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第43話

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朝方の雨は少しだけ弱くなっていたけれど、空はどんよりと鉛色の雲に覆われていた。小雨がパラパラと降り続ける中、私はユイナちゃんとポチを連れて村を出た。

ノアさんから借りた木製の馬車は少し古びていたけれど、ちゃんと整備されていて、荷台にはしっかりと雨よけの帆もついている。


「リセさん、座っててくださいね! あたしが、ちゃんと御者やりますからっ」


意気込んで手綱を握るユイナちゃんの背中は、いつになく頼もしく見えた。でも、まだ背も小さいし、雨でぬかるんだ山道は決して簡単じゃない。私は彼女の隣に腰かけながら、いざという時には手伝うつもりでいた。

もちろん、私には馬車を操縦した経験も知識ないから完全に代わってあげることは出来ない。彼女に頼るしかないというのは少し心苦しい。


ポチはというと、私の足元でくるりと丸まって眠そうにしている。馬車の揺れが心地いいのか、それとも私たちの不安を感じ取って、落ち着いていてくれているのか。


「ポチって、ほんとすごいよね。リセさんといるときは甘えん坊なのに、こういうときは落ち着いてるし」


「そうだね。頼れる相棒だよ。でも、ユイナちゃんも頼れる相棒だよ。馬車を操縦できるなんてすごいね。ユイナちゃんが操縦できたから、こうやって町に薬を買いに行けるんだものね」


私はポチの背を撫でながら、ユイナちゃんに微笑んだ。

ユイナちゃんは照れながらも、真剣にしっかりと手綱を握って前を見ている。その横顔はキリっとして、本当の年よりも随分とお姉さんに見えた。


雨の匂いに混ざって、少しだけ木々と枯葉の香りがした。秋のような、そんな空気。

道中、何度か馬が足を滑らせてヒヤリとしたけれど、ユイナはしっかりと手綱を握っていた。彼女はふだん、私の店で元気いっぱいに立ち働いているけれど、こうして外で風に吹かれている姿を見ると、また違う一面が見えてくる。


「ふう……っ。なんとか、抜けたみたいです!」


「よく頑張ったわね、ユイナちゃん」


「えへへ、えへへ……えっへん!」


ふくらんだ頬が雨に濡れて、少しだけ照れているように見えた。ポチが前足でユイナちゃんの膝をちょんちょんと突いたかと思うと、ぺろりと頬を舐めてくる。


「ちょ、ちょっと、ポチ! 顔はやめて~!」


ふたりと一匹の、ちょっとした笑い声が雨音に混ざった。こういう瞬間が、どれだけ心を軽くしてくれることか。


 ◇ ◇ ◇


町に入ったのは、ちょうど昼を過ぎた頃だった。

思っていたよりも大きくて、村の家々よりもずっと高い建物が並び、人通りも多い。私たちが馬車で通ると、人々が少し驚いたように振り返った。


はっはは。そりゃそうだよね。いくら何でも八歳の子が御者を務めている馬車なんてみたことがないよね。この世界に馬車の運転免許が無くって良かったよ。さて、エンドラさんからもらった地図を広げて、目的の薬屋を探す。


「えーっと、この角を曲がって……あっ、あった! 『風花薬舗』って、ここ!」


ユイナちゃんが指さした先に、小さな看板のかかった店があった。簡単に見つかって良かったよ。木造の扉を押して中に入ると、薬草の独特な香りと、乾燥棚に並べられた薬瓶がずらりと目に入ってくる。


中には年配の女性が一人、帳面に何かを書き込んでいた。


「いらっしゃいませ。あら……あなたたち、旅人かしら?」


「いえ、山の向こうにあるミリール村から来ました。風邪が流行っていて、薬を分けていただけませんか?」


「まあ……あの村から。こんな雨の中、ご苦労さま」


事情を話すと、女性は頷いて、棚から薬瓶を取り出してくれた。風邪薬は粉薬のようだった。こっそりと鑑定すると品質の良いものばかりだった。


「お代は——」


「はい。ちゃんと準備してきました」


ノアさんから預かった袋を差し出すと、女性は頷いて、手際よく品を包んでくれた。


「ただね。この町でも風邪が流行っているから、全部は渡せないの。だから、ごめんなさいね。今、渡せるのはこれだけしかないの。気をつけてお帰りなさい。雨もまだ続くそうですから、今日は宿を取ったほうがいいでしょうね」


私たちは薬の包みを大事に抱えて、町の外れにある宿へと向かった。


 ◇ ◇ ◇


宿屋に向かう途中、エンドラさんから貰った地図に書かれていた苗木屋があった。


「リセさん、あの店を見てきたいんでしょ。良いですよ。わたしは、ここで待っていますよ」


あっはは。見抜かれてしまったね。そりゃ、ユイナちゃんは、地図を貰う時の会話も聞いていたから知っているよね。


「それでは、すぐに戻って来るから、ちょっとだけ待っててね」


そう言って、私は走ってお店に向かった。


お店は通りに面した間口は狭かったが、奥行きのある佇まいだった。えっと昔の言い方だと“うなぎの寝床”ってところかな?

とにかく、店の中は狭いが奥まで続いている。野菜や花、果物、穀物そしてハーブから薬草まで色々な種や苗が売っている。


……先ほど、『風花薬舗』で買った風邪薬。鑑定させてもらったんだよね。

その結果、必要な生薬とその比率が分かった。ただ、その生薬は私の畑には無い物もある。それらも、この店で手に入れる事が出来れば村で量産できる。当然、薬師では無い私が作るので、薬として売ることは出来ない。だったら、あくまでもハーブティーとしてお店で出してしまえば良いよね。それでも、症状の緩和にはなる。


そんな、少しズルを考えながら、店内を見て回る。


「えっと……マオウ、タイソウとあとはカッコンか。それ以外は家にあるから大丈夫だね。おっと、そもそも目的だった茶葉の苗も買ってと」


一通りそろったので、急いでお金を払って、ユイナちゃんが待っている馬車に戻る。


「お、お待たせ! これで、茶葉だけでは無く、村で風邪に効くお茶を作れるよ」


「えぇー、風邪効くお茶なんてあるのですか?」と驚くユイナちゃんに、説明は後でするからと言って馬車を走らせてもらった。

だって、このまま雨の中で説明していたら、今度は私たちが風邪をひいてしまうよー。



町の宿は、こぢんまりとしていたけれど、しっかりとした造りで、清潔だった。木の階段を上がった二階の部屋に案内されると、広めのベッドが一つに、机と椅子がひとつ。窓の外には町の屋根が並び、遠くの山々は雨に煙って見えていた。


「ふああ~……疲れた~!」


ベッドにダイブするユイナを見て、私も思わず笑ってしまった。


「ユイナちゃん、今日は本当に助かったわ。ありがとう」


「えへへ……でも、リセさんが一緒だったから、あたしもがんばれたんだよ。それで、さっきの風邪に効くお茶って?」


「ああ、あれね。そもそもハーブの種類によって、様々な効能があってね、先日、オルドさんの家に行ったときに淹れたお茶も風邪に効くお茶だったんだけど、ただ、それほど強い効果がある訳では無いから、風邪の予防とか症状の緩和になるんだよ」


こうして、ユイナちゃんにハーブが持つ効能について説明をしていった。

うーん、そう言えば、私は、ハーブティーは香りや見た目だけでは無い事を、ちゃんと話していなかったかもね。前の世界では、東洋で漢方があり、西洋ではハーブが薬として利用されてきた。

だったら、この世界では両方をまとめて扱っても問題は無いよね。

私にとっては、あくまでもハーブとして、風邪薬の成分も含めてハーブティーにしてしまうことにしたんだ。


私は、薬師ではないけど、村の皆の為に、少しだけズルをさせてもらうことにした。


ポチがベッドの端にひょいと飛び乗って、ユイナの足元に丸まった。

雨はまだ降り続いているけれど、町の灯りがぽつぽつと灯り始めていて、どこかほっとする光景だった。


「明日には晴れるといいわね」


「うん。ポチと一緒に、帰り道もがんばろうねっ」


「ええ。……私たちなら、大丈夫よ」


私はそう言って、ユイナの方を振り返った。彼女の笑顔が、雨の中の一輪の花のように、あたたかく見えた。



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