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第21話


村の入口に掲げられた粗削りで簡素な看板。「ミリール村」と書かれた字はカイさんとは違いそうだが、それでも丁寧な筆跡は、どことなくカイさんを思い浮かべてしまう。何となく、カイさんの親か師匠が作ったような――そんな気がする。


門扉を潜り、左右に広がる畑を見ながら、小道を歩いていく。畑にはキャベツが育てられているようだね。畑の奥には、農作業をしているおじさんが見えた。


「こんにちはー!」


思わず、声を掛けてしまった。私は、村には住んでいないけど、それでも、村の一員になれたら良いなって思ってしまったんだ。


「おう! こんにちは!」


畑の向こうから、元気な声が飛んできた。ふっふふ。私はおじさんの名前も知らないけど、私の顔や髪は異国情緒たっぷりだから覚えて貰えるかもしれないね。


他人に受け入れてもらうには、自分からも積極的に近づかないとね。

自分で心に壁を作ってしまっていたら、自分自身も他人も乗り越えるのが大変になってしまうよな。


そんな事を考えているうちに、村の中心にある広場に着いた。この村では馬は見たことがないが、ロバはよく見かける。

今も、荷車を引っ張るロバが歩いて来る。農作物などを木箱に詰めて運ぶ時にロバの力を借りているんだね。

カラ袋は使わないのかなって思ったけど、“がらくた屋”には木箱が入るほどの大きな口の袋は置いていなかったから、ひょっとすると、口の大きさに制限があるのかもしれないな。


……なぜだ!? 私の顔はおいしいのか?

ロバとすれ違うざまに、顔を舐められてしまった。ロバを曳いていた、おじさんから詫びの印にと大根を貰ってしまった。

まあ、ありがたく受け取りますけどね。

それにしても、何で動物たちは私の顔を見ると舐めたくなるんだろうな??


うむむ。本当は先に“がらくた屋”に行くつもりだったけど、顔を洗いたいから、まずは“葉だまり”に行くことにした。

葉だまりは、広場に面した通りの、更にもう一本、外の通りにある小さなお店。

外壁の漆喰は本来の白色から、雨風にさらされてクリーム色になっているが、むき出しの木骨は太くしっかりとしている。

あー、屋根は何とかした方が良いかもな。苔むしているのは良いにしても、いつ雨漏りが始まるか心配になるレベルだ。


鍵を開けて、玄関の扉を開くと店の中からは少し埃っぽい匂いがした。

次々と、窓を開けて換気して、薬棚に持って来たハーブの瓶を並べ置く。

うーむ。ちょっと換気した程度では、匂いは消え無さそうだね。これは、サシェ代わりに、ハーブを少し瓶から出して置いておいた方が良いかもね。

今日の手持ちでハーブで香りが良いのは……安らぎを与えるカモミール、それでいてさっぱりとしたリフレッシュ感を出すローズマリー。

これらをブレンドしてと……良し! 出来た。これを店の隅に置いておこう。

本当は布で袋を作って入れた方が、可愛いし、散らかしたりしないから良いんだけどね。今日のところは、これを置いておこう。


さて、顔を洗って、がらくた屋に行きますかね。


再び、パタパタと戸締りをして出かける。がらくた屋は広場の通りに面しているが、ここからだと広場を挟んで反対側だ。広場を突っ切っていく感じになる。


広場には小さな子供たちが遊んでいるのが見えた。彼らはユイナちゃんと同じぐらいか、もう少し年下ってところだろう。

この世界では、子供と言えども働く。エマちゃんやレオ君のように十歳なら働くのが当然なようだ。

時間などを気にすることも無く、長閑で、のんびりとした世界に思えるが、すべてがそうでは無いのだね。


 ◇ ◇ ◇


「こんにちはー」


ユイナちゃんのように元気に声を掛けてみたら、店からは見知らぬガタイの良いおじさんが出て来た。

お、おお。レオ君では無い!! しまった。てっきりレオ君が出てくると思っていたから焦ってしまった。


「ハッハハ! 初めまして、私が店長のメリガンだ。レオから聞いたが、あなたが迷い人のリセさんだね」


私が慌てていたのが、バレたようで、豪快に笑いながら挨拶してくれた。無精ひげを生やして、浅黒く日焼けした顔には人懐っこい笑みが浮かんでいた。


「ああの、はい。初めまして、リセと言います。今度、以前に薬屋さんをやっていた場所で新しくお店を開くことにしました。今後ともよろしくお願いします!」


「ダッハハハ! 硬い挨拶はいらねぇけど、こちらこそ、よろしくな! ああっとレオを呼んだ方が良いのか?」


「あ、いえ大丈夫です。実は、このガラス瓶と同じ物を探していて――こちらで売っていますか?」


私がカラ袋から取り出した空のガラス瓶をメリガンさんが手に取って眺める。


「ほう、これは“青のアトリエ”で作ったんだろうな。えっと、ここからだと、北通りを通って西に行くとガラス工房“青のアトリエ”というのがある。そこにメリッサという人がいると思うから聞いてみると良い」


メリガンさんの話では、この村で使うガラス製品はほとんど、“青のアトリエ”で作られているそうだ。

そこの工房主はメリッサという女性で、彼女が製造を担当し、旦那さんはガラスの原料集めや街への卸売りを担当しているそうだ。


なるほど、ガラス工房か。ガラスの製造も村の中で行っているようなので、すごいなと思ったが……大きなお世話だけど、村に、そんなに需要があるのかな。

あ、そうか。だから卸売りなのか、村の工房で作った物を街のお店に売りに行っているんだね。


さっそく、メリガンさんにお礼を言って、“青のアトリエ”を目指すことにした。もちろん、何も買わないのも申し訳ないので、石鹸を買ったんだ。

これは、ユイナちゃん家で見たときから欲しかったからね。それ以外にも紙とペンとインクを買っていくことにした。これは、ガラス瓶にラベルを張りたいって考えているんだ。


では、さっそく出発だ!

ふっふふ。今回、私の足取りは軽い。なんといっても今回の目的地は、以前、ユイナちゃんから聞いた牧場を迂回するルート上にあるのだ。そう。あのウシに会わないで済むというのは大きい。


広場を抜けて、北通りを進んでいく、このまま村長宅に行くには遠回りだとは聞いていたが、どのぐらい時間差が出るのか気にはなっていたんだけど……そうなんだよね。時間を計る術がないのよ。そりゃ日時計でも使えばわかるかもだが、数分とかの差だったら分かるか微妙だな。

いやいや。違うな! そもそも数分の時間差など気にしても意味は無いんだったよ。前の世界の悪いクセだね。


私にとって通りやすい道なのか、そうじゃないのか、ただそれだけだね。


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