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婚約破棄されたラスボス悪役令嬢に転生した私は死の運命から逃れるためにトゥルーエンドを目指します

作者: 朝日はじめ
掲載日:2025/03/02

「リディア・クラウディウス! 貴様との婚約を今この場で破棄させてもらう!」


 豪華な衣装で着飾った紳士淑女が集まる絢爛な大広間で堂々と宣言する私の婚約者ことジェイコブ第三王子。ぱさっと前髪を払う姿が腹立つ。目元が隠れそうになるくらい前髪を伸ばしてるのはニキビを隠すためだと私は知っている。


 それにしても、婚約破棄された直後に前世の記憶が蘇るなんて間が悪すぎる。


 リディア・クラウディウス。クラウディウス公爵家の娘にして、このゲーム、いや、この世界と言うべきかな? における悪役令嬢に私は転生してしまったようだ。


 私は今日までリディアとして生きてきた記憶も持っている。リディア的にはこの婚約破棄はショックが大きい。相手は間抜け面をしていても一国の第三王子。輿入れが決まれば晴れて王族の一員になれる。公爵家令嬢として高度な教育を受け、そう在ろうと自分に厳しく生きてきたリディアにとって積年の努力が報われる婚約だったのだ。


 けれど、ブラック企業で残業の日々を送り、ピークに達した疲労が原因で立ち眩みを起こし、駅の線路に落下して電車に轢かれる末路を遂げた三十路前のOL、成宮希里香だった私は知っている。このぼんくら第三王子は優秀な二人の兄を相手に比較されて劣等感を拗らせている。そして優秀な兄たちを引き摺り下ろし、自分が次期国王になるための策として、他国の後ろ盾を得るのを目的にした婚約を隣国の王女と結ぶことに成功したのだ。


 という経緯でジェイコブ王子は私との婚約をこの場で破棄したわけだが、当然このぼんくらのすることだ。後のストーリーで王子たちだけでなく国王と王妃にもあっさり悪事を暴かれ、王家との関係を完全に断たれた上で国外追放される、という結末を通常ルートで迎えるのだ。ちなみに個別ルートでは奴隷商人に売り飛ばされて他国で変態の慰み者にされたり、何の情報も持っていないのに洗いざらい吐けと拷問された末に死亡したり、魔族の計画で化け物にされて主人公たちに倒されるなど、因果応報な結末を迎えることになる。


 つまり、このぼんくら王子に婚約破棄を告げられたのは実に喜ばしいことなのだ。というか嬉しくて今にも笑ってしまいそうだ。


「何故、でしょうか?」


 私は唇を噛んで笑いそうになるのを堪えた。そんな私を見たジェイコブ王子は盛大に勘違いをしたらしい。ふんと鼻を鳴らし、見下すような目で私を見た。


「こうなってしまったのは貴様の不徳の致すところだ。そうであろう?」


 こいつに言われるのは癪だが、リディアはこの世界における悪役令嬢。周りからの評判は芳しくない。自分に厳しすぎるのが原因で他人にも厳しくなり、心を許せる人間が傍にいなくなってしまったのがリディアだ。


 それはそうと、私の記憶が正しければ、確かこのあとリディアは泣きながら大広間を出て行くんじゃなかったかな。社畜になる前の学生時代にプレイしたゲームだから記憶が朧気だ。


「大変、申し訳ありませんでした」


 私は頭を下げ、両手で顔を覆った。涙を隠したのではない。我慢しきれずについ笑ってしまったのだ。だってこのぼんくら王子と来たらどのルートでも自分が因果応報祭りで悲惨な最期を遂げると知らずに間抜け面で偉そうに踏ん反り返っているのだ。とはいえ、これでさっと引き下がるのは怪しまれるかもしれない。一応一言添えておこう。


「お慕い、申し上げておりました……」

「ふん。言われるまでもなく知っている」


 止めて。俺はモテるから当然みたいな顔で私を笑わせにこないで。


「そ、それでも私との婚約は破棄されるのですね」

「王族の婚姻は愛の有無で決まらんからな」

「仰る通りですわ。私がこれ以上ここにいたら皆様に迷惑をかけてしまいます。これで失礼致します」


 私は令嬢らしい仕草で一礼し、踵を返して広間の出口に向かって歩き出した。


 舞踏会に集まっている紳士淑女の視線が私に集まる。そのなかには見覚えのある顔がちらほらあった。


 金髪翠眼の爽やか合理主義の第一王子――ルーク・ガーフィールド

 赤髪紅眼の男気溢れる騎士団長の息子――ディラン・アッシュバートン

 青髪碧眼のクール系世話焼き公爵家嫡男――クラウス・フリージア。


 そして、栗色の髪に薄い緑色の目をした少女、この乙女ゲー「セイクリッドマギア~聖女と魔法学院~」の主人公――クリスタ・オベール。


 みんな退出していく私を各々に異なる感情を抱きながら見詰めている。


 クリスタはこれから美形揃いの攻略対象と大恋愛をしていくことになる。それだけでなく、聖女としても過酷な運命に身を投じていく。倒すべき宿敵――魔王との戦いに。


 大広間を出た私は人気のないテラスに移動し、頭上で真ん丸を描く二つの月を眺めた。


 困ったなー。私このままだとクリスタと攻略対象たちに殺されちゃうんだよね。


 何故なら本物のリディア・クラウディウスは落馬で死亡しており、その体を依り代に転生した魔王とリディアの意識が混ざった悪役令嬢にしてラスボス魔王、それが今の私なのだから。


 転生したキャラに転生するとか色々とややこしい。主人格は前世の私だけど、リディアと魔王の記憶も持ってるから自分の中の価値観や常識が変わっている感覚がある。


 何はともあれ、やることは決まっている。


 リディアがクリスタと和睦を結んで生存するルートは、ルーク第一王子とクリスタが結ばれるトゥルーエンドだけだ。


 そう、私がやるべきことはルーク第一王子とクリスタの仲を取り持つことだ。あとは万が一に備えて力を付けておくことかな。


「目指せ、トゥルーエンドですわね」


 私は月に向かって独り言ちた。


 前世では悲惨な最期を遂げてしまったが、今生は悔いのないように生きてみせる。


 ――その後、私はゲーム本編とは異なるストーリー展開に戸惑うことになるのだが、このときの私は何も知らないのであった。

読んでいただきありがとうございます。

現在長編版を準備中で3月以内に掲載する予定です。

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