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ミッドフィルダー タクマ ~強豪校のエースが田舎の学校でサッカー始めました~  作者: 或 真土
異世界に転移したおっさんが大活躍する小説「おっさん、異世界で魔王と戦う。その名も虫歯大王。食べた後は歯を磨きなさい。虫歯になってからでは後悔しても遅いです」
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第十四話 おっさん新天地に旅出る。虫歯大王?「誰ですか、その人?」もう彼を誰も思い出したくないし、覚えていたくも無い。とりあえず全部忘れました。

 「覚えていろよ、愚民ども。我は必ずや復活し、また海外の皆様から抗議の嵐を受けるような作品を”株式会社東京ひよこ”に刻みつけてやる――ッッ‼‼」


 村長は無言でボクシングの構えを取って、ガトリング砲のようなパンチをぶっ放した。

 これらのパンチは虫歯大王の顔面に直撃し、彼の暴言を吐く暇さえ与えない。


 パンチの一発一発には学生時代から続く虫歯大王への恨みだけが込められていた。


 「飛天御剣流九頭龍閃」


 村長は虫歯大王への「情の蓄積」を微塵にも感じさせぬ無情の拳をぶち込む。

 

 (虫歯大王のやっていることはモラハラなので普通に訴えればいいのでは?)


 しのぶは元法曹関係の仕事をしていた経験からそう考えていたが、加害者と被害者の間での見解には著しい相違とはよくあるものでそのまま刃傷沙汰に発展する場合もよく見ている。


 沈黙は金、雄弁は銀なのだ。


 「あがががががががっ‼」


 虫歯大王は得意とする東南アジアの実践的な武術を披露する間も無く差し歯を全て砕かれてしまった。

 あの差し歯の治療費は料金未払いの状態で、しのぶは資金をまた稼がなくてはならなかった。


 「さてと。コイツは黙らせた。いいか、みんなコイツの事は忘れるんだ、わかったな?」


 村長は拳についた虫歯大王の血をスクエニから支給されたハンカチで拭うと洞窟を一人で出て行く。

 その後をライトニング騎士団とヘンリーたち、ふじわらしのぶが追いかけるような形で地上に辿り着いた。


 がんっ‼


 村長は洞窟の前に大きな岩を置く。

 そしてどこかから取り出したお札を岩に貼り付けて存在ごと封印してしまった。

 その横顔はいつもの村長ではない地獄の悪鬼そのものだったに違いない。


 「村長、貴公の”けじめ”はしかと我らが見届けさせてもらった。これでカクヨム村も安泰だな」


 ガクトはほがらかな笑顔のまま声をかける。

 だが大きな仕事を終えたはずの村長の顔はいつもより数段暗鬱なものである。


 「そうかのう…。()()()()()がカドカワもいつまでも安泰とは限らないじゃろう。いつ一迅社文庫のような悲劇に見舞われるか…」


 村長は時代の流れと共に消えゆくラノベの世界の未来を想いながらハラハラと涙を流していた(続く)

 



 PHASE 18 DEAD CHASE 02


「Gチタニウムは次元震ディメンジョンクラックによって外宇宙から飛来した隕石の欠片という一説がある」


ふじわらしのぶはGチタニウム製の剣に関するデータをマツダに転送した。

蔵人とリリは何らかのウィルスが仕込まれているのではないかと勘繰っているが、マツダは情報が実体を持つ世界の住人である。

アフラマヅダの監視の目を欺く事など出来はしない。


 「――というか現状ではメリットが皆無の行為なのだが。そろそろデーのタチェックを止めてくれると嬉しいのだが」


 ふじわらしのぶはレーダーに映るブリーシンガメンの反応に気を配りながら引きつった笑いを浮かべている。


 (不味いな。想定よりも早く決着をつけに来たのか…)


 ふじわらしのぶは己の目算の甘さに舌打ちした。

 バードマンのサブカメラ(※腰部にある)に搭載サーモグラフィーは、機体を中心に膨大な熱量が集積している。

 ブリーシンガメンは既に次の攻撃の準備を始め、新たな武器を想像している最中だった。

 断じて仲たがいをしていても良い状況ではない。


 だが。


  「それは自分の胸に聞いて下さいね。作業は並行して行っているので問題ありません」


 先の戦闘でロデオマシンよろしコックピットごと上下に激しく揺らされた事を根に持っているリリは冷淡な態度を崩さない。


 「蔵人君。ケースバイケースだ。彼女らを何とか説得…」


 ブォンッ‼ブォンッ‼

 

 間一髪の差でリ・エスペランザと灼熱地獄を避ける。

 中年男の情けない釈明の声は灼熱の波濤とそれに続く猛火の槍の轟音にかき消されてしまった。


 一方、蔵人は回避運動しながら例のデータを精査していた。

 

 (それが出来れば俺の日常生活ももう少し楽なんだけどな…)


 自身と妹の主従めいた人間関係に内心嘆息する。

 岡嶋兄妹は物心ついた瞬間ときから「妹が上、兄は下」だった。

 いずれににせよ現状、彼らを説得するのは不可能である。


 「仮に僕が説得しても誰がまともに取り合ってくれるんですかね?」


 蔵人は涼しい顔で答える。

 何というか一瞬気を抜けば死に直結するような逆境であるにも関わらず、彼の目は死んでいた。

 そして何よりも彼自身、この胡散臭い中年男の話を聞くつもりは無いらしい。

 全人類が見習うべき素晴らしい人望でもある。


 「あ、…はい。確か二承りました」


 ふじわらしのぶは絶望のあまり以降、口と心の両方を賭さしてしまった。


 「お嬢、問題が…」


 マツダから緊急速報アラートが入る。


 「何だよ、マッちゃん。出来るだけ手短に頼む」


 普段は攻撃専門のアンナだったが今は蔵人が回避し損ねた敵の攻撃を光の剣で打ち消す作業に忙殺されていた。

 熱砂の飛沫に紛れた弾丸を切り払い、魔槍の軌道を見極める。

 マツダと直接、神経を繋げていなければ到底為し得ない神技の応酬である。


 「いや、ブタの旦那(※ふじわらしのぶ事)がくれるって言った例のブツなんですけどね」


 アンナは正面モニターに表示された剣のデータを一瞥する。

 およそ10tという規格外の重量だった。

 予想し得る総重量欄には赤い「要注意」の信号が発せられている。

 

 「おい、ブタ‼お前イカれてんのか‼」


 アンナが皆の意を代弁して力いっぱい叫ぶ。

 如何に人型戦車といえどもこの重量ではマニュピュレーターに異常をきたす可能性が高い。

 これでは銃器どころか遠距離支援用の火砲”バリスタ”に匹敵するほどの重量だ。


 「ブタの旦那、アッシらに労基無いからってコレはあんまりじゃあ…」


 マツダの合成音声にも恨み節が混じっていた。

 有事には格闘戦も想定されている人型戦車(※分類的にはリ・エスペランザは人型戦車クワドリガ分類カテゴライズされる)だが、細やかな手作業も可能とする万能ハンドマニュピュレーターは精密機械なのだ。

 だが、その事をさっ引いたとしても飛行はおろか回避運動にさえ悪影響を及ぼす結果となるだろう。


 アンナが景気よく敵の人型戦車を殴る度に、蔵人とマツダは頭を悩ませている。


 「一応バードマンの主腕メインアームの限界重量に耐えれるように設定されているぞ。安心したまえ」


 ふじわらしのぶは全身から嫌な汗を流しながら必死に弁明する。

 全くの虚言ではないが、バードマンの主碗とは浮遊、滑空し、全身を空中で支える翼の部分だった。

 並みの重量級人型戦車と比べても決して劣る物ではない。


 「おっし。じゃあ戦闘後にこっちの手首のバネがイカれてたらお前の手首の骨を折るからな」


 合間を縫ってリ・エスペランザの眉間にい向かって紅蓮の槍が投射された。


 「ハッ」


 窮した敵の姑息な策に動じる事無く、アンナは物騒な発言の後に、槍を叩き落とした。


 ボシュゥッ‼


 橙色の炎に包まれた槍の穂先が瞬時に爆ぜ散った。


 リリは素直に安堵したのだが、蔵人とアンナはそうは行かない。


 「チッ。ガス欠近いな。兄貴…」


 「ああ。全力で回避するよ」


 蔵人は額の汗を拭う心地で操縦桿を握る。


 光のフラガッハの機神権能は未だに解明されていない箇所が多く、単なるエネルギー切れが原因で十分な効果が期待できないというわけではないのだ。

 また効果が鈍くなったのは岡嶋兄妹にとっても希少な状態で、明確な対処方法は不明である。


 「マッちゃん、今の〈物を消す力〉かなり遅かったよな」


 アンナはマツダに先ほどの遅延現象について問いかける。


 「あれっすか。おそらくはアッシの能力の限界でしょうね。詳しくはわからないんですが物質の結合を解く因子を精製出来なくなってるんじゃないかと思いますよ」


 意外にもマツダからは納得できる回答が返ってきた。

 どこか不真面目な印象を受ける人工知性だがここぞというところではアンナたちを裏切るような真似はしない。


 「それって一日何回とかって決まってんの?それともエネルギーの残量に応じた回数製?」


 「ええ、アッシの全盛期でも三回でしょうね。まあ、むしろ問題は何でアッシがこんな物騒な力を与えられたかって事なんですが…」


 画面に残念そうな顔をしたマツダのアイコンが表示される。

 彼の過去に関係する記憶は蔵人とアンナの両親によって見事にリバイバルされていたが、彼の起源(※人間でいうところの出生)に関する記憶だけは再現することは出来なかったのだ。


 否、最初から彼の造物主が彼には伝えられていなかった事なのかもしれない。


 「エネルギーチャージ関係無しとくれば、ギリギリまで切り詰めるしかねえか…。兄貴、浮遊は出来るだけ控えてくれ。リリっちは次の最後の一手まで体力温存で…」


 アンナは一息入れてからふじわらしのぶに告げる。


 「ブタのおっさん。悪いが囮になってくれないか?」


 「いや、アンナ君。私のバードマンはこうして立っているだけで限界なんだが…」


 ふう。


 アンナは再び深呼吸してから”命令”を下した。


 「やれ。どっちにしろ、ここで失敗すれば結果は同じだ」


 その声は普段よりも三倍くらいドスの効いた声だった。

 普段から聞き慣れているはずの蔵人ですらビクっと反応してしまう。


 ふじわらしのぶは額に浮いた汗を拭きながら何とか答える。

 実際、彼にとってはブリーシンガメンよりも切れてしまったアンナの方が脅威なのかもしれない。


 「わかった。その取引に応じるとしよう。だが、こちらも命をかけるからには相応の報酬が欲しいのだが…」


 「あ?取引だ?ウチの兄貴の尻の穴とか?」


 アンナは不機嫌そうな声でとんでもない回答をする。


 「いや違う。敵機の残骸をこちらに譲渡して欲しい」


 「NOだ。ウチの兄貴の尻穴で我慢しろ」


 アンナの即決を聞いた直後、蔵人は思わず床を蹴った。

 なぜならば彼の純潔が彼の意思とは無関係な場所で交渉の材料として使われようとしているのだ。

 無理もあるまい。


 「こちらには機鋼軍神専門の研究機関が存在するのだ。そこで研究すれば君たちの目的にとっても良い方向に進むと思うのだが、どうかね?」

 

 「あの、会話に割り込むよう真似をして悪いとは思いますが、ダマスカスが機鋼軍神を開発しようとしているんですか?」


 リリは緊張した声色で尋ねる。

 彼女の知識の範囲ではダマスカスの人型戦車の開発技術は都市国家間でも後発に相当し、現状では都市が総力を挙げてもリ・エスペランザの技術を再現する事は難しいだろう。

 

 後、蔵人の貞操を守る為の配慮があったとも思いたい。


 「良い質問だ。説明させてもらえば都市では無く、複数の都市間が協力して太古の技術を復活させようとする組織が存在するのだよ。蔵人君、”マリカ”という名前に聞き覚えは?」


 蔵人はその名を耳にした瞬間、ほんの一瞬だけ両親との会話を思い出す。忘れられるはずもない。


 ”マリカ”と呼ばれる存在には気をつけろ、とは蔵人の父の遺言だったのだ。


 「父が死の直前に”マリカには気をつけろ”と言っていました。ふじわらしのぶさん、マリカとは一体、――」

 と蔵人が言いかけた直後に、アグニとの戦闘が再開する。


 アグニは両肩から生えた巨大な主碗を切り離し、三体の機神に分かれた。


 「なッッ‼分身の術かよ――ッ‼」


 驚きと共にアンナが口走る。

 強ちその指摘は正しく、アグニは最後の手段として自身を三つに分けて最後の攻撃を仕掛けてきた。

 

 もはや両者ともに攻めるにせよ、守るにせよ後というものが無い。


 「マリカはおそらく君たちにとっての復讐の相手であり、旅の道標となる存在だ。これでいいかね」


 ふじわらしのぶは最後の出撃に向かうべくフットペダルを踏みこむ。

 あらゆるる意味で一種の賭けだった。


 「俺たちが勝たなければ真実を知る方法は無い、だってさ。アンナ」


 蔵人はボサボサに伸びた前髪を後ろに流し、覚悟を決める。

 その眼光はいつもののほほんとした彼を想像することが出来ない程に鋭い。


 「結局、行き当たりばったりかよ。兄貴、やっぱアタシらついてねえ」


 アンナはそう言いながらも内なる闘志に最後の火を灯す。


 リ・エスペランザは総重量10t超の剣の柄を握り、正面のブリーシンガメンに狙いを定めた。


 「あのさ、聞くだけ野暮だと思うけどアレが本体って確証はあるの?」


 リリは口の端を歪めながら皮肉っぽく尋ねる。

 何と無しに軽口を叩くが、彼女とてすでに覚悟は決めていた。

 

 アンナと蔵人の兄弟に出会い、この先どこまでも共に戦い抜く事を心に固く誓う。


 「勘。女の第六感」


 「あははは…同姓としてアドバイスさせてもらうけど。それって世の中で一番信頼出来ないんだけど」


 リリは思わず苦笑する。

 そして三人はほぼ同時に操縦桿を握った。


 「よくぞここまで私を追い詰めた。褒美だ、完全なる消滅を与えてやろう」


 アグニは自分の背丈よりも大きくした紅蓮の槍を構える。

 分身を含めた三者三様の亀は一軍に匹敵する猛威を感じさせた。


 「ははっ‼今度は質より量ってか‼その調子で負けた時の言いわけも考えておけよ‼」


 アンナが吼えると同時に、リ・エスペランザは両翼を展開して一気に距離を詰める。

 

 左右からブリーシンガメンの分身が槍の穂先を向けて、リ・エスペランザの奇襲に応じた。


 「長物なんざにビビるアンナ様じゃ無えっ‼」


 アンナは天剣をもって是を一気に薙ぎ払う。


 「チィッ‼頑張れ、マッちゃん‼男は度胸だッ‼」


 「前向きに検討させていただきますよ、お嬢っ‼」


 切っ先が触れれば一瞬で万物を焼き払う紅蓮の猛火は刃に触れた直後に消滅する。

 だが光の剣を纏う灰塵の輝きは三分ほど薄くなってしまった。


 「フハハハッ‼やるではないか、アフラマヅダ‼だがこちらのエネルギー動力源が都市一個分だという事を忘れるな‼」


 アグニの哄笑と共に紅蓮の槍が再生する。


 「確かに”槍”は無限に再生するだろう。だが貴公の肉体は後何回再生できるのだ?」


 ブゥアサッ‼


 背後に突如として現れる片翼のバードマン。

 最後の力を使い尽くして、鉤爪のついた足で中央のブリーシンガメンに蹴りを見舞った。

 

 直後、腰部の複腕からGチタニウム製の剣をリ・エスペランザに向って投げた。


 「愚かなカーボノイドよ。貴様など最初から数にさえ入っていないのだ。猛火に灼かれて天へ還るがいい‼」


 左右から迫るブリーシンガメンの槍。

 されど今のバードマンにそれを避ける余力はなく、腰と背中を同時に貫かれた。

 コックピット近くで爆発が起こりバードマンは炎に包まれる。


 「ベッドの上で大往生できるとは思ってはいない。私は軍人だ。それぐらいの覚悟は出来ている。だが、活路は活路を事は出来たようだ」


 橙色の炎に包まれながらふっじわらしのぶは笑っていた。

 そう彼は囮としての”任務”を果たしたのだ。


 地リ・エスペランザは面に突き刺さった剣を引き抜き、全身のスラスターを起動させるべく”溜め”の時間を作る。

 

 「見事だ、ブタ野郎。お前の犠牲は忘れねえよ」


 いつの間にか出ていた満月を背にリ・エスペランザはブリーシンガメンの死角に陣取っていた。

 その手に握られているのはGチタニウム製の剣。


 「光のフラガッハならまだしも、そのようなナマクラで私を斬る事などッ‼」


 リ・エスペランザはブリーシンガメンの左の肩口から腰に向って一気に刃を振り下ろす。


 

 ぞんっ‼



 地面にごろりと転がるブリーシンガメンの右腕。


 「再生…なッ⁉」


 剛腕はそのまま主の意思に反応を示すことなく灰燼に包まれ、あっという間に崩れ落ち砂の一部になってしまった。





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