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ミッドフィルダー タクマ ~強豪校のエースが田舎の学校でサッカー始めました~  作者: 或 真土
異世界に転移したおっさんが大活躍する小説「おっさん、異世界で魔王と戦う。その名も虫歯大王。食べた後は歯を磨きなさい。虫歯になってからでは後悔しても遅いです」
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第八話 おっさん、虫歯大王に説教をする。「歯槽膿漏は放っておくと治らない。歯医者に行きなさい」と。しかし虫歯大王は屁理屈をこねて行かない。ここから始まる逆転劇。

 「馬鹿なッ‼田村ゆかりは十七歳じゃないのか⁉」


 虫歯大王の怒声が林の中に鳴り響く。彼は「俺の幼なじみと彼女が修羅場」のアニメ版から田村ゆかりの大ファンで十七歳という公式設定を妄信していたのだ。


 「あのな、田村さんは初代ギャラクシーエンジェル」の時から声優をやっておられるんだ。今は二十七歳くらいじゃないのか?」(※かなり譲歩した)


 ふじわらしのぶは予想以上に切れ散らかしている虫歯大王に引いている。だが虫歯大王は一向に話を聞こうともせず、いつも持ち歩いているストロングゼロと睡眠薬を一気飲みする。


 ――彼の腎臓の数値が少し心配になった。


 「ゆかりが、俺の女神が二十七歳だなんて‼お前は嘘をついている‼ふじわらしのぶ、お前には天罰と地罰の両方が下るぞ」


 「わかった、わかった。それいいから」


 ふじわらしのぶはアルコールと薬物を交互にがぶ飲みする生き物を憐れに思った。


 (彼とて元からこうだったわけではない。ただ仲間を裏切り続け、また仲間からもひどい仕打ちを受け続けた事が彼をアル中ジャンキーにしてしまったのだ…。おお、神よ。虫歯大王に愛と安らぎを)

 

 ふじわらしのぶは一応キリスト教徒なので、虫歯大王に向って心の中で十字を切る。虫歯大王はどこか虚ろな目で何も無い方をみながら「ごちうさ」の登場人物と会話していたが彼が幸せならそれでいいと思っている。


 「あがあああああああああッ‼歯が、歯がい痛いっ‼染みるぅぅぅっ‼」


 虫歯大王は顎を抑えながら泣き叫んだ。差し歯と高濃度のアルコール飲料との相性は最悪でおそらくは摂取を控えるように医者から忠告されていたはずだ。


 虫歯大王はまた周囲の期待を裏切ったのだ。


 「痛い、痛い、痛い。お母さん、歯が痛いよおおおおおおおっ‼」


 「待て待て。ホラ、ロキソニンを用意したからこれを飲んで落ち着け」


 ふじわらしのぶは炉ロキソニンの錠剤を虫歯大王に渡す。そして常備している人肌くらいの温度の麦茶

 を渡そうとした時に悲劇は再び起こったのだ。


 「がああああああああっ‼しみる、歯茎にしみるうううっ‼」


 虫歯大王は地面に転がり、のたうち回る。何と彼は麦茶では無くストロングゼロで薬を飲もうとしたのだ。当然、神経に染みる。小学生でもわかる理屈だろう…。

 ふじわらしのぶは彼の肩を抱いて背中を叩き、何とか落ち着かせようとしたが虫歯大王は止まらない。


 「ブラッドリベリオン…。ブラッドリベリオン…」


 虫歯大王はうわ言のように何度も呟く。その言葉にどんな意味があるのか、ふじわらしのぶは知る由も無いがきっと何かの闇に通じる言葉なのだろう。


 「これが地罰というものか…」


 ふじわらしのぶは因果応報の理を胸に刻み、虫歯大王を連れてりんご歯科に向った(続く)


 

PHASE 13 GOD OF FRAME 


 砂塵を巻き上げ、機神が空を飛ぶ。背中から生えた四枚の翼は浮遊因子に変換された灰塵’ジン)を放出する事で人型戦車の飛翔を可能にしていた。

 岡嶋アンナは最低限の出力で光の剣”フラガッハ”を起動させ、初太刀を狙う。

 

 対してアグニは悠然と構えるのみ。焔が逆立ち、尖塔となってリ・エスペランザに襲いかかった。


 「アンニャロ…奇襲を読まれていたか」

 

 間一髪の差でリ・エスペランザを炎の柱の波状攻撃を回避する。操縦担当の蔵人は歯を食いしばり、ひたすら一定の距離を保ちながらこれらを避け続けた。


 リ・エスペランザは接近を試みたが、その度に灰塵ジンを纏わせた熱風により行く手を阻まれる。


 そして距離を置くと手槍による追撃が始まる。自身の武器が銃によって破壊される事を学習したブリーシンガメンは槍そのものを強化して発射する。

 リ・エスペランザはそれらを巧みに回避しながら攻略の糸口を見つけようとするが、ブリーシンガメンは敢えて距離を置く。


 ――双方決定打に書ける膠着状態が続いていた。


 「やりずれえー。おい、マッちゃんよ。アイツの弱点とか無いのか?火属性だから水属性の攻撃に弱いとか」


 アンナは額の汗を拭いながらマツダに尋ねる。

 直接の被害こそないが、ブリーシンガメンの周囲は彼の機神権能によって一面、炎熱に覆われている。

 おそらくは灰塵を変化させて展開している力場なのだろうが、現状ではどうする事も出来なかった。


 「空調はエネルギーの消耗に繋がるから、もう少し我慢してね。今敵のエネルギーパターンを解析しているから」


 アンナの隣の席に座るリリはサーモグラフィーで表示されたブリーシンガメンの画像と睨めっこをしている。

 それはあらゆる意味でリリの想像を超えていた。


 天に向ってそびえ立つ巨体の中央から、もしくは臓器と思われる器官の各部から色が変化している。


 煩雑に、まるで脈動するかのように。


 画面に表示されたブリーシンガメンの姿は機械のそれではなく生物そのもだったのだ。


 「ええっ⁉生きているの、アレ?」


 リリの隣に座るアンナも画面に映るブリーシンガメンの姿を見て絶句する。


 「ぜってーナマモンじゃん…アレ」


 怖いもの知らずのアンナとて、被造物と信じて疑わなかった人型戦車と思しき物が意志を持った生物だと知れば心が動かされてしまうのは止む無き事だろう。


 「そうっすね。アッシらにも一応、動力源のコアってのがありましてね。それを、こう、必殺の光の剣とかで破壊すれば何とかなるんじゃないでしょうかねえ」


 シーン、と水を打ったかのように静まり返る。


 ようやく返ってきたマツダの答えに、アンナたちは疑惑の眼差しを向けた。


 「ヨシ、マツダ。テメエのすっ呆けた正確に免じて一回だけチャンスをくれてやる。お前のクソ上司のコアの明確な位置とヤツの範囲攻撃の回避方法を教えろや」


 「待って下せえ、お嬢。アッシは前線で戦うのが仕事で敵の弱点を探すのは偵察機とかそういう…」


 マツダは後方に控えるバードマンの方にカーソルを表示するが、ふじわらしのぶからは何も返って来ない。実際彼は仕事の最中だったのだ。


 「おんどれ、ロボ吉ッ‼メカの分際で仕事を丸投げしてんじゃねえッ‼」


 すごい剣幕で画面を叩き割ろうとしたアンナをリリと蔵人が抑え込んだ。

 蔵人はアンナに好物であるコーヒー味のガムを与えて鎮火に尽力する。


 (マツダさんのこういうところってたまにイラっとするんだよね)

 

 しかし、内心ではアンナに同情をしていた。


 何の因果かマツダは蔵人の両親にサルベージされた際にかなり能天気な性格に改変されてしまったのだ。元からこうというわけではない。


 「落ち着いて、アンナ。コアの位置の算出は私がするから」


 リリは汗を含んだ前髪をいじりながら激昂するアンナを諭す。


 「流石リリちゃん、男どもと違って頼りになる」


 アンナはジト目で実兄とマツダのアイコンを睨んでいた。どうやら男性というだけで同罪らしい。

 当て馬にされた蔵人はこれ以上のとばっちりを受けない為に黙々と回避移動に徹する。


 ブリーシンガメンが自分の「の陣地に引っ込んでからの攻撃は精密射撃よりも、威力に重きを置いていた。


 (この程度なら強引にマツダさんと接続コネクトしなくてもリ・エスペランザの能力だけで回避出来る)


 蔵人は足底部のホバー機構を応用して、手槍による砲撃を紙一重で避け続けた。


 「リリちゃん、こっちのエネルギーは?」


 蔵人は汗の珠を飛ばしなら、アンナの向こうの席にいるリリに尋ねた。

 当のリリは弾倉の確認と敵のコアの位置を調べている最中である。


 「飛行とか無茶をしなければまだまだ戦えるわ。ただ…」


 リリは首元に溜まった汗をタオルで拭きとる。

 ブリーシンガメンが自身の得意とする炎熱の力場を形成してからは、コックピット内の温度もかなり上昇している。

 空調によって温度は一定に保たれてはいるが、この先戦闘を続ければ熱中症になる恐れがあった。


 「リリちゃん、おっぱいに溜まった汗ならアタシが拭いてあげるよ?」


 「結構です。そのいやらしい手つきを止めさなさい」


 アンナはニヤケ顔でリリに迫るが、一瞬で手首の関節を極められて辞退した。

 リリは痴女アンナを撃退した後に再度サーモグラフィーとして出力されたブリーシンガメンを確認するが一向に核らしきものは見当たらなかった。


 「マツダさん、核に特徴はあるの?」


 リリは画面をじっと見つめながらマツダに尋ねた。

 オレンジ色の熱源はいくつか判別できたが、いずれも似たような形質を保っているので核本体とは断言できない。


 「そうっすね。まず核は、機鋼軍神一体につき一つしかありません。アグニの野郎もそこまで馬鹿じゃありませんからね。偽装くらいはしていると思いますよ?」


 「偽装…」


 リリはそう言われて画像を凝視する。

 マツダの指摘通り、オレンジ色の熱源はどれも核本体に似せてはいる。

 だが仮にそうだったとしても果たしてアグニがこちらの探査装置を考慮せずに戦いを挑んできているのか?


 ――と問われれば俄然ともう一つの可能性が法理に浮かぶ。


 (――あれは”ダミー”だ)


 リリは己の直感を信じて、まずマツダの核の位置を確かめる。

 検索するとすぐにリ・エスペランザの頭部にそれがある事を見つけ出した。

 問題はその形状と波長だ。リリは手元のコンソールを素早くチェックしてマツダの核と同等の形状の物を探査する。

  そして、その答えは予想よりも早く出てしまった。


 「あれの中にあるの?」


 リリは顔を引きつらせながら、ブリーシンガメンの腹部にある炎を見た。否、炎というよりも太陽のふフレア現象に近い熱の塊だ。


 「”灯台下暗し”って言う言葉があるけど、灯台そのものが探していたものっていうのは新しいかな…」


 蔵人も送られてきたデータを見ながら辟易している。


 「火中の栗って、火じゃんっ‼アレに手を突っ込んだらこっちは燃えちゃうよ‼」


 アンナがあまりの突拍子の無い事態を目の当たりにして叫んでしまう。


 「このアグニの肉体、ブリーシンガメンに死角無しッ‼アフラマヅダ、かつての同胞としての慈悲だ‼我が浄化の炎で辺獄リンボ葬送おくってやろう‼」


 ブリーシンガメンは芝居じみた動作で両手を掲げ、目の前に多数の投槍を出現させた。


 宣告の後に出現した六本の槍の周囲の風景は高熱の為に歪んで見える。


 アンナは内心の動揺を隠す為に大きく息を吐く。


 「兄貴、リリちゃん。こんな時に悪いけど、でかい賭けに出てもいい?」


 アンナは白い歯を出してニッと笑って見せる。


 「お前、賭けって…」


 アンナは不敵な笑身を浮かべながら続ける。

 小憎らしい事に親指などを立てていた。


 「あの槍が発射された瞬間に、イチかバチかで突っ込んで脳天かち割るってのはどうよ?」


 蔵人は無言で額を手で覆った。

 彼もそう考えなったわけではないが、どう考えても失敗する確率の方が高かったので言い出せなかったのだ。

 仮に槍を全て回避しても、あの炎の海をどうやって越えて行くのかとマイナス要素を考えればキリがないほどだ。


 「いいわよ、それで行きましょう」


 リリは腕と顔の汗を拭い、答える。

 女性であるリリの男前すぎる英断に蔵人は逆に引いてしまうほどだった。


 「あのさ、リリちゃん。これってかなり死亡率の高いミッションだよ?赤の他人みたいな俺たちと心中することになってもいいの?」


 リリは毅然とした態度で答える。


 「私が野垂れ死ぬだけならまだしも、あれを放っておけばかならずジェノバにまで来るわ。だったらここで倒すしかないでしょう?蔵人、覚悟を決めて。今貴方がエスペランザを降りても私は恨まないから」


 「ぐぅ‼」


 リリの一大決心に蔵人は気圧されてしまう。

 心優しい彼は当初から最悪、リリとアンナを降ろして自分だけでブリーシンガメンに立ち向かうつもりだった。


 「今さらヘナチョコ兄貴が自己犠牲の精神を爆裂させてどうにかなるような状況じゃねえよ」


 アンナの一言に蔵人は肝を冷やす。血の繋がりは伊達や酔狂ではないということか。


 蔵人は今一度、覚悟を決める為に深呼吸をする。


 「チャンスは一度だよ、多分…」


 次の瞬間、一段と強い熱風がリ・エスペランザのコックピット内まで届いてきた。

 じんわりとした嫌な汗が流れ落ちる。敵の圧力を直に受けているような気分だった。


 「この世に奇跡は無えよ。常に()()()()()()()だ。エペ公をさっさと敵の真上まで運んでくんな」


 アンナは首にかけていたゴーグルをかけて操縦桿を握り締める。

 残った二人は一言も発する事無く各々の仕事に没頭した。


 そして、世界の命運をかけた一戦が始まる、――はずだった。


 蔵人の目の前にある画面が呼び出しに切り替わり、突如として明滅したのだ。


 その相手とは――。


 「こちらダマスカス軍所属のふじわらしのぶ中尉だ。現状は大まかにだが理解している。蔵人君、私に何かできる事があるか?」


 間も無く半壊したバードマンが大筒を抱えて、現場に到着した。



 




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