこと言って、中身は――」
ルシアン様はそのままガレスさんを蹴ると、地面に着地する。
その姿は宙を舞う蝶のようだ。
「ここでそれを言ったら、どうなるかわかるだろう?」
「ああ……そうか……」
ルシアン様とガレスさんは、なぜか私の方を見ている。
これは褒めてほしいってやつなのかな?
「わぁ、ルシアン様! 華麗な着地です!」
私はその場で大きな拍手をした。
これで間違いないだろう。
「「「……」」」
だが、誰一人として拍手を返さず、私の両手だけが虚しく宙を叩き、静かな音が鳴り響いていた。
風も止まり、空気だけがひんやりと背筋を撫でていく。
「さぁ、アースドラゴンに乗るの楽しみだなー」
「さすがに俺も乗ったことないからなー」
何事もなかったかのように、ルシアン様とガレスさんはアースドラゴンの背中に乗っていく。
「リリナー、きっと働き過ぎなんだよ」
「ちゃんと寝ないといけないわよ」
ジャックとジャックのお母さんも、恐る恐るアースドラゴンの背中に乗って行く。
やっぱり寝不足なのがいけないのかしら?
「きっと寝不足じゃなくて……元からおかしいんだ」
軽く肩をアシュレイに叩かれる。
みんなの後を追うように、アシュレイもアースドラゴンの背中に乗っていく。
私がおかしいって……?
「んー、それはないかな!」
きっと寝不足で聞き間違えたのだろう。
私がおかしかったら、お父様や兄様だっておかしいことになるわ。
だって、家族やプロテイン公爵家で働く使用人ってみんなこんな感じなんだもん。
みんながアースドラゴンの上に乗ったため、私も急いでアースドラゴンに跨った。
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