第九話 おっさん虫歯大王の入れ歯を買う為に奮起する。新たなる敵、怪人スカフィッシュの登場は激闘の予感だぜ‼
私はりんご歯科に虫歯大王を連行した。道中、彼は私の腕に噛みついたり、脱糞失禁を繰り返して逃走しようとしたが肘の関節を外して無力化する事に成功した。
「次に暴れたらもっとひどい目に合わせるからな」
私はハンニバル・レクター博士(レッドドラゴンの時の)みたいな姿になった虫歯大王を引き摺ってりんご歯科に到着する。
道中、虫歯大王は「ハッカーが」とか「ダークウェブが」と色々と意味不明な発言を繰り返していたがヤツの大嫌いなセロリを口の中に突っ込んで黙らせた。
大人がセロリ食えないって恥ずかしすぎるぞ。
「じゃあ総入れ歯ですね。500G(※五十万円くらい)になります」
私は二重の意味で目が飛び出るような思いとなった。
虫歯大王は前回の治療の後に通院を拒否した挙句、暴飲暴食を繰り返す事でさらに虫歯を進行させてかなり重度の歯槽膿漏となっていたのである。
歯科医助手の話によれば仮に施術しても残った歯は四本くらいになるらしい。
(これでは虫歯大王ではなくレレレのおじさんだ…)
私は全身に拘束具を付けられたハンニバル・レクター博士(羊たちの沈黙の方)と化した虫歯大王を見る。彼の瞳は怒りに満ちており、いつ世界を滅ぼしてもおかしくはないほどの熱気を放っていた。
「いいか、虫歯大王。これからは俺は大工の仕事とかをしてお前の入れ歯の金を稼いでやる。感謝しろとは言わんが毎日歯を磨け、月に一度は歯医者に行け。いいな?」
「…ブラッドリベリオン…、ブラッドリベリオン…」
そしてまた虫歯大王は謎の呪詛に満ちた特急呪物の名前を口にする。
その言葉が何を意味するかはわからない。だが「なろう利用者のAはプロ作家だ」とか他人の素性を許可なくばらすのはプライバシーの侵害というもんだろう。(続く)
PHASE 14 LONG SHOT
通信回線が開かれ、モニターに肉々しいふじわらしのぶの顔が映った。
彼の首周りには荒縄の跡があったがいずれも先ほどの首吊り刑と無縁とは思い難い。
蔵人とリリはなるべく見ないようにしていた。
「チッ」
アンナは露骨に嫌悪感いっぱいの顔になり、舌打ちをする。
彼女の世界ではふじわらしのぶのような肥満体の中年に人権はおろか生存権は無い。
「兄貴。あのキモイおっさんに今すぐバンザイアタックしてもらえないか聞いてくれる?」
アンナはポケットから無造作にチョコバーを取り出し、バリバリと貪る。
少し前まで悲壮感溢れる雰囲気だったが、良い意味で心機一転出来たようだ、――というか噴火寸前の活火山のような危うさを醸し出していた。
こういう時のアンナと接する場合は実兄の蔵人も爆発物レベルのあつかいになる。
要するに火気厳禁(※発言的な意味で)だった。
「アンナ、今のご時世でバンザイアタックは駄目だよ。そういうのはモラハラとかパワハラ認定されちゃうからね。どうせならもっとオブラートに包んだ言い方をしないと…」
「へッ。豚がチャーシューになったって誰も困らないっつーの」
アンナの一言を聞いた一同は、ふじわらしのぶの流線型ボディを思い出してコックピットの中で笑い転げる。
通信網は開いたままだ。
リリは一早くその事に気がつき、口元に人差し指を立てる。
蔵人は罪悪感を覚えながら、両手で自身の口を塞いだ。
実に気まずい沈黙が二機の間で流れる。
最初に沈黙を破ったのはふじわらしのぶの方だった。
「さて諸君。今の今さらだ。私一人がローストポークになったところで事態は好転しないのはご存知の事だろう。安心したまえ。私もこの手のジョークは嫌いではない」
しっかり気にしていた。
「だな。それでブタのおっさんはもう勝利の算段は決めているんだろ?教えてくれよ」
アンナは食べ終わったチョコバーの包み紙を丸めてポケットに入れる。
彼女の表情には些かの余裕が見られる。
表には出さないが友軍の登場で心に余裕が出来たらしい。
「流石はアンナ君だ。部下に欲しいくらいのメンタルの切り替えの早さだよ。作戦の話になるが、まず相手を動かすところから始めるべきだと思うのだが、どうかね?」
ふじわらしのぶの乗るバードマンは烈風荒れ狂う熱砂の中心に立つブリーシンガメンの方を見る。
周囲に出現させた必殺の投げ槍は未だバードマンの方に向けられることはない。
おそらくはふじわらしのぶを敵とさえ認識していないのだろう。
「動かす?意味わかんねー」
「そうだな。私に言わせれば、あの機鋼軍神は何故、手ずから君たちを攻撃しないのかというのが気になっていたんだ。圧倒的な火力を持つ”彼”ならば自動追尾装置のついた武器なくとも、近接兵器で制圧できるのではないのか?」
リリはバードマンからブリーシンガメンの方に視線を移す。
ふじわらしのぶの指摘通り、ここ一連のブリーシンガメンの動きは異常だった。
敵を寄せつけぬ圧倒的な火力を誇り、戦場の土台そのものにも干渉し得る文字通り”神がかった”力の持ち主が自分から攻めて来ないのか。
あのとてつもなく厄介な力場をさらに広範囲に展開すれば、有人機であるリ・エスペランザを打倒するなど容易なはずである。
「あ。わかった」
アンナは即座に答えを思いつく。
と言っても彼女は理屈よりも行動を優先するタイプなので、ある程度は注釈が必要となるのだが…。
「向こうも万全つーかパーペキな状態じゃない。もしかしてウチのエペ公をぶっ倒してエネルギーを補給しようとしている…?」
アンナの呟きとも何とも言えないような回答に、リリと蔵人は言葉を失う。
「確かに。マツダさんの話じゃ、アイツ昔ドンパチやった時にかなりやられたって言ってたような」
「うん。機鋼軍神に自己修復機能があったとしても完全に復元するのは不可能だと思うわ。マツダさん、どう?」
リリがそう尋ねると、マツダはすぐに目の前に佇むブリーシンガメンの状況を分析かつ推測する。
――一わずかな逡巡の後に導き出された答えとは実にシンプルなものだった。
「流石はお嬢、冴えていますね。あの元上司の身体は空っぽですよ。灰塵で外殻を覆っているだけの」
マツダはすぐに蔵人たちに可視化されたブリーシンガメンの本体をコンソールに映し出した。
案の定、頭部と核を含む胸部の一部、そして巨大な手腕以外は偽物である事が判明した。
「いくらアグニが機神権能をまんま使えても、あれじゃあ底の抜けたバケツですぜ」
蔵人が小さく挙手をする。
「それじゃあ砂漠の真ん中に放置すれば、飢え死にするんじゃないの?」
「駄目ですぜ、坊ちゃん。それじゃあさっきまでアッシらが隠れていたコーカサスの廃墟を発見さてしまいまさあ。奴さんも馬鹿じゃねえ、しばらくおとなしくして完全回復したら手当たり次第に仲間を増やして大暴れするでしょうね」
人型戦車の大軍を引きつれたブリーシンガメンの姿を想像し、蔵人は思わず怯んでしまう。
コーカサスに住んでいた際に、機鋼軍神たちには人型戦車を従える権限が存在することはマツダから聞かされていたのだ。
「マツダ君、私も一つ質問を宜しいかな?」
「あ、ブタの旦那。どうぞ何でも聞いて下さいよ」
ふじわらしのぶはバードマンのコックピットの中で一人、凍りつく。
彼の人権は人工知性のマツダよりも下位にある事を思い知らされた瞬間でもあった。
「ははは。我々が打ち解けた、という事で手を打とうじゃないか。はっはっは…。時に敵機の核とやらは”これ”でも破壊可能なのかね?」
ふじわらしのぶは自機のコンソール内に自分が所持する長距離弾頭を搭載した重火器”バリスタ”を表示する。
「ああ、その物騒な玩具ですかい。うーむ…”炎の壁”さえ無ければ十分可能っすね」
「ふむ。蔵人君、ではこれを使って敵機の核を破壊してくれ。私は囮役を買って出る」
ふじわらしのぶはバードマンの手からリ・エスペランザに向ってダマスカス軍謹製の大型長距離用ライフル”バリスタ”を手渡そうとした。
「待ってください、」ふじわらしのぶさん。そのこんな時に無責任とは思いますが、実は俺とアンナってメッチャ狙撃が下手でして…」
「下手な鉄砲数撃ちゃ当たるってね」
申しわけなさそうな蔵人と対照的に、なぜか誇らしげなアンナの姿があった。
残るリリも兵器の扱いに関しては一応使える程度なので、黙っている。
四人の間に沈黙の時が続いた。
ばささっ‼
数秒後、リ・エスペランザは四枚の翼を広げて、これ見よがしにブリーシンガメンの前に姿を現した。
数百年の時を経て、因縁深き二体の機鋼軍神らが真正面から睨み合う。
一方は猛き怒りを、もう一方は灼熱の憎炎を双眸から解き放った。
この戦い、いずれかの死でしか止まらないのだろう。
まずマツダ、――リ・エスペランザがブリーシンガメンに向って宣戦布告する。
「あくまで自分たち以外を認めるつもりは無いのか、アグニ。その傲慢さが我らを破滅の道へと誘ったというのに。今のアトラスを見ろ。かつて栄華を極めたディアノイドの文明がどこに残っている!?」
普段とは違う、正々堂々としたマツダの態度にコックピット内部で固唾をのんで見守る彼らの仲間は、
――正直な話、引いていた。
「引くわー」
「ちょっとあり得ないかも」
アンナとリリは口々にマツダの変貌ぶりに呆れている。
だが想定内の出来事なのでマツダは動じない。
「無理して関西弁使っている芸人さんみたいだね」
「おうふ‼」
ガクッ‼
大きく後方によろめき膝をつくリ・エスペランザ。蔵人が止めを刺した。
「坊ちゃん…。こっちがアッシの地の性格なんですって」
一瞬の間、――蔵人らは底なしに冷たい視線を向けた。
「笑止千万。アトラスにおいて炭素由来の付属品どもが、繁栄する事が出来たのはルシファーの功績。即ち我らの助力あってのことではないか。アトラスは地表の大半が砂漠、重金属を含んだ海水は工業用水にさえ使えぬ。資源は惑星数千メートルにしか存在し得ない。我らの助力があってこ00カーボノイドが生存で来たのだ支配を受けるのは当然だろう」
「そのルシファーに良からぬ知恵を吹き込んで誑かしたのは貴方たちだ、アグニ」
マツダの言葉を聞いて、蔵人のみならずふじわらしのぶも立ちすくむ。
「訓示だ、アフラマヅダ。断じて我らは彼を騙したわけではない。ホラ、何と言ったか。カーボノイドどもの「映画」というデータファイルにあったな。猿が地上の支配権を握り、人類を家畜として支配する世界。そこでよその惑星からやってきた宇宙人が、人類を猿の支配から解放しようとする”喜劇”だ。アレは実にいい。気に入っている」
アグニは声には恍惚の響きがある。
「そういうのを余計なお世話というんだ」
「違うぞ、アフラマヅダ。良種が悪種を駆逐して、次の支配者となる。悠久不変の真理という奴だ」
ふじわらしのぶはバードマンのコックピット内で大きく嘆息する。
彼の懸念は二つあった。
その一つは、リ・エスペランザたちが人類よりも先に惑星アトラスで文明を築いていた事である。
彼もまた多くの人間同様に、人工知性らはルシファーの被造物だとばかり思っていたのだ。
(よりによって先住者だったのか、彼らは…)
ふじわらしのぶは彼の脾腫の中で眠り続ける”ウルスラグナ”に思い馳せる。
仮に彼ないし彼女が覚醒したとしても必ず味方になるわけではない可能性がたった今、生じたのだ。それは誤算以外の何物でもない。
(アグニとやら捕獲することは出来ない物か…。アレをマリカに持ち帰る事が可能ならば、研究は飛躍的に進む…)
軍務に従事しながらも、ふじわらしのぶの脳裏には常にマリカという組織の進める惑星アトラスにおける人類史の黎明期の謎を解く事にあった。
権力者や研究者の走狗として従順なフリをしているのも目的があっての事だ。
「いっそ彼らを裏切って、アグニを支援するか…」
ふじわらしのぶはバードマンの持つ”バリスタ”の存在を意識する。
今ならば背後からリ・エスペランザを撃つ事も可能である。
「おい、ブタ」
妄想中断、地獄の使者からプライベート回戦で連絡があった。
「今テメエの邪悪なオーラを感じたから、一応言っておく。もし裏切るようなフリを見せたらコイツをぶっ倒した後にお前のQDを破壊する。んで全裸にした後でロープで縛ってから引き擦ってダマスカスの連中に国家予算レベルの身代金付きで交換する。ハイ以外の返事は聞きたくねえな」
「YES、マム」
ふじわらしのぶはコックピット内で敬礼をする。
「よっし。じゃあアタシらはブリーシンガメンを誘導するから、準備が整い次第撃破しろ」
アンナは力強くボタンを押して、通信を切った。
ふじわらしのぶは冷や汗をかきながらバリスタ発射までの最終チェックを行う。
曲者ぞろいの実験部隊を率いる彼だったが、先の逆さ吊りの刑以来、苦手意識が芽生えていた。
「果たして作戦が成功しても、私は生きていられるのだろうか…」
暗鬱な未来に憂いながらも、ふじわらしのぶは目的地である”見晴らしの良い高台”を見据える。
そこにブリーシンガメンなる機鋼軍神が到着した同時にリ・エスペランザが強襲を仕掛け、全力の一太刀を浴びせた直後にバリスタで追撃する。
実に非効率的な作戦だが、ふじわらしのぶは岡嶋兄妹なら成功させる可能性があるのではないかと考える。
(この私が他者に期待するなど、まだそんな人間らしい感情が残っていたとはな…)
ふじわらしのぶは岡嶋兄妹の姿を思い出し、自嘲気味に笑う。かくして熱砂舞う台地でリ・エスペランザとブリーシンガメンの戦いの新たな局面に移ろうとしていた。
俺は近い将来、絶対に比良坂黄泉先生のような小説家になって高級タワーマンションに住んで、毎日コンパニオンとか呼んで王様ゲームやったり、ポッキーゲームやったりして、女体盛りにワカメ酒の酒池肉林のフルコースみたいな生活をしてやる。その為にはもう手段なんか選んでいられないんだ…‼
うおおおおっ!はがないみたいなヒット小説を書いて書籍化してやるぞおおおっ‼
AIによる診断結果 … 多分一生無理です。病院に行きましょう。




