第28話
「んで、こんな感じで荷車の上に小さなお店が乗っている感じで、止めてお店をするときは足を立ててね」
がらくた屋に火打石を買いに行ったときに、ついでに買った蝋板を使って絵を描いて見せる。
「……なるほど。移動式の……カウンターのような?」
「うん。まあ、そうだね。お湯も、カラ袋にあらかじめ入れておけば良いから、カウンター程度でも出来るかもね」
「じゃあ……作って来る」と言うとカイさんは、またしても走って出て行ってしまった。
「ありゃ、カイさんったら、リセさんの笛はどうなったのかな??」
はっはは。これは職人魂に火がついてしまったようだね。まあ、気持ちは分かるよ。きっと、新しい事を知った事で、それを作りたくなったんだろうね。
それはともかく、明日の「村の市」の方だね。本当に勝手に店を出して良いなら、ハーブティーを売り出してみるか。
「ユイナちゃんも、ハーブティーのブレンドをちょっと手伝ってもらおうかな」
この世界はコンマ何グラムとかは気にしないだろう。目分量で大丈夫。
だから、ユイナちゃんの目分量と私の目分量に差があっても問題ない。
二人で、せっせと紙で小袋を作って、そこにハーブティーを入れていく。お茶の種類は例の五種類とチコリコーヒーと先ほど飲んだカモミールとレモンバームのブレンドを追加した合計七種類。
一袋で十杯分のハーブを入れる。『秘密の小道』はそんなに売れないだろうから、これだけは五袋、それ以外は十袋づつ用意する。
お値段は一袋あたり鉄貨一枚、約日本円で千円程度だ。値段設定は安めにしているつもりだ。
なので、もし、全部売れたら、六万五千円の売り上げだね。銀貨六枚と鉄貨五枚だ。
あ、そうそう、ちなみにユイナちゃんのようにお手伝いの人の賃金って、日当で鉄貨で三枚が相場なんだって。安いとは思うけど、村に居ると、そんなにお金って要らないんだよね。
◇ ◇ ◇
「ハァ、ハァ、ハァ……で、できた……見てくれ……」
あ、カイさんの事を忘れていた。ハーブの袋詰めを真剣にやっていると忘れてしまっていたよ。
えっと、あ、そうだ! 移動式の屋台だ。
どれどれと、ユイナちゃんと二人で店の外に出てみると、そこには立派な屋台があった。
ただ、荷車の部分は、さっき、カイさんが店の椅子やテーブルを運んできたときに見たような気がするけど……
荷台部分も、少し分解出来て畳めるように改造されているので、分解すると割とコンパクトになった。そして、収納機能などは考慮せずに全てカラ袋に頼っているので、日本で見たことのある屋台よりも随分と小型化、軽量化されていた。
ただ、面白いところは、カウンターの横に小さなかまどが付いていて、ここでお湯を沸かすことが出来るようだ。
ふふふ。ちょっと、その部分だけ小さな焼き芋屋さん?
「カイさん、すごい! そうそう。こんな感じですよ。でも、仕事で使っている荷車を改造してしまって良かったのですか?」
「構わない……簡単に作れる……これ、あげるから明日店出してみて」
「ええ、それはすごく嬉しけど、こんなにお金のかかる物まで貰うのは気が引けるよ」
「フッフフ。リセさん、きっと大丈夫ですよ。この屋台も宣伝すれば、町からもカイさん宛に作成の依頼が来るかもしれないよ」
「ん。そう……これは先行投資」
おお、先行投資なんて言葉あるんだね。ふっふふ。こうまでしてもらった以上、しっかりとハーブティーと共に屋台についても宣伝しましょう。
よぉーし。やってやろうじゃない。茶器はガラス製のは店で使いたいから出さずに、万が一割れてしまっても、すぐに代わりが手に入る陶器の湯呑を使いましょう。これで試飲してもらって気に入った茶葉を買って貰うのだ。
味も分からないのにお金を出す人は居ないだろうから、しっかりと味を確認してもらって買って貰うのだ。それで気に入ったらリピートしてくれるかも知れない。
こうなったら、ついでにサシェも作って販売したいかもな。良し。家に変える前に、『針と糸のマリア』に寄って布と糸と針を買って帰ろう。
家に置いているハーブを使えばサシェも何種類か作れる。
「ねえ、二人とも、この世界に“匂い袋”とか“サシェ”と言う物はある? 小さな布の袋にハーブとかが入っていて良い香りがする物なんだけど」
「ん? ……聞いた事がない」
「そうね。私も聞いたことが無いよ。今ならわかるけど、匂いを持ち歩く何てどうやったら良いか分からなかったからね」
「そうか。ハーブはね。飲むだけでは無く、そのままの状態で小さな袋に入れて香りを楽しんだりしていたんだよ」
フローラル系のカモミール、ラレナ草、ローズゼラニウム。リフレッシュ系のペパーミント、ローズマリー、レモングラス。これだけでも六種類だ。
おっと、色々と脱線してしまったが、大事な事を思い出した。笛だ!
「あの、カイさん、笛って……」
「あ……そうだった……これ、あげる……吹いてみて」
それは木製で、私の小指ぐらいの太さと長さだ。色は焦げ茶色で特に装飾などは無かったが、紐が結わえられており、首から下げて持ち歩くことが出来るようになっている。
この短時間で良く作ったものだと思えるぐらい丁寧に磨かれていた。
軽く咥えて息を吹き込んでみる。
ピィーーイ、ピィーーイ
以外と大きくって甲高い音が鳴り響いた。ほうほう、これなら野生動物は驚くかも知れないね。
「これなら……村まで聞こえる……もし、鳴ったら村の人が駆けつける」
「うん。そうだね。これ、おじいちゃんから村人たちにも言ってもらっておけば、皆が駆けつけてくれるよ」
自分で自分の身を守る手段は、今のところ無いけど、この笛があれば助けを呼べると思うと少し安心した。
「カイさん、何から何まで、ありがとうね」
「何か作っても……村で買う人も居ない……新しいモノが作れて楽しい」
あはは。それ、前の世界で聞いたことがあるよ。DIY好きな同僚がいたんだけど、作っても置くところが無いし、必要も無いのに作る訳にもいかない、でも何か作りたいんだって言っていたね。




