第44話
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ユイナちゃんと共に村に帰って来て、そっそくノアさんに薬を届けると。私は、急いで森の中の家に戻ることにした。
何故、急いで家に戻ったか、それは……帰ってきた村では、更に状況が悪化していたんだ。どうやらこの風邪は単なる風邪と侮らない方が良いようだ。
ノアさんが言うには、今はやっている風邪は、数年前に、この国を襲った風邪に匹敵する凶悪なウィルスに似ているそうなんだ。なんでも、当時の人口の三分の一が罹り、そのうちの三パーセントが亡くなったそうだ。特に各地の村では薬の不足により死者は酷い状況にまで発展していったという。
当時、ここ、ミリール村でもウィルスは猛威を振るい、ほぼ全員が罹患し、死者は十七人となったそうだ。それは村の人口の十数パーセントが亡くなったという事になる。
……そのときユイナちゃんの両親やエマちゃんの両親も亡くなったそうだ。
ここは、日本では無い。医療機関が整っているわけでも、薬が潤沢にある訳でもない。ましてや村になると、もっと乏しくなる。ちょっとした病気や怪我で命を落とす世界なんだ。感染力が高く、毒性が強いウィルスが広まると、村が丸ごと全滅することもあるそうだ。
それが、今年は急な寒波と長雨も重なって、更に状況が悪いという。
「買えた薬の量が思ったより少なかった。あの量では、村人たちに行き渡らない。だったら、足りない分をハーブティーにして届ける!」
これが私の出した答えだ。私の草木育成スキルと調合スキル、鑑定スキルを使えば、あの風邪薬を超える飲み薬……ゲフン、ゲフン。
ハーブティーを作ることが出来るはずだ。それを村人に提供しよう。なーに、単なる試飲だよ。
ただ、どうしても加工に時間がかかってしまう。急いで株を殖やして収穫しないと。スキルは全力全開で使いまくる。村は全員が顔見知り。迂闊に様子などしている間に、誰かが帰らぬ人になるかもしれない。
力の出し惜しみはしない。勇み足でも構わない。
今やらなくって、いつ全力を出すというのだ。死人が出てからでは遅い。
雨の所為で湿度が高く、生薬の乾燥に時間がかかってしまうので、収穫した物をユイナちゃんの方で、細かくみじん切りにして乾燥棚に並べてもらう。
そう、ユイナちゃんには秘密を話すことにしたんだ。だって、そうしないと間に合わない――そんな気がしたんだ。
私の家のテーブルは、いまやハーブと乾燥棚でいっぱいだ。
いつもなら香りを楽しみながらのんびり作るお茶も、今日ばかりは違う。時間との勝負だ。
「ユイナちゃん、こっちのショウキョウもお願い! 細かくして、棚の手前側に」
「はいっ!」
ユイナちゃんは額に汗を浮かべながらも、必死に作業をこなしている。いつも明るく元気な彼女だけど、こういう時の集中力と根性は本当にすごいと思う。
ポチは窓辺で外の雨を眺めながら、時折私たちの方を見て小さく鳴く。「まだ終わらないの?」って言いたげだ。でも、もうひと踏ん張りなんだよ。
私の草木育成スキルで無理やり成長させたハーブたちは、どれも青々としていて力強い。この子たちに命を繋いでもらわなくちゃ。
調合スキルで薬効をきちんと引き出し、鑑定スキルで最終チェック。配合は何度もシミュレーションして、ようやく一つのブレンドが完成した。
鑑定すると『ポーション』と出てくるけど、うん、そんな変な名前のお茶だよ。
「よし……できた。これなら、きっと効くはず」
私は湯を沸かし、大きなポットにハーブを淹れて試飲した。ほのかに甘く、でも芯のある苦味。どこか懐かしくて、身体がじんわりとあたたかくなる——このお茶なら、きっと。
「よし、これをみんなに届けよう。ただの試作品ってことで」
「はいっ!」
私たちは、湯気の立つポットとたくさんの木製カップを持って、雨上がりの村へと向かった。
◇ ◇ ◇
「こんにちはー、新しいハーブティーの試作品です! 良かったら、飲んでみませんか?」
そう声をかけて回ると、最初はみんな半信半疑だった。こんな非常時に新作のお茶なんて、と首をかしげる人もいた。けれど、私が「どうしても試飲してもらいたくて」と頭を下げると、皆少し困った顔をしながらもカップを受け取ってくれた。
そして——飲んだ瞬間、変化が現れた。
「……あれ、身体が少し楽になったような……」
「背中の痛みが、なんとなく和らいだような気がするわ」
「喉の痛みが消えた。なんだか頭もすっきりした……!」
それでも私は首を横に振った。
「気のせいですよ。ほら、ハーブティーってそういうものでしょう? リラックス効果とか、なんとか」
誰か驚いた顔をして言った。「あんた、これって薬じゃないのかい?」
「薬師じゃないんだから、違いますよ。これは、ただのハーブティーです、ええ、絶対に」
「なるほど……じゃあ、これは“お茶”ってことで」
誰かがそう言うと、周囲の人たちもふっと笑った。そして、ぽつりぽつりと、「ありがとう」と声が上がり始めた。
それは雨上がりの村に、ぽつぽつと灯りがともるような、静かだけど確かな変化だった。
村の人口は約百人。誰もが顔見知り。
知っている顔が、居なくなるのは寂しい――だから、出来る努力は惜しまない!
「リセさん……あたし、なんか泣きそう」
ユイナちゃんがぽつりと呟いた。
手には空になったカップの山。そして目の前には、笑顔で見送ってくれる村人たち。
「私たち、何もできないって思ってたけど……こうして少しずつ、誰かの力になれるんだね」
「そうね。ほんの一杯のハーブティーだけど、ちゃんと届いたんだと思う。気持ちも、温もりも」
ポチが静かに私の足元にすり寄ってくる。小さく尻尾を振って、「よくやったね」と言ってくれてるような気がした。
夕暮れが近づくと、雨雲の切れ間から、ほんの少しだけ陽が差した。それはまるで、この村に訪れた小さな希望のようだった。
「さ、もう一回、調合して、また明日も配らないとね」
「うんっ!」
ユイナと私は、また次の一杯を作るために、家へと戻った。
これは、誰にも見えない“小さな戦い”
ここは、私の村だ!
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