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第8話


坂道を下りながら、この世界観を考えていた。

スキルなどと言うモノがあるって事は、きっと、ここはファンタジーの世界なんだろう。

しかし……私は今、どう見ても一昔前の田舎の農家だ。

私は、ドライハーブが入ったかごを背負って、えっちら、おっちらと山道を歩いている。

果たして、これで良いのだろうか?


家にいっぱいあった薬包紙を使って、ティーポットで一度に淹れられる量に小分けにして来たのだ。さらに、ティーポットとカップも持参してきたので、結構な荷物だ。ファンタジーな世界なら、マジックバッグのような物は無いのかなぁ、それとも魔法でひょいと転移できるとかね。


そんな、くだらないことを考えながら、山道を下って村の入口についた。

クロワさんのパン屋さんは覚えているので、かごを背負って村の小道を歩いて行く。ここで余計な人に声をかけたりはしない。

そうそう。私はどこかのファンタジー小説のように、余計な騒動を巻き起こすつもりは無いのだ。


まあ、騒動を起こすつもりは無くっても、思いっきり注目を浴びている気がするね。ちょうど畑仕事をする時間帯だったのか、道中の畑でお仕事をしている人達からジーーッという音が聞こえるぐらい見られている。


はっはは。参ったね。

これは、私の顔が東洋系だからみられているのか、それとも、今時、かごを背負っている人は居ないのか、はたまた、私の服装が変なのか??

いや、服装は大丈夫だと思う。思いたい! 先日と同じ服だーーとは思われていないよね!!

うーん、顔かな、それともかご??


背中に多くの視線を感じながらクロワさんのお店に辿り着く。


「……疲れた。何故か、村に入ってからの方が疲れた」


お店の扉を開けると、クロワさんの元気な話し声が聞こえた。……あ、お客さんと話している最中だったみたいだね。


「おや、リセさん、いらっしゃい!」


クロワさんは、私の顔を見ると、お客さんとの会話を中断して声を掛けてくれた。


「こんにちは。また来ました」


ふっと、お客さんを見ると、老齢の男性だが、日に焼けた浅黒く大きな体。タンクトップに皮のエプロンを着て、むき出しの腕は、はち切れそうな筋肉。肩幅が広く胸板も厚い。元の世界ならボディービルダーかと思えるような体つきだ。

そんな彼は、優し気な目で私を見て会釈してくれた。私も、何となく会釈で挨拶を返した。


「あ、あの私、森の向こうの小さな家に住んでいるリセと言います。時々、村にも顔を出しますので、よろしくお願いします」


おじいさんは私に微笑んでくれた。


「やあ、初めまして。ワシはこの村に住むリンドと言う者じゃ。武器屋兼鍛冶屋をやっとる。武器屋と言うが、どちらかと言うと鍋の方が売れとるがの。まあ何かあったら遠慮なく声を掛けてくれな」


リンドさんは、細長いパンを三本も小脇に抱えてお店から出て行った。

リンドさんが店を出ていくと、急に店の中が広くなり、温度も少し下がったような気がした。


「フッフフ、見ているだけで熱い人でしょう。その分、心も温かい人よ。何かあったら相談すると良いわよ。ところで、その荷物は?」


「あ、そうでした。ついリンドさんの見た目に圧倒されてしまいました。実は私は、前の世界にいた時からお茶に興味があって、この世界で、オリジナルのお茶を売り出せないかなと思ったのですよ」


背負っていたかごを降ろして、ハーブティを一回分ごとに包んだ紙を見せた。


「ただ、こっちの人たちの好きな味とかが分からないから、一度クロワさんとエマちゃんに試飲して欲しくって持って来たのですよ」


「うーん、お茶かい。せっかく持って来てくれたので、言いにくいけどね、私たちの村では、自分たちでマリーゴールドを育ててお茶を作ってるのよ。だから売れないと思わよ?」


まあ、そういう反応になるかなって思っていたんだ。だって、この前来た時もクロワさんがマリーゴールドのお茶を出してくれたからね。

だから、他の人も同じように自分で作って飲んでいるんだろうなって思っていたんだ。


「はい。普段もマリーゴールドのお茶を飲まれている事は、わかっていました。それでも一度、私のお茶を試してみてもらえないですか? 他の世界から来た人のお茶は少し違うかも知れませんよ」


「そうですか? まあ、そこまでおっしゃるなら、今度は興味が出てきますね。ぜひ体験させてください。ちょっとエマも呼びますね」


そう言って、クロワさんはエマちゃんを呼びに、店の奥に入って行った。うん。まずは試飲してもらわないと始まらない。


「リセさん、こんにちは。今日はリセさんの世界のお茶が飲めるの?」


「ふっふふ。まあ、そうとも言えるね。私が向こうに居たときに作ったお茶を、こっちの植物を使って再現したからね」


エマちゃんと話しながら、前回来た時と同じく、店の奥にある作業部屋に入って行った。作業部屋の机を借りて準備を整える。今回は試飲用に小さめのカップと、ドライハーブも少量ずつ包装して持って来たんだ。これをティーポットに入れる。


お湯はクロワさん家で貰うことにした。本当は温度とかも拘りたいけど、今回はお店で出すのではなく、自宅で飲む為のものだから気にしないことにした。

それでも注ぎ方には気を付ける。お湯を注いだら急いでポットの蓋を閉めて、三分ほど蒸らす。この蒸らすことで香りと有効成分が抽出されるからハーブの種類に応じて時間を変えるのが大事。もちろん長すぎてもエグミや苦味が出てくるので駄目なのだ。


最後に、ティーポットのお湯を軽く揺らしてお茶の濃度を均一にしたら、茶漉しを使ってティーカップにハーブティーを注いでいく。

まずは、“陽だまりの午後”から出してみた。おそらく今回用意したお茶の中で攻めすぎず、守りすぎないが飲みやすく、それでいて、ちょっとクセになる味だと思うけど……

カモミールの青りんごのような甘く爽やかな風味を前面に出しながら、リンデンでフルーティー感を強めて、ローズヒップで後から来る酸味を醸し出す。


「ふわー。おいしい!! いつものお茶はそんなに味は無いけど、このお茶は果実水のような味がする」


「ほぉぉ。おいしいわね! 私が飲んでいるお茶は花との香りだけど、これはリンゴかしらね。少し甘酸っぱい味なのね」


うん、うん。いい感触だ。次はちょっと違った刺激を与える“秘密の小道”。セージとローズマリーのちょっと苦味とスパイシーがあるが、すっきりした味わいに、エルダーフラワーのマスカットのような風味で苦味を少し抑えつつも、シナモンが後味を残すという冒険心がある味わいだ。


「うわっ。これは癖がある味ね。ちょっと私は苦手かな」


「ふっふふ。エマちゃんには不評のようだね。子供は苦手かも知れないな。でも、これ風邪の引きはじめには良いのよ。最初に飲んだ方は疲労回復、血行促進に良くって、女性には特に良いわね」


エマちゃんが一番気に入ったのは、“星降る夜に”だった。これのお茶は見た目が綺麗な青色をしている。この色合いはバタフライビーから出ているのだけど、バタフライビーはほとんど無味無臭。これだけなら、ただの青いお湯になってしまうのだ。アニスから出る甘くてスパイシーな味に、少しミントを効かせたバニラ草の風味を入れることで甘く飲みやすい感じにしたのだ。

そして、二番目は“小鳥のさえずり”だそうだ。やはり子供は甘めの方が好きなようだね。



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