<無魔素魔法(ノンエタル・マジック)>
少し遡りネロの隠れ家では、ネロとシスが朝食の準備をしていた。そして、階段の方から様子を伺っている者がいた。
「……」
「そこに居ないで下りてきたらどうだ?」
「っ⁉」
ネロの言葉に一瞬身を引くも、再度覗き込み、階段を下りた。
「えっと…おはよう……」
おぼろげに挨拶をするフリーナ。
「ああ。少し待ってろ、もう少しで飯の準備ができる。シス、あとは俺がやっとくから二人で話でもしときな」
「はい! さて、おはようございます。それと初めまして。あなたがフリーナさんですね? 私はシス・オルメルト、この変人の弟子です。よろしくお願いします」
「うん、よろしくね…」
二人がたわいない話をしてると階段を下りる音がした。
「おはよー!みんな早いね!」
「「「えっ…」」」
下りてきたのは、容姿はフレアそっくりでフレア同様八重歯がチャームポイント、だが明確に違う点がある。前髪は右目を隠していたフレアとは違い両目が出ていて、瞳は赤眼のフレアと違い赤紫色の瞳をしている、そして少々発育が良い。
「「「誰?」」」
再度ハモる三人。
「ん? ああ自己紹介がまだだったね! 私は『ヴァニス』、フレアの力を分けた存在で一応別の人格ってことにしといて。まっとりあえずよろしくね!」
笑顔で答えるヴァニス。そしてネロが……。
「別人格? 体の性別まで変わるもんなのか? いや、フレアならありえなくもないか…」
「ありえるのですか⁉」
「現にこうなってるじゃん」
驚くシスに淡々と答えるヴァニス。
「お前、いつ創られた?」
ネロがヴァニスに問い、それにヴァニスが答える。
「昨日の晩だよ」
「そうか、うん? ちょっと待て、力を分けたってことはフレアは弱体化してるのか…?」
ネロが再度問う。
「そうだよ。私みたいな存在がいる限りフレアは本来の力を出せないの。そうだね…私のような存在を
<分罪力自我>て呼ぶことにしよっか!」
するとフリーナがヴァニスに質問した。
「えっと…あの怖くて強いのにはなれないの?」
「怖くて強いの? んああ! アンノウンの力は使えるしあの姿にもなれるよ!」
「「いやどこが弱体化なんだよ(ですか)!!」」
思わずつっこむネロとシス。
「膨大な力が少し減るだけだからね。安定しない間はそれがいいんじゃない?」
「そうか? まあいいや。とりあえず飯を食うぞ、そのあと外で修行だ」
「えっと…私も?」
ネロに問うフリーナ。
「お前はどうしたい?」
ネロの問いに考え込むフリーナ。
「まあ食いながら考えな」
ネロの言葉にフリーナは頷いた。
ーしばらくしてー
「まずはフレアに魔法を使ってほしいんだがヴァニス、フレアを表に出してくれ」
家の裏口から少し進んだところに高原があった。四人はそこに移動し、ネロはフレアほ出すよう指示した。
「ちょっと待ってね」
するとヴァニスはフードを被り、両手をポケットに入れた。すると黒い靄のようなものがヴァニスを包み込み、すぐに靄が晴れていつものフレアが現れた。
「で…、何をすればいい…?」
フレアが気だるげに問う。
「そうだなあ…何がいいと思う?」
「なぜ私たちに聞くんですか…、まあ無難に、初級魔法の<火炎>でいいんじゃないですか? 名前同じですし」
ネロの問いに返すシス。すると。
「ぷっくす! そういや初級魔法と同じ名前だったね! しょ・きゅ・う・魔法と同じだからね~もう永遠にいじられるんじゃあないの~?」
精神世界からフレアを煽るヴァニス。するとフレアは人差し指をこめかみに突き刺した。
「「え…⁉」」
フレアの行動に啞然とするフリーナとシス。そしてヴァニスも……。
「えっ、なにして……」
するとフレアは指をかき混ぜるように回し始めた。
「んなあああああ!! まってまって気持ち悪いんだけど!! やめてえ~!!」
悶えるヴァニス。
「血が…沢山…出て…、大丈夫なの…? いや大丈夫じゃないよね⁉」
この光景に怯えながらも心配そうに聞くフリーナ。
「……」
しかしフレアは無言のまま顔色一つ変えずに黙々と脳をかき回していた
「んあっはぁあああ!! はうっん~!!」
わめくな、痛みがあるわけでないだろう。
精神世界のヴァニスに直接語りかけるフレア。
「痛くないけど気持ち悪いの!! だから…もう…やめて……」
ヴァニスの悲痛な願いにフレアはようやく指を抜き取った。そしてすぐに傷口が一瞬で再生し、吹き出た血液も一瞬にしてフレアの体に吸収された。
「終わったか?」
待ちくたびれたように問うネロ。
「ああ、待たせたな。それと、二人もまあ…気にしないでくれ」
二人に気を使ってるつもりのフレア。
「え…うん…」
「あ…はい…」
フリーナとシスは気まずそうに返答する。
「で…どこに撃てばいい?」
フレアの問いにネロは指をさし、そのかなり離れた先には2メートル程の石像があった。
「えっ…何があるんですか?」
シスは目を細めた。そしてフリーナも目を細め……。
「黒い…なにか? でもなんだろう…」
ぼんやりでしか見えない程に遠くに石像があるが、フレアには普通に見えているようだった。
「あれに撃てばいいのか?」
「そうだ」
ネロに確認が取れたところでフレアは石像に指を向けた。そしてそこから小さな火球を放った。3秒後石像に着弾した瞬間、炎が渦を巻くように遠目からでもその大きさが分かる程の火柱が吹き出た。そして、炎の中心部の地面ははドロドロに溶け、熱で周りの草が燃え尽きた。
「すっごい…!」
感心するフリーナ。そしてシスは目を丸くしていた。
「しょ…初級魔法で上級魔法の<獄炎劫>程の火力をだせるとは……」
一方ネロは腕を組み、顎に指をあててその光景を呆然と見ていた。そして火柱が消えてすぐ、ネロがフレアに疑問を投げかけた。
「フレアお前…魔素を使わず撃ったな」
「ん?」
フレアは頭を傾けた。するとシスが……。
「魔素を使わず⁉ まだ私でもそこまで行ってないのに…」
シスは崩れるように膝をついた。
「そんなにすごいの?」
シスに問うフリーナ。
「魔素を使わない魔法は<無魔素魔法>というのですがこの存在をを知る者はごくわずか、しかもこのやり方はかなり難しく双詠破棄よりも遥かに難易度が高いのです。ですが、問題はそこじゃありません…」
「もしかして、初級魔法で上級魔法程の威力を出してるってところ?」
「それともう一つ、双詠破棄なのにも関わらずあの威力なのが驚きです」
フリーナは驚きの表情を隠せなかった。
「ほーん、そんなすごいのかその<無魔素魔法>てやつ。そういやその双詠破棄ってのはなんだ?」
するとネロが説明し始めた。
「双詠破棄てのは通常の詠唱だけじゃなくて魔法名すら唱えないことをいう。一応魔法名も詠唱の一種になるからな」
「へぇ~そうなんやな…」
あまり関心がなさそうなフレア。するとフリーナがフレアに質問した。
「ねえ、その双詠破棄ってどうやったの?」
「う~ん…内側から出てくるものをぐって一つに固めてぼんって撃つ感じ」
フレアの質問にあまり理解できないでいたフリーナ。
「悪いな、今は説明できる気分じゃない。てか<無魔素魔法>のメリットってなんだ?」
フレアの疑問にネロが答える。
「そうだなぁ。普通、自身の魔力と大気中の魔素を使って魔法を放つって説明したろ? 俺が会ったことのある奴にな、魔素を減らせる奴がいるんだが、その場合、魔法の効力が下がる。だが<無魔素魔法>を極めれば魔素を使用せずとも同等の威力を出せる。まぁその分、1.5倍位魔力を消費する羽目になるんだがな。それと、魔法を使うとエーテル残痕ていう痕跡が残るんだが、<無魔素魔法>はその痕跡がない」
「ほ~ん。そういやフリィはどんな感じの魔法が使えるんだ?」
突如フリーナをあだ名で呼び始めるフレア。そして、フレアは100メートル先に2メートルくらいの岩を魔法で作り出した。
「フリィ…まぁいっか…。といってもそんなにすごいのは使えないよ?」
フリーナは岩に向かって両手をかざした。するとフリーナの周りに氷の礫が生成されそのまま岩に向かって飛んで行った。そして礫は岩に直撃し、すこし削れた。
「はぁ…まだこれくらいしか出せないか……さっきのもあって余計に低く見えるし……」
肩を落とすフリーナ。するとネロが呟いた。
「氷結魔法の双詠破棄か、これも雪女としての天性ゆえか…」
「うん? あれ? おかしいな、本当はもっとすごいのが出せるのに」
違和感を覚えるフリーナ。するとシスが説明した。
「それはおそらく環境の問題だと思います。氷雪地帯に住んでいたのでしょう? それでしたら周りの魔素と共に冷気を取り込んだために氷結魔法の威力が上がったのでしょう。ですがあの岩、普通のよりもかなりの強度がありますね。それを削るほど強度と速度は自信をもってもよいと思います」
「えへへ、そうかな~」
照れるフリーナ。するとネロが少し考えこみ、そして……。
「あそうだ。やらなきゃいけない事を思い出したから行ってくる。んでその間自由にやっててくれ」
「えっちょ師匠⁉ どこに…」
シスが言い終える前にネロは転移した。
「……くぅ…もうなんなんですかあの人は!!」
声を荒げるシス。そしてフレアがシスを落ち着かせる。
「まあとりあえず落ち着け。ほら、バナナ食うか?」
徐にどこからかバナナを出したフレア。
「……どっから出したんですか」
シスが困惑した顔で問う。フレアは手に持ったバナナを見つめ……。
「怖…マジでどうやって出したんだ俺……ヴァニスわかるか?」
「いやなんで私が知ってると思うの?」
唐突に話を振られ困惑するヴァニス。
「なんでって<分罪力自我>だから。んまあとりあえず魔法の上達に専念しないか?」
「そ…そうですね…」
「うん…」
シスとフリーナもひとまず唐突なフレアの提案に承諾した。そして三人を少し離れた崖の上から見つめる人影があった。




