オタサーの姫、学園の女王になる
『オタサーの姫、改称か?新たな名称は、"学園の女王"に』
学校の壁にでかでかと貼られた新聞の今日の見出しだった。
なんだこれ。
僕の通う府立城北高等学校は、偏差値的にはそこそこ高くて、まあ進学実績だってそこそこという、ごくごく一般的な高校である。
ただ、一点の問題は──変な奴に溢れに溢れていることだ。
壁新聞が凄く活発で、ゴシップの飛ばし記事まである、なんてことをよその高校に通う友達に言ったら、僕のことまで変な奴扱いしてきたのは不本意でしかないけど。
しかし、人間とは慣れてしまえるもので、半年も経てば学園の王子様が、学園の教皇をかしづかせ、学園の皇帝となり、学園の教皇は憤死した(死んでない)、なんていうわけのわからない事件が起きても、まったく動じなくなってしまう。
ただ、まあ、動じないということと、疑問を抱かないというのはまた別の話であり。
「オタサーの姫から、学園の女王はさすがに不敬。君はそう思ったね?」
「うわ、出たな元村」
クラスメイトの変な奴だ。ナチュラルに思考を読んでくるから、こいつは怖い。
「クラスメイトなんてわざわざ距離を取るのはやめたまえよ。悲しくなるから」
「そういうところが距離を取りたくなる理由なんだよな」
なんで分かんだよこいつ、きっしょ。
「さて、話はどこから始めたものか。まず、前提として君は、オタサー群雄割拠時代のことは知っているな」
「常識みたいにわけのわからんことを話すな」
オタサーが群雄割拠してる状況ってなんなんだよ。というか、群雄割拠ってことは、オタサー同士が争ってたのか。
「オタサー群雄割拠時代は、もともとは単に漫研と文学クラブが乱立してたことが始まりなのだがね。漫研に関しては、少女漫画系と少年漫画系とホビー漫画系、そして成年向け漫画系が、おのれこそが漫画の王道だと争っていたのが発端なのだがね」
「少なくとも最後は王道は名乗れねえよ」
全員未成年しかいないんだから、堂々とすんな。こそこそやれ。
「その後、文学サークルによる白樺派論争が始まってね。それが、文壇を巻き込まずに漫研を巻き込んだんだ」
「まず、文学サークルの論争って何?」
「校庭に生えている木が白樺か岳樺かというのが論争の発端だったそうだ」
「せめて、文学に関して論争しろよ」
植生で揉めるな。あと、あの木の事を言うなら、クスノキだよ普通に。
「そこに、ややこしいことに、学園のソクラテスが参戦してきてね。無知の知がどうとかこうとか言い出して余計に論争は拡大。結果として、学園のソクラテスは、テストで赤点を取りまくって追試を受けるという事態を引き起こしたそうだ」
「学園のソクラテスってやつ、多分普通に無知なだけじゃねえかな」
論争関係なく赤点取ってるだろそいつ。
「そして結局この論争は1年近く続いたそうだ」
暇人しかいないのか、こいつら。議論のテーマは校庭の木だし。
本当に暇人しかいないのか……。
「その論争にピリオドをうったのが──オタサーの姫だよ」
「おん」
なんかもう、オチが見えてきてるな。
「論争が末期戦になり、新入部員が一切増えなかったとある漫研に彼女が入学してきたんだ。そして、彼女は凄まじかった──なにせ、ナマモノ創作により文学サークルと漫研を崩壊させたのだから」
「姫は姫でも亡国の姫じゃん」
そして、国ですらないサークルなんだからなんものこらず、単なるこじれたオタク女だけが残るのだ。
「その彼女が学園の女王か……」
無駄に感慨深そうな元村。
「つまり──皇帝とお付き合いを始めたということだね。すなわち、ついに陰と陽に血縁が生まれるときが来たようだね」
「この学校、そんな封権制度のヨーロッパみたいな感じなんだ……」
なんなんだよこの学校は、本当に。