第七話 異世界に転移したおっさん、虫歯大王に説教する。夜中の九時以降に飯を食べてはいけない。アルコールの過剰摂取は控えなさい、と。でも虫歯大王はいう事を聞かなかった、。
「ええっ⁉井上喜久子って17歳じゃないの⁉」
ヘンリーは素っ頓狂な声を上げる。パトリックも目を大きく開いたまま動かない、彼らの驚いている表情を見て、満足したケビンは得意気に語り始めた。
「ああ、俺が調べた話では本当は二十歳くらいだそうだぜ?全く年齢をサバ読みやがって。これだから女はみんなビッチなんだ」
ケビンは優越感に浸りながら堂々と語る。だが私が中学生くらいの時に「ふしぎの海のナディア」でエレクトラ役で井上喜久子さんは出演していたのだ。十七歳でも、ニ十歳でもないだろう。
「わかったか、童貞ども。声優の女はみんなビッチだ。でもラブライブの女の子たちだけは別だぞ。彼女らは本物の学生でみんな男と付き合った事なんかない」
私は自信満々で妄言を語るケビンの姿に一抹の不安を覚える。確かに彼女らが彼の言う様に全員汚れを知らない乙女であったとしてもそれがケビンとどう関係があるというのだろうか。
(ここでケビンを嗜めるのは容易な選択だ。だからあえて余計な茶々は入れずに放っておこう)
私は声優ネタで盛り上がる三人の男たちを生温かく見守る。
仮に彼等の中の一人が運良く所帯を持ったッとしても何も言うまい。結婚するもしないも所詮は個人の自由だ。
「おい、お前ら。この虫歯大王様を無視するとはいい度胸だな」
そんな中、かれこれ一時間ほど放置されていた虫歯大王が会話に入ってきた。ヘンリーたちは一瞬だけ
虫歯大王の方を見たがすぐに自分たちの会話に集中する。
私は虫歯大王の肩を叩き、別の場所に移動する事にした。(続く)
PHASE 12 REMATCH
風塵舞う、砂漠の荒野で二体の機神は睨み合う。
理由を知らずとも両者の間に何らかの因縁があることは間違いはない。いつもはふざけた態度のマツダもこの時ばかりは一分の隙も見せなかった。
――彼は今まで恩人である蔵人の両親、蔵人とアンナには過去を語った事は無い。そうしなければならない理由があったのだ。
「醜い。もはや同胞と呼ぶ事さえ厭わしいぞ、アフラマヅダ。我らディアノイドは完成された生命体。経年劣化を宿命づけられた炭素体の下流に甘んじる事などあり得ぬ。己が所業を恥じて自決してしかるべき事態だ」
ガバッ‼
中世ヨーロッパの騎士が身に着けていた兜のような頭部の前面が開く。
どこまでも続く空隙は人間の口によ酷似しており、彼が知性をもった存在である事は疑いようがない。
あくまで悪意ある存在だ。
「何が炭素体だ。馬鹿馬鹿しい。我々とて進化と改良の果てに辿り着いたのは、お前たちの言う野蛮な炭素体への寄生ではないか」
「黙れ、弱輩」
マツダは普段のおどけた様子とは違う強い口調で言い返す。
アグニたちは強弁を振るい、甲斐に置かれた立場の者たちを必要以上に圧迫して種の存在を脅かしたのだ。今となってはマツダたちの築いた文明はわずかな残滓だけで何も残ってはいない。
アグニの今の肉体、”女神の首飾り”とて人類が持ち込んだ人工知性によって再現されたものにすぎない。
ある意味、彼らは既に滅び去った種族なのだ。
「かつて栄華を誇ったエリュシュオンの栄光はどこに消えた?我々だ。我々が先人の叡智を踏みにじり、滅ぼしたのだ。恥を知れ、アグニ」
リ・エスペランザは右手を固く握りしめ、熱弁を振るう。
この時、本人は自分の世界にどっぷりと浸っていたのだが…。
「うわ、マッちゃん。キモイ…」
「マツダさんってそういうキャラだっけ?」
長いつき合いの岡嶋兄妹からの受けは良くなかった。口に来S出してはいなかったが、リリも少しだけ引いている。
「言うではないか、アフラマヅダ。貴様如き蝶にも為れぬ芋虫がどうやって今の私を倒すのか、見せてもらうか‼」
ブリーシンガメンは翼を広げてリ・エスペランザを威嚇する。
真ん中と左右の肩から生えた首が瞳に憎悪の輝きを灯し、一斉に睨んできた。
「さあ‼いっちょお願いしますよ、お嬢。あの時代遅れの型落ちのおっさんうぃおギャフンと言わせてやってくださいっ‼」
マツダは勢い良く啖呵を切ってから、アンナに放り投げた。
「おい…」
ガンッ‼
アンナは腹立たし気にマツダのアイコンが映るモニターを殴る。
「テメエの尻はテメエで拭けや」
怒りに震えるアンナの瞳が赤く染まる。
その迫力は実兄と友人が思わず引いてしまう程だ。
「岡嶋アンナ、こちらはアドラーだ。我々はブリーシンガメンにどう対応すればいい⁉」
「…」
アドラーの切迫した声を聞いてアンナは我に返る。
ダマスカスの人間に対して特に思い入れは無いが、知り合ってしまった以上ここで見捨てるのは後味が悪すぎるというものだ。
「ヒゲ(※アドラーの事)、とりあえず逆さ吊りにしてあるブタ(※ふじわらしのぶの事)を回収して工場(※コーカサスの工場の事)まで撤退しろ。場所はオッサン(※オブライエンの事)が知ってるから‼」
アンナの話を聞いたアドラーは目を白黒させて部下たちを見る。
如何なる状況においても会話の主導権を渡さないのが、彼のポリシーでもあった。
「大尉殿、今はアンナさんに従いましょう。アレは我々に太刀打ちできる相手ではありません」
「うむ…」
歴戦の勇士オブライエンに肩を叩かれて、ようやくアドラーは落ち着いた。
(このまま主導権を奪われたまま行動するのは性に合わないが、アレの相手をするのは危険すぎる)
アドラーは周囲の目もくれずに親指の爪を噛む。
両親や妻からよく注意されている幼い頃からの良くない癖だが、ここまで切迫した状況ともなれば出てしまうのも止むを得ない。
「オブライエン。中尉殿はどうするの?」
ロジャーが頭上に吊り上げられたふじわらしのぶを指さす。
もう手遅れかも知れないが、先ほどからピクリとも動いていない。
「ああ、急いで降ろしてくれ。私は進路を確保する」
ふじわらしのぶの救出には彼の妄信者であるジークフリードが名乗り出て、速やかにかつ丁寧にに救出された。
「流石は我が実験部隊の精兵だ。君の活躍にはいつも驚かされるよ、ジークフリード」
ふじわらしのぶは真っ青な顔で笑顔を作る。
顔の上半分が遮光マスクで覆われている為に正直とても怖かった。
「こちらこそありがとうございます、中尉殿」
「うむ。それでオブライエン、岡嶋兄妹は何と?」
ふじわらしのぶは起き上がり周囲を見渡す。
怒り心頭を発するブリーシンガメンは目前に迫り、かの鬼神が放つ熱気はふじわらしのぶたちの元まで届いていた。
(これがあの機鋼軍神の権能というものか。全く資料を拝見した時は質の悪い御伽噺と笑っていたものだが…)
ふじわらしのぶはブリーシンガメンを見ながら軽く嘆息する。
かつての機鋼軍神の片鱗を匂わせるリ・エスペランザと接触したのだから、いずれ機鋼軍神とも道具するとある程度は予想していたが現状では時期尚早というものだろう。
何よりブリーシンガメンに対抗する手段が無い。
「中尉、蔵人君たちにはコーカサスの工場に退避しろとの事ですが…」
オブライエンよりも先にジークフリードが事の顛末について告げる。
ふじわらしのぶは少し考える素振りを見せた後に答えた。
「ならば従う他あるまい。案内はオブライエンに、君はチャーリーとアドラーを乗せて指定されたポイントまで運んでくれ」
貴公子然としたジークフリードの顔に”険しさ”が現れる。
二人との関係性は天敵といっても過言ではない。
「…彼らには徒歩で移動してもらいましょう」
「おい‼流石に死ぬだろ‼今までの事は水に流してやるから…」
狼狽するチャーリーの背後から腕がにゅっと伸びて、彼の首に巻き付く。
次いで流れるように裸締めを極めて、チャーリーを眠りの世界に誘った。
「事態を急を要する。ジーク、今回は私の失態として謝罪しよう。すまなかった」
アドラーは意識を失ったチャーリーを背負い、ジークフリードに頭を下げる。
生意気なわK増に頭を下げるなど断じて許しがたい屈辱だったが。目の前の機鋼軍神を見れば考えも変わろうというものだ。
「私は殿を務める。非難ポイントに到着した際には連絡をくれたまえ、アドラー」
ふじわらしのぶはそう言ってスクラップ同然となったバードマンの方に向かう。
戦闘力はほぼ失われたが、主碗である二枚の翼と脚部はまだ健在だ。
何より彼がダマスカスの”工房”から持ち出した長剣だけはどうしても見放すわけにいかなかった。
「それでは中尉殿は特等席で神々の戦いをご観覧というわけですね」
アドラーはため息をこぼしながらも略式で敬礼する。
ふじわらしのぶがこの程度の戦闘で死亡するなどとは微塵にも思っていなかったが、今回に限っては分が悪い。
「そういう事だ。それでは諸君、健闘を祈る」
かくしてダマスカスの兵士たちは以前に蔵人たちが仮初の宿として使用していたコーカサスの工場に向った。
その背中を見守りながらも、ふじわらしのぶは右手の甲に宿す情報結晶を見る。
クリスタルに包まれた彼、ないし彼女は未だに目覚める気配は無い。
(この戦いの中でウルスラグナが目覚めれば、私自身について何かを知る事が出来るかもしれんな)
ふじわらしのぶは自嘲気味に笑う。
そして一陣の風が大きく吹き荒ぶ。リ・エスペランザとブリーシンガメンの戦いが始まったのだ。
「アンナ、エネルギーは回復しているけど、光の剣はそう何回も使えないから気をつけてね」
リリは手元のコンソールで弾薬とエネルギー量を確認する。
敵の戦力が未知数である以上、油断は出来ない。何よりもアンナの好戦的で向こう見ずな性格は見ているだけでも危なっかしい。
「そうだよ、アンナ。リリちゃんのいうう通りだ。お前はいつも俺のアドバイスを無視して敵に突っ込むけどさ」
無言で高速のエルボーが蔵人の鳩尾に突き刺さる。
「うざっ」
アンナは一撃で実兄を黙らせると目の前の集中する。
ブリーシンガメンの巨体は人型戦車というよりも戦艦のそれに近い。
さらに両肩から生えた頭が常にこちらを凝視していた。言うまでも無く左右、中央の頭は独立して対象を監視することが出来るのだろう。
「マッちゃん、アイツの主要武器は?」
カッ‼
マツダが答える前に、蔵人がペダルを踏み、レバーを引く。
背部のブースターが咆哮を上げ、リ・エスペランザは敵から大きく距離を置いた。
「兄貴、グッジョブ‼」
アンナは顔面蒼白となった蔵人に向って指を立てる。
「ああ…その、間に合って良かった」
蔵人は目を大きく開きながら足元を見る。
間一髪の差だった。
ついさっきまでリ・エスペランザが立っていた場所に大きな穴が空いていた。
空洞からは噴煙が上がり、周囲は黒く染まっている。
「次、来るッ‼アンナ、リリちゃんッ‼しっかり掴まっていて‼」
蔵人はペダルを踏んだまま、操縦桿を左右に動かす。
リ・エスペランザは砂の上に波線を描き、次々と榴弾を回避した。
「撃ってないじゃん!大砲ついてないじゃん!どゆこと!?」
アンナは改めてブリーシンガメンの姿を見直す。
ブリーシンガメンは驚愕の眼差しを受けている事を見透かしてか、右の指をこすり合わせて鳴らした。
ジュボッ‼
その直後、人差し指の先に火の玉が生まれる。
「機神権能の使い方も忘れたのか、エスペランザよ。こうやって大気中の灰塵を収束させて…」
ボウっ‼ボワワッ‼
指先に発生した火の玉はブリーシンガメンの意のままに大きくなる。
ブリーシンガメンは満足そうに己の武器の出来栄えを眺めていた。
「我らディアノイドは、ロゴスを介して様々な物理現象を引き起こす事が出来るのだ。このような理は基礎中の基礎だぞ?」
ブリーシンガメンは目の前で燃え盛る火の玉を指でピン、と弾いた。
「マツダさん‼」
「ブリーシンガメン…アグニの野郎は火の権能に長けた機鋼軍神です。火傷覚悟で戦いましょうや‼」
「ざけんな‼後退だ、兄貴ッ‼」
アンナはモニターに拳骨を振り下ろした後、蔵人に指示する。
言われるまでも無く蔵人は操縦桿とペダルを巧みに操って、火球の直撃を避けた。
「何?機鋼軍神は灰塵から直接モノを作れるの?」
リリは目を白黒させながらマツダに尋ねる。
灰塵は惑星アトラス固有の物質で、電磁波などで干渉することにより集積させて物体を作る事が出来る。
灰塵がある場所ならばいつでも展開可能な魚鱗装甲などがその最たるもので様々な分野で活躍していた。
しかし現段階では構造が資材,建材といった物質構造が単純な物を作るのがせいぜいで榴弾のような複雑な構造の物体を生成するという話はリリでさえ聞いた事が無い。
「ああ、そうか。蔵人坊ちゃんたちは機神権能使えなくて当然か。すいませんね。あんまり当然な話なんで使えるものかと思ってましたよ。てへっ」
「てへっ…じゃねぇっ‼」
アンナは立ち上がってモニターに何度も蹴りを入れる。
画面にひびが入る前に蔵人とリリが何とか彼女を諫める事に成功したが、マツダのアイコンは「SOUND ONLY」になっていた。
後日蔵人が聞いた話によるとコックピット内部の出来事はある程度マツダにも感知できるらしい。
「それで対策は?」
「頑張って、相手の攻撃パターンを覚えて…」
「ああッ⁉」
アンナが一睨みで鬼も殺せそうな目つきになる。
マツダは沈黙を守らざるを得なかった。
「エネルギー切れを狙うってのはどうかしら。マツダさんの光の剣だって乱発すれば、リ・エスペランザのエネルギー総量を軽く超えてしまうでしょ?あれほどの高威力の攻撃を続けて出したら、自己回復能力を持つ機鋼軍神でも限界がくると思うわ」
「ううむ。消極的すぎるな。アタシの性格に合わないかも」
ボワッ‼
二人の会話を遮るようにブリーシンガメンの放った炎の弾が迫る。
リ・エスペランザはギアボックスから光の剣を取り出し、火の玉が爆ぜる前に斬った。
ジュオッ‼
橙色の炎の塊が、光の刃に引き裂かれて四散する。
アンナはバックラーで火の粉を払い、次弾に備えた。
(まだ遊ばれているな…。いやこっちの力を値踏みしてんのか?舐めやがって…)
アンナは舌打ちしながら光の剣をギアボックスに戻す。
彼女は光の剣が火の玉に対して有効な手段だと知っていたわけではない。咄嗟の閃き、第六感によるものである。
「マッちゃん、この剣ならアイツの攻撃を切れるわけ?」
「まあ、フラガッハはアッシの機神権能なわけですから出来るんですけどね。エネルギー効率が良くありませんね」
さらにブリーシンガメンの方から光球が数発打ちだされる。
威力よりも速度を重視したもので、リ・エスペランザの回避運動をある程度予測した軌道だ。
「ああ、もうッ‼また避けなきゃいけないなんて‼」
蔵人は再度、後方に身を翻しつつ光の弾丸を回避する。
光の弾はリ・エスペランザの腰と足首を掠り、その度に機体が大きく揺れた。
「ダメージを受けた場所に灰塵を被せておいたわ。これだと運動能力を損なわずに、戦えるでしょ?」
リリの機転により、攻撃によって焼け焦げた箇所は白い煙のようなものを拭きつけて応急処置が施される。
アンナはその間にギアボックスから銃を取り出し、ブリーシンガメンに向けて数発撃った。
ガンガンガンッ‼
次の瞬間、金属が何かにぶつかった時のような音が鳴り響く。
「稚拙な武器だな、カーボナイト。射撃とはこういうものだ」
ブリーシンガメンは砕け散った魚鱗装甲を浮遊させ、手槍に変化させた。
「貫け」
ブリーシンガメンの目の前に出現した灰塵で作られた手槍は回転しなばらリ・エスペランザに襲いかかる。
リ・エスペランザは上半身を反らしてこれを回避する。
空を引き裂き尚も回転し続ける手槍の存在にアンナは違和感を覚えた。蔵人も同様だったらしくすぐに手槍の射線上から離脱を試みた。
ギュルルルッ‼ギュンッ‼
手槍は岡嶋兄妹の予想の通り、地面に落下せず背後から襲いかかってきた。
グッ‼
そして一部始終を傍観していたブリーシンガメンは右手を握り締め、再び身近に手槍を誘導する。
「どうだ、アフラマヅダ。少しは機鋼軍神同士の戦いという物を思い出したか?」
ブリーシンガメンはそう言いながら空中に十字を描く。
すると地面から灰塵が吹き上がり、二本の手槍が生まれた。
「させるかよ‼」
アンナは生まれて間もない手槍を銃撃する。
弾丸を受けた二本のうち一本は崩れ去り、もう一本は即座に撃ち返された。
「バレバレなんだよっ‼」
アンナはそれを光の剣で叩き落とす。間髪入れずに前進して一撃を入れようとするが…。
「太陽の掌」
ブリーシンガメンがそう唱えると高熱を纏った突風がリ・エスペランザを襲った。
「ああ、もう。次から次へと…ッ‼」
リリは全身に灰塵を纏って是に対処する。
対熱硬化は期待出来ないが、何もしないよりはマシといった対処法だった。
全身が真っ白な灰塵塗れになったリ・エスペランザは後退を研ぎなく強いられる。
鉄壁の防御と数多の武器を操るブリーシンガメンはさながら難攻不落な要塞だった。
放心状態の蔵人の肩にアンナが手を乗せる。
「そういうこった、兄貴。アタシとリリちゃんはとっくに覚悟出来ているんだからさ、兄貴も覚悟を決めろよ。もうアタシらはアイツを倒して前に進むしかねえんだ。なあ、マッちゃん」
ガンッ‼
アンナは操縦用のコンソールを力いっぱい叩いた。
画面には涙目のマツダのアイコンが表示される。
「お嬢、アッシはこれも精密機械なんですって。どうせ死ぬまでついて行くつもりですから乱暴は止めてくださいよ‼」
マツダの電子合成音を聞いて、アンナは口元を歪ませた。
「よっし。兄貴、やろうぜ、アタシらの戦いを」
アンナは頬を手で叩いて気合を入れ直す。それを見た蔵人も真似をして自分の頬を老手で叩いてみた。
バチン。
思いの他、力んでしまってかなり痛い思いをしてしまう。
頬の痛みを堪えながら蔵人はブリーシンガメンの攻撃予測データを片っ端から頭の中に叩き込む。
リリは冷却剤の代わりにリ・エスペランザの周囲に灰塵をばら撒き、さらにコックピットとメインコンピューターの空調をフル稼働させて突撃に備えた。




