SCORE 04 CHEMISTRY
「マジっすか⁉聞いてないっすよ、試合なんて‼」
オタモイ学園の廊下に二年長沢千種の悲痛な叫びが響く。同席していた大川と花園も心なしかもうしわけなさそうな顔をしていた。まあ水曜に勧誘されて週末に試合と聞かされては当然の対応だろう。
「長沢っちは才能あるよ。TDFC(※東京ドーム学園サッカー部の略称)でもレギュラー獲れるくらいにさ。だからお願いっ‼」
タクマは両手を合わせて頼み込む。長沢は逆に助けを求めるような顔で大川と腐れ縁の花園を見るが、二人とも微妙な表情のまま目を逸らしている。しかしタクマの長さWに対する評価は社交辞令と本音が半々になったもので実際に大川のシュートを何の予備知識も無い状態で受け止めたのだ。
「じゃあ山岡家でラーメン奢るからさ。ね?」
「ううーっ!男子高生の弱点をついてくるとは流石は超高校生級のストライカーっすね!」
長沢はここ連日の間、近くの女子高の生徒を連れて遊びに行っていたので懐が淋しい。まさしく天の助けとも言うべき入部条件だった。
賄賂か⁉この小説書いてるヤツ、学生に賄賂を推奨しているぞ⁉これはもう犯罪だ。これを読んだヤツが書いてあることを鵜吞みにして同じ事を実際にやったらどうするんだよ‼お前は前途有望な若者の未来を何だと思ってるんだ‼頭おかしいのか、ふじわらしのぶ‼いつもいつもバレバレの嘘ばっかつきやがって‼どこまでも低レベルなアホだよ、お前は‼そんなんだkら今まで何をやっても成功しないんだよ、ヴァーカ‼いいか、この世は才能が全てなんだ。才能があれば何だってやっていいんだ‼芸能人を見ろ、あれだけ好き勝手やっても最終的には見逃される。ふじわらしのぶ、もうお前は終わってるな。この崇高にして遠大な未来のエリートたちを生み出す事を宿命づけられた小説家になろうにいる場所なんてねえ‼さっさと筆を折って消えちまえ‼いいかもう更新するんじゃねえぞ?これは運営様が言いにくい事だろうからあえて俺が俺に自身に向って言ってやってるんだ。わかるか?お前の厚意一つ、一つが他の為ろうユーザー様にとって不快でしか、いや露ほども感じちゃいないだろうが、汚点なんだよ‼
だけどな、俺だけは…俺だけはそんなお前が大好きだ。愛してるぜ、ふじわらしのぶ。フォーエバー、ラブ‼
ここからはおまけ小説 「斬光のエスペランザ」が始まります。
【PHASE 01 ENCOUNT】
――”世界はお前の為に存在しているわけではない。”
ある種の痛みと共に脳裏に響く呪いの言葉だ。誰かにそう言われたのならまだ諦めがつくというもの。これは誰かが私に向けて発した言葉ではない。好んで周囲と打ち解けず、一人孤高を気取っている自分に向けて放った言葉なのだからこれから起こる全ての苦難を甘んじて受けよう。
自身の無力感を痛切なまでに自覚させられたのはいつの出来事だろうか。
少なくともそれはついこの間の出来事ではない。もっと前の出来事だったはず。
誰にも負けないと信じていたあの頃が既に懐かしくも輝かしい。
あの日、あの時にあいつにさえ出会わなければ、こんなに苦しむ事も無かった。
リリは苦虫をかみつぶしたような顔で目の前のモニターを睨む。
メインカメラの機能はどうにか回復したが、それだけの話だ。依然として状況は最悪である。
フラッパーと呼ばれる支援型の無人機は健在で、時間が経過すれば援軍を呼ぶだろう。
今はこちらがどの勢力圏に所属するかをAIで吟味しているはずだ。
あちらの本部に照合すれば無事解決する話だが、牽制ついでにばら撒いた妨害機構を備えた煙幕のせいでそれが出来ないでいる。
一方、こちらの機体は軍学校の研修生用の汎用機”ハウンド”である。
わずかな音声や映像情報だけで判別するにはAIでは役者不足という物だ。
商業都市ジェノバの擁する軍学校通称フォートレス””の落第生佐々木リリは己の不運を毒づきながら遮蔽物ごしに敵機を見る。
この限定された空間の中にはリリのハウンドカスタムとジェノバの敵対勢力の筆頭である軍事都市ルシタニアの人型戦車、ゴライアスが三機。
それに随行する無人の支援機、カラス(コルボ)がこちらが残した証拠を前に立ち往生している。
先ほど行われた小規模のの戦闘で見硬派二機、撃墜されているのだから慎重さに拍車がかかっているのだろう。
リリは学園内ではどの教師からも敬遠される不良学生だったが、極めて優秀な人型戦車の操縦技術を持っていた。
これは彼女の父が技術者であり、新型の人型戦車の開発にも携わることがあった事が原因である。
ゆえにどれほど授業を無断欠席しても除籍処分になる事は無い。
今回も現在開発中の新型機の操縦プログラムに試運転を兼ねて無断で非戦闘区域に立ち入ったわけだが、それが運の月だった。不幸にも偶然、散歩途中にルシタニアの兵に見つかってしまったのだ。
エネルギー残量はギリギリで学校に変えられる程度、もう一度戦闘になれば熱帯の砂漠を生身で越えなければならない。
仮にこの場を切り抜けたととしても、事が明るみに出れば停学或いは退学処分。
さらに両親の経営する町工場にも迷惑をかける可能性もある。
父からなけなしの小遣いで買い取ったハウンドも当然没収。インドア派の代表のようなリリにとっては死刑宣告も同然の状況だった。最悪の未来しか見えて来なかった。
(いっけね。腹が減るとマジで集中力落ちてくる…)
リリは数日前に級友とカードゲームに興じた際に巻き上げたチョコバーを齧る。
――ガリッ、ガリッ…ボリッ。ゴックン。
甘くも無ければ、食感も悪い。チョコの匂いがするというだけの栄養補給以外は要を為さない粗悪な代物だった。
「ルシタニアの連中に捕まれば投獄されて洗脳教育を受けて、奴隷として一生酷使されるんだろうな…」
リリは以前に道徳の授業で見せられたルシタニアの教育機関のイメージビデオを思い出してげんなりする。
ルシタニアはこの惑星モリブデンにおいて他の共同体に先んじて独立した汎人類同盟に所属する都市国家であり、かの国の国民は個人の蹴りよりも国家の隆盛に重きを置いている。
逆にリリが所属する商業都市ジェノバは個人の独立、即ちかつて人類の支配者だった人工知能ルシファーからの解放を謳った人々が作り上げた国で、今現在でも何かと自主性を求められる。
陰キャのリリは学校で定期テストを受けるよりも”人生の目標”、”将来の夢”などをレポートにして提出させられる人類科学の授業を特に嫌っていた。
(これじゃ都会のネズミとと田舎のネズミだよ…)
リリはハウンドの透視スコープごしに四機のゴライアスを見守った。
人型戦車”クアドリカ”の特徴として挙げられる背部の補助動力機構”ギアボックス”が独特の駆動音を出しながらこちらを威圧していた。
彼らは煙幕の中には絶対に入って来ない。
理由があるとすればそれは、脳にそう刷り込まれているからだ。それはもはや洗脳教育などでは無く遺伝子レベルまで全体主義というものを刻まれていた。恐ろしい事に彼らの倫理観ではそれが正しい。
(あいつらの超振動感知器が回復するまで制限時間は…約四分か)
リリは脳内の敵勢力の人型戦車のデータを総動員させて戦略を練っていた。
パワーと重量では型落ちだが、軍の主力機であるゴライアスに軍配が上がる。
一方、こちらのハウンドはさらに旧式だがリリとその父親タケゾウが最新式にも劣らないカスタマイズを施しているので速度では絶対に負けない自信があった。
ただ逃げるだけなら生存確率はそれほど低くないはずだ、いやそう思いたい。
リリは級友たちから年中不機嫌と揶揄されるグレイの瞳を細めながらハウンド・カスタムのエネルギー残量を覗く。
――やはり足りない。無理をすれば学校まで戻る事が出来るが、戦闘可能なほどの残量は無い。
十数分前の支援機との交戦で使った電装弾でかなりの消費を強いられたばかりだった。
名目上の練習機であるハウンドカスタムの背部ギアボックスに装備された中距離支援用のカノン砲を実戦で使用したいという欲望から、リリは逃れる事が出来なかったのだ。
ボリッ、ボリッ――。んぐっ。
パサパサのクソ不味いチョコバーを完食しながら、左右に備え付けられた操縦桿を握る。
この時代の車両の多くは、レバー操作では無く操縦者の意思を直接運転に反映させるサイコ・マリオネット方式が主流だったがリリは技術者としての見地及び個人趣味という理由で手動操作を採用していた。
そして各々の運命を決める制限時間、およそ四分が経過する。
リリは視力補正用のゴーグルを被ってレバーをゆっくりと左に倒す。
全神経を二極間に集中必要最小限の力でアクセルを踏み、別の物陰に移動した。
ジジ…ッ。
最前列の烏がすぐに反応したがゴライアスが動く様子は無い。
手に持った大型機関銃を向ける気配は無かった。
頭部についている赤い四つの目で、こちらを探そうとしているに違いない。
(合理的だ。おまけに隙が無い…)
リリは敵の無駄のない動きに敬意を表する。
ルシタニアの半分ロボットのような軍人など少し工夫すればどのようにでも立ち回れると考えていた自身の浅はかさにこそ唾を吐きかけてやりたい気分だった。
烏の動きに注意しながら建物の出入り口近くに向って確実に進んだ。
今、リリとルシタニアの軍人たちがいる場所はかつて存在したコーカサスという機械人形たちの前線基地の一つだった。
勿論これもリリにとってはコズミック・エンサイクロペディアと呼ばれる情報提供サービスから得た知識の一つに過ぎない。
ちなみに落第生のリリは、歴史と教養の授業を”睡眠学習の時間”と酷評している。
人間を電脳の檻に連れ戻そうとするコーカサスの脅威が去ってから百年以上が経過していたが、それでも恐怖の記憶は冷める事無く人類を未だに支配している。
特にルシタニアの軍人たちはコーカサスが息を吹き返して、どこぞの基地と連絡をとってここに攻め込んでくるという事態を警戒していた。
またそれが全くの杞憂ではないという事をリリが知るのはもう少し先の話だ。リリはなるべく音を出さないように出入り口に接近する。
こういった訓練はジェノバの軍学校の教育カリキュラムには含まれておらず、独学で覚えた操作方法である。
烏の包囲網は想定よりも緩かった為に、比較的時間をかけずに出入り口まで移動したがそれが良くなかった。
カチャリ。
建物から出た瞬間にハウンドカスタムの平らな頭に銃口が突きつけられる。
「ッ‼」
リリは慌てて空を仰ぎ見た。巨人だった。
全高およそ十メートルのハウンドハウンドを越える大型の人型戦車がリリを待ち構えていたのだ。