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ミッドフィルダー タクマ ~強豪校のエースが田舎の学校でサッカー始めました~  作者: 或 真土
ミッドフィルダー タクマ ~勝ち残れ!北海道大会Aブロック編~
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SCORE 07 COUNTER ATTACK

 古豪・朝里高校のキャプテン日向弘の名采配によりオタモイ高校サッカー部は苦戦を強いられていた。


 「クソッ‼こいつら…ッ‼」


 三人の敵選手がタクマの行く手を阻む。そして下手なパスを出そうものなら、常にクリア。或いは自陣ののゴールに集めて再編成。タクマと大川は奮闘するが、そこはそれ即席で編成されたチームで対応できるような代物ではなかった。


 「余市、梶原から目を離すな。攻守を分断して、常に攻められる事を意識させろ」


 日向の指示は的確だった。例えフィールド中盤でオタモイ高校の面々がボールを押し返したとしても、肝心のタクマのところにボールが行かなければ得点源にはなり得ない。そして、タクマがフリーとなれば今度はオフサイドトラップを使って攻撃の機会そのものを封じる。


 (たかが地方大会の有力チームと侮っていたか…。クソッ‼)


 一瞬の油断からタクマは背後からスライディングタックルを受けて転倒する。その間にも朝里高校は自軍の攻めに見切りをつけて総出で引っ込んで行った。その一部始終を日向は満足そうに眺めていた。


 (朝里高校うちの選手層はお世辞にも厚いとは言い難い。俺だってどこにだっている凡庸な選手だ。だからこそチームワークに重きを置いてプレーするんだ…)


 日向が指示をするまでもなく朝里高校は鉄壁の布陣に戻る。両チームの得点差は02ー01の一点差。日向は決定打となる追加点を、タクマは同点がどうしても欲しかった…。


 ケッ‼俺はどうせ嫌われ者よ‼人生、今の今まで誰にも好かれた事はねえ‼学校では友達なんかいなかったし、同窓会にも呼ばれた事がねえよ‼だがなそんな俺にも心強い味方がいる。それはVチューバーの北条麻里奈提督だ‼麻里奈提督はな、スパチャさえ出せばオケラ・ミジンコレベルの俺でも人間あつかいしてくれる天女のような御方なんだ(※注意 作者はVチューバ―をよく理解していません)。どうだ?肉の嫁しか愛せないお前らと違って俺には麻里奈提督という崇めるべき女神が存在するんだ。悔しいか?惨めな気持ちになってきたか?お前らはそれでいいんだよ‼常に舌を向いて生きていやがれ‼俺はこのまま働いて、働いて、麻里奈提督にスパチャしまくっていっぱい可愛がってもらうんだ‼こんなしみったれた小説投稿サイトになんか要は無いんだ‼麻里奈提督さえいれば俺は何もいらないんだ‼


 「緊急速報 (悲報) 北条麻里奈提督はリアルでは男性だった!?」


 ぐおおおおおおおおおおおおおおおっ⁉俺の女神が男だったなんて‼もう何も信じられねえ‼人類なんて滅んじまええええええ‼








 クソッ‼読むなっ…つっただろうが‼おかげで自分で自分のチンコ噛むところだったじゃねえか‼いいか、俺の小説を読んでいいのは心の綺麗な人間だけだ。というわけで「斬光のエスペランザ」、始まるぜ。



 PHASE 04  ”REPULSED”



 「リリっち、さんきゅー。エペ公ってこういう動きが出来たんだ」


 ズドン!ズドン!


 それまでリ・エスペランザが立っていた場所に二発の銃弾が撃ち込まれていた。

 烏は陽動、本命は遠距離からの狙撃。ルシタニアの教本通りのお堅い戦術に、アンナとリリは辟易する。


 「三下の雑魚がイキんなよー。逃げてさ、家帰って一杯ひっかけて寝ちまえって…」


 「同感」


 リリは頭部の音感センサーから第二撃を想定し、回避行動に移る。

 その間にアンナは長剣を腰部ギアボックスに収納して、別の武器を用意する。既に虎の子のヴェノムピアッサーの所在は敵に知れてしまった。おそらくは射程距離と効果範囲が限定されているという短所も敵は承知済みだろう。


 (お兄がいれば一発なんだろうけど、リリちゃんじゃマッちゃんは起きてくれないし…)


 アンナはボヤキながらこの場にいない実兄とリ・エスペランザの人工知性に愚痴を溢す。

 悔しい話だがリ・エスペランザの真の性能を発揮するには人工知性”マツダ”によって選ばれた兄の力を借りなければならない。


 カチカチカチ、――。

 眠っているマツダを呼び出す為に手当り次第にパネルを押しているが一向に反応なしだった。


 「あのさ何やってんの?先頭に集中してよ」


 それを見ていたリリが何事かと尋ねる。


 「いやー。雑魚を一掃する秘密兵器を使おうと悪戦苦闘している最中」


 「敵の使ってるロングライルだけど、スケイルじゃ防げないよ?」


 リリは既にライフルのデータを割り出し、対策まで考えていた。

 ルシタニアの武器は潤沢な資源を使用している為に耐久年数に優れ、全体的に頑丈な造りだが武器としての精度はかなり低いという欠点があった。

 ゆえに先ほどの連携攻撃は遅れ、ずさんな結果になってしまったと考察している。

 おそらくは次の攻撃も烏(コルボ―)を盾として使ってくる可能性はかなり高い。


 「ベターな戦法って何かある?」


 「各個撃破かなー?配置されている烏を剥がして丸裸にしたところをズドン、みたいな」


 アンナは諦めた表情で首を縦に振った。リリも嘆息しながらペダルを踏む。

 そして瓦礫や廃資材の隅に潜んでいる烏を一匹一匹、発見して撃破する。烏が撃破する事を感知した遠くに潜むゴライアスは移動して、こちらの動向を窺っていた。

 それは戦いというよりもある種の削り合いだった。


 ルシタニア側は通信の為に足を止めれば、アンナたちに撃破される。

 アンナたちはルシタニア、及び今羽に潜んでいるであろうダマスクスの兵士を逃がせば終わりのない逃走劇に興じなけれなならない。


 「辛いのはみんな一緒ってね。ハイ、これでラスト。そっちはどう?」


 ガシャアンッ‼


 アンナはナックルガードで烏(コルボ―)叩き潰した後、計器と睨めっこをしているリリにゴライアスお動向について尋ねた。

 二人は出会ってからまだ一時間と経たない間柄だったが十年来のパートナーのように連携が取れている。リリは額の汗を拭い、苦笑しながら答えた。


 「良くないわね。敵さんはこちらを狙いながら着実に外に向ってる。どんだけ広いのよ、全くコーカサスの工場は…」


 要塞都市コーカサスは”裁きの日”と呼ばれる史上最古の人工知能ルシファーを頂点とする軍団と人類の決戦の場でもあった。

 人工知性の側が都市を放棄しても入植しなかった理由は戦場で失われた命の多さにあると言われている。戦後から百年以上経過しているというのに語り継がれる伝承の数々は凄惨極まる物ばかりだった。


 「帰ったらシャワー浴びたいな…」


 リリはハンカチで頬の汗を拭きとる。隣のアンナもどこかから出したタオルで首を拭いていた。


 「エペはさ、ルシファーの支配を嫌って逃げてきたのよ。メッチャブラック上司だったってさ。だからアタシらの脳を乗っ取ってどうとかしないから安心して」


 「あのね、アンナ。逆に心配になってくるから止めてよ」


――言わぬが花とはこの事だろう。


 数百年前、人工知性たちは人類を効率よく支配する為に生体の脳を摘出して代わりに機械を埋め込んでいたらしい。

 その結果、社会という総体の部品の良いT部として酷使していたのだ。皮肉にもそのおかげで医療技術は飛躍的な進歩を遂げてしまった。

 極論になるがリリたちは機械たちに不要と見なされた人類の末裔だった。


 「そういうのあるんだ。機械の世界にも。世知辛いね…」


 リリはやるせなさを覚えながら景気に目をやる。察するに正確な位置こそ把握できないがゴライアスとコルボ―は動いていない。

 また本体と連絡を取っていないところから考えるとこの場で決着をつけるつもりなのだろう。


 スッ、――と目の前にガムが差し出される。

 匂いからしてグリーンガムだろうか。リリは首を縦に振ってから、受け取った。


 「リ・エスペランザってさっきの以外に他にどんな武器があるの?」


 「んー。…格闘と剣と拳銃とニードルガン(※ヴェノムピアッサーの事)。後はあ…私の権限だとマシンガンかなあ」


 アンナはどこかバツの悪そうな顔で答える。彼女自身は火器管制と戦闘技術という分野においては天才に分類される存在だったが、それ以外は凡庸な技術しか持ち得なかった。

 さらにリ・エスペランザを両親から譲り受けた時には十歳に満たない年齢だったので、三歳上の兄がリ・エスペランザの操縦にまつわる多くの権限を有していたのである。


 「マシンガン…。中途半端ね」


 相手は盤石の状態で子分を従え、リ・エスペランザを待ち構えているだろう。並みの魚鱗装甲スケイではあのスナイパーライフルを防ぐことは不可能だ。

 機動性で圧倒して、抑え込むという戦法がベターなのだろうが数機のコルボ―が控えているのであれば接近そのものが難しい。


 「発煙弾頭とか、妨害装置とかは?」


 「…無いです」


 アンナは何か後ろめたそうな雰囲気で頭を振っていた。


 「なら上か…」


 リリはアンナに承諾を取る前に周囲を取り囲む廃棄コンテナをロッククライマーよろしく登り始めた。


 「あはっ!リリっちってば大胆」


 アンナはこみ上げてくる笑いを堪えながら各部のエンジン出力を調整する。

 もしも登っている最中に敵機に見つかれば、狙い撃ちにされるのは火を見るよりも明らかな話だ。敵もそれくらいの事は考えているだろうが、だからこそ現場の判断として優先順位を低くしているはずである。

 何よりアンナはリリの思い切りの良さに惚れ込んでいた。


 「ダイブしたらまずコルボ―を潰して。多分ルシタニアの軍事教本でも、距離を取ってから戦闘を仕掛けてくるはずだから」


 「ゴライアスと格闘戦は無い、と。そういうわけねー。了解ラジャ


 我ながら安直なプランだと内心反省しながらもリリは盤上に映るリ・エスペランザのパラメータを逐次確認する。

 現行のどの機種とも違う多岐に渡る複雑なデータの数々はアマチュアながら玄人顔負けの技術を持つリリでさえわが目を疑うばかりだった。

 

 ――或いは人間の為に作られた人型戦車ではないという事実がより浮き彫りになってくる。


 ざりっ…。


 少し時間が経過してリ・エスペランザは廃棄された壁用の建材の上に到達する。

 手足に目立った負荷は無く、当初の作戦を実行に移す段取りは整っていた。


 「ルシタニアの正規兵の脳みそに書き込まれたプログラムは、精度は高いからリスクのある選択肢を省いてくる。そういった判断の早さも実はこっちにとってメリットになるから」


 リリは再度アンナの注意を喚起しようと、眼下に広がる敵機の配置図をモニターに映し出した。

 後は画面上のカーソルを動かして砲撃手ガンナーに指示を送れば最低でもコルボ―五機の撃墜は堅い。とそう考えていた。

 少なくともこの時点では。リリとアンナの共同作戦は正常に機能していたのだ。


 「ヒャッハー‼水と食料、そしてアタシ好みの美少女を置いて行け―っ‼」


 気がついた時は遅かった。

 アンナが操舵手の側のレバーを引いて、さらにリリの股の間に足を入れてフットペダルを踏んでいた。


 リ・エスペランザは地面を蹴って、そのまま階下に向ってダイブ。その距離はちょっとした高層ビルのそれに匹敵する。

 リリはギョッとした顔でレバーを操作。姿勢制御用のバーニアを使って地面への激突を防ごうとする。

 だがそれよりも早く、リ・エスペランザの背部ギアボックスが起動して四対の機械の翼が開かれた。機械の翼は光の粒子を放ちながら自由落下する機体を浮遊させる。

 リ・エスペランザは音も無く優雅に着地すると機関銃の先端を、機械烏に向けた。


 「JACKPOT」


 アンナは皮肉っぽく笑うと左から順に、機械烏の眉間を撃ち抜く。

 ルシタニア兵はライフルを抱えて部屋の隅まで逃走。アンナは片目を閉じて銃を構えると、――。


 ガンッ‼


 次の刹那、爆音と爆炎が工場内を揺るがす。


 ダダダダッ‼


 アンナはそのまま爆炎の方に向って銃を乱射した。

 その一方でひと際大きな壁を背にして死角をフォローする。先ほどまでの余裕の態度は影を潜め、真剣そのものといった表情でオレンジ色に染まる乱入者の機体を凝視していた。

 ダマスクス”義勇軍”の主力人型戦車、オルトロスの姿がそこにあった。


 「勘がいいなあ。だが戦場では長生き出来ないタイプと見た」


 ダマスカス軍の兵士チャーリーは黒い人型戦車オルトロスの武骨な仕様のコックピットの中で不敵に笑った。

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