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第9話


大人のクロワさんは“陽だまりの午後”が一番のお気に入りのようだ。そして、以外にも“秘密の小道”のスパイシーな味も好きみたいだ。

クロワさんは甘さ控え目で酸味やスパイシーな味わいが好きなようだった。


ちなみに、こっちの世界でもハーブという言葉は通じているだが、こちらでは、ハーブはドライフラワーのような飾りのイメージだね。

自分たちが飲んでいるマリーゴールドはお茶という物と思っているようだ。私から見るとマリーゴールドは完全にハーブだけどね。


「意外だったわ! 今まで飲んだことがあるお茶とは全く違うわ。エマも言っていたけど、果実水にも似た甘さや、酸味があったり、香りも様々な種類があって楽しかったわ。ええ、ええ。これなら売れるわよ! 私も欲しいわ」


おお、思った以上に好評だった。そして何故かそのまま値段設定まで一緒に考え始めてしまった。


今回、試飲用に少量ずつ入れてきたので、この小袋一袋で値段をつける事は出来けれど、大体、ティーカップで十杯ぐらい飲める袋詰めの場合は、鉄貨一枚、日本円に換算すると千円ぐらいにしてみた。

どのブレンドハーブティーも同じ値段にした。細かく設定するのが面倒……ゲフン、ゲフン。そこまで細かく金儲けがしたいわけでは無いから、ある程度貰えたら、それで良いかなって思ったんだ。

そもそも厳密に考えると、“小鳥のさえずり”は五種類のハーブを微妙に調整しているので手間もかかるし、個々のハーブに値段をつけると、一番コストがかかるお茶になるはずだ。

しかーし。私の場合、草木育成スキルと調合スキルを使えば簡単に量産できてしまうのだ。材料は、家の畑と庭で集められるから超簡単! だから、どんぶり勘定でも大丈夫。


「それにしても、お茶で商売をしようと思たんだい? リセさんは商売に興味でも?」


「いやー。恥ずかしいことに実は、私、服を持っていなくって毎日同じ服を洗っては着ているのですが、夜は着る物が無いから真っ裸なんですよ。だから、服を買いたくって……村に服は売ってますよね?」


「あらあら。年頃の娘さんが何てことでしょうね。リセさん、そういうことは早く言いなさいね」


ハッハハ。クロワさんに思いっきり呆れられたよ。さらにエマちゃんからも白い目で見られてしまった。


「でも、それとハーブティーの販売は何の関係が……??」とクロワさんは首をかしげた。


「あー。分かった! リセさん、お金持って無いのね!?」


「いやー、エマちゃんご明察! 実はその通りなのですよ。服を買うにも、お金が全くなかったから、どうしたものかと思いまして……」


「あぁ! リセさん、忘れていたわ! 村長にはまだ会っていないのよね! 前に来てくれた時に連れて行ってあげれば良かったわ、ごめんなさいね。実はユリカさんが、お金を村長に預けているのよ。そのお金とあの家は、次に迷い人が現れたら渡してくれって言い残してね」


クロワさんが申し訳なさそうな声で言った。


「え! えぇぇ! お金を遺しておいてくれたのですか!? それは確かに、突然この世界に来た迷い人にとっては助かるけど……あ、私、森の中で気が付いて、それから、あの家に勝手に住みついちゃってますけど……」


いやーマズイですね。これ、元の世界なら不法侵入ですよ。こっちの世界では、分からないけど筋は通さないと駄目ですね。

これは、服どころではない。まずは村長さんに挨拶しないといけない!


「そうだ! クロワさん、私、あの家に勝手に住んじゃっています。マズイですよね。急いで村長さんに会う事は出来ますか?」


「村の中じゃないんだもの大丈夫よ。ただの森の中の空き家に住んでも怒られないわよ」


私がアワアワしながら話すと、クロワさんがクスクス笑いながら話してくれた。

あぁ、良かった。そんなにマズイ問題では無さそうだ。それでも、ちゃんと挨拶はした方が良いだろうと思って、やはり村長さんに会いたいと言うと、エマちゃんがパンの配達ついでに道案内してくれることになった。


「それでは、村長さん家にしゅっぱーつ!」というエマちゃんの元気な声で、手を引かれながら店を出た。もちろん私のハーブティーを入れてきた例のかごは、クロワさんに預かって貰うことにした。


その一方、エマちゃんは小さなリックを背負った。そのリックの中に配達するパンを入れていく。小さなリックなのに、どんどん入って行く。

ああ、これこそが今朝、私がほしがっていたマジックバッグだよ。これを持っていないから、かごを背負ってきたのだが、その所為で、村の人たちに注目されてしまったんだった。この世界では、大きなかごに荷物を詰めて歩いている人は居ないのかもね。


エマちゃんに手を引かれながら村の中へと進んでいく、村と言ってもかなり広いようで、エマちゃんの話では、村は東西に出入口が設けられており、それぞれ街道とつながっているそうだ。私が住んでいる森は、村から見ると東側に位置するようで、私が、この村に来るときに通って来るのが、東口のようだ。

そして、エマちゃんやクロワさんたちのお店も東口の近くだけど、村長さん宅は反対の西口の方にあるらしい。


村の中頃まで進んでくると、そこには大きな広場が見えて来た。広場は大きく公園のようになっていた。前にエマちゃんが言っていた村の市もここで開催されるそうだ。

今は、何もイベントは行われていないが、それなりに人は居るようで、あちらこちらのベンチに腰をかけ、おしゃべりに花を咲かせている人たちを見かける。


「あ、そうだ。あれが、お裁縫屋さんだよ。あそこで服を作ってもらったり、布だけ買ってて、自分で作ったりするの」


エマちゃんが教えてくれたお店は、広場のすぐ前にあった。一階部分はレンガで、二階部分を土壁と木組みで作られたお洒落な建物だった。

何でも、一階部分に出来上がった状態の服や布や糸が売られていて、二階には針子と呼ばれる裁縫職人さんが居て、直接、服を仕立ててくれるそうだ。

ふむ。日本風に考えると、一階が既製品販売で、二階がオーダーメイドってところかな。


それ以外にも、広場周辺には定食屋兼酒場、精肉店、雑貨屋、武器屋などがあった。おおっと、武器屋という事はリンドさんのお店のようだ。

流石にファンタジーな世界だ。ちょっと興味本位で、どんな武器が置いているのか覗いてみたい気がするけどそれは、また今度だね。


広場を過ぎて、しばらく歩くと牧場があった。牧場には、すごい毛の長い巨大な動物が、太い木の柵の中で放牧されている。

しかし、柵と言っても、私でも跨いで乗り越えられるほどの高さしかない。そこにいる巨大生物なら難なく乗り越えられるし、何なら気が付かずに、踏み潰して出てきそうな気がする。


どうやら、私たちは、その牧場のすぐ横を通るようだけど……


「あの、エマちゃん。あの大きな動物は襲ってこないの? 大丈夫なの??」


ちょっと不安になって、十歳ぐらいのエマちゃんの腕にしがみ付きながら聞いてみた。

えっ!? 私ですか? 私は三十二歳ですが、何か!?


「うん。大丈夫だよ。“ウシ”さんはね、おとなしい草食動物なんだよ。だから人を襲ったりはしないよ」


ああ、なぁんだ牛か……って思えるかぁぁ!!

こんなにデカい牛がいてたまるか。私の知っている牛の二倍以上はあるよ。足の太さは私のウエストぐらいある。これは、たぶん日本の動物園で見た象よりも大きさかな。

ん? でっかい牙もあるし、デカい耳があって、鼻は長くないけど……これ、鼻の短いマンモスなのでは?

あんな木の柵なんて簡単に壊せそうだけど平気なんだね。

うーーん。近寄らないでおこう!


その後も順調に村の中を進み……村の中だから順調なのは当たり前か、普段は十歳の女の子が一人で行き来出来るんだものね。

ようやく村長さんの家に着いた。



次は16時から投稿を再開します

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