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ミッドフィルダー タクマ ~強豪校のエースが田舎の学校でサッカー始めました~  作者: 或 真土
おっさんに転生したおっさん異世界に転移して、自分の人生が無駄なものだと悟り全世界を道連れに消滅する
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第四話 異世界に転移したおっさん、転移先で自分の死体と遭遇して人生の真理に目覚める。…やはり全てが無駄だった。

 ~ 前回までのあらすじ ~


 異世界に転移した私はとある森の中で死体と遭遇する。それは私の死体だった。


 これは一体どういう事なんだ?

 とりあえず木の枝に吊るされた死体を降ろした私は、バラバラに刻んで埋める事を画策する。いくら顔見知りがいない世界でも他人から変に勘繰られるのは御免だ。当然の処置だろう。

 私はまず胴体を半分に死体を寝かせる場所を確保する為に行動した。


 「すいません、おじさん。もしかしてお一人ですか?」


 私が眉間に皺を寄せながら徒労に勤しんでいると、いかにも無遠慮というか無神経そうな若者が声をかけてきた。私は基本的に誰とも話したくはないのでコイツは悪人認定してやる。


 「ええ、そうですよ。私は佐久間一郎といいます。こことは別の世界から来ました」


 私は普段からは考えられないほどの明瞭な笑顔で挨拶を返す。こういう空気の読めない馬鹿は、人当たりの良い態度を取っておけば適当に納得して勘違いをしてくれる。


 せいぜい俺の掌の上で踊るがいい…。


 「ああ、それはご丁寧に。僕たちはここいら一帯を巡廻している国境警備隊の者です。名乗るのが遅れてしまいました。ヘンリー・アーチボルトという者です、どうも」


 ヘンリーは人懐っこそうな笑顔を見せ、握手を求めてくる。奴の周囲には美男美女が揃っており、一目見ただけで彼らがクラスの一軍の陽キャ集団であることが窺えた。


 よし、殺そう。出来るだけ苦しめてから。


 私は腹の中に沸いたどす黒い情念の炎を絶やさぬように注意しながら、ヘンリーの手を握る。


(畜生めが、昨日チンチンしごいた時に手を洗うべきじゃなかったぜ。そうすればコイツの手に汚え俺のチンポのイカ臭を移してやれたのによ…)


 俺は続いてヘンリーの仲間たちか自己紹介を受ける。どいつもこいつも人を疑う事を知らないような甘ちゃんにしか思えないので俺に出会った事を後悔するくらい酷い目に合わせる事を決意した。

 見当はずれな悪意の連鎖は止まらない。これがリアルなおっさんってモンだ。(続く)




 それでは「斬光のエスペランザ」、始まるよ‼




 PHASE 09 MISSION IMPOSSIBLE


 「お嬢、もしかしてアッシの中に別の人が乗っていたりします」


 「うん。リリちゃん」


 リリは驚愕のあまり思考停止して、沈黙を守っている。


 人工知性、――かつて宇宙船に積まれて人類と共に惑星アトラスにやってきた人類にとっての無二の親友だったはずの存在。だが人類のあくなき闘争の歴史に嫌気がさしたのか、ついに彼らは反旗を翻した。

 惑星アトラス史上において約半分となる五百年くらいの時間は人類が機会に隷属している。

 ゆえに今の人類にとっても自立型の人工知性は恐怖の大将でしか無かった。


 リリとてその例外ではない。


 「あれ?リリっちどした?」


 リリは居心地の悪そうな顔でコックピット内の機器を見つめている。

 正直な話、人工知性の搭載された人型戦車に乗っていることがリリにとっては不測の事態だったのだ。むしろ岡嶋兄妹の方が異常という事になる。


 「大丈夫なの?…そのリ・エスペランザさん…は」


 リリは一言一句に気をつけながら鳩が豆鉄砲を食らったような顔つきのアンナと蔵人に尋ねた。勿論、モニターに映るマツダの存在もしっかり忘れていない。


 「まあ普通そうだよね。あはは…」


 蔵人はリリの姿を見て渇いた笑いを漏らす。彼もまた十数年前に両親からマツダの存在を知らされた時の事を思い出していた。

 当時は教育機関や周囲の大人たちから 人工知性 = 悪 と教えられていた為にマツダの顔が映っているモニターを椅子で壊そうとしていたのである。


 「とりあえずリリちゃんの脳髄にプラグさして操ったりはしないと思うから安心してよ。基本兄貴と同じヘタレだから」


 アンナは笑いながらモニターのバンバン叩いた。


 「あはは…」


 「嫌だな、お嬢。アッシの事をそんな風に考えていたんですか?それモラハラですって」


 リリとマツダは同時に引きつった笑顔を見せる。

 マツダの顔は旧世紀のドット絵に近いものだったが感情表現は多彩だった。


 「うう…。もしかしてとんでもなく酷い犯罪に巻き込まれてるような…」


 リリは空中に視線を彷徨わせながら、しばらく考え込んでいた。

 学校では変わり者で取っている彼女だったが、岡嶋兄妹とマツダほどではない。


 「ところでマッちゃんや。あのボンレスハムみたいな体型のおっさんの中にいるの?マッちゃんの同類」


 「同類…。ああ、眷属の事ですか。何分サアッシらはお嬢たちとは構造からして違いますからねー。どれどれ」


 マツダは首に巻きついているもう一つの頭のメインカメラを点灯させてバードマンの姿を目に焼き付けた。


 ふじわらしのぶとアドラーはリ・エスペランザの意外な行動に一瞬、身構える。


 (あれが例の智天使ケルブの瞳”というヤツか。レポート通りとはいえ厄介な)


 ふじわらしのぶはバードマンの背中にあるギアボックスを起動させて周囲に霧状の灰塵ジンをばら撒く。”砂漠デザート外套カーテン”と呼ばれる他個体の感知器に対する防衛手段だった。欠点は友軍機との通信が難航する事で単独行動時以外は使用する事を控えている。


 「また部下への説明がややこしくなりますな、中尉殿。敵機の性能にずいぶん詳しいようですがそれも”マリカ”の機密情報ですか?」


 アドラーは憮然とした表情でふじわらしのぶを睨む。

 オブライエンたち軍部の人間を軽んじるのはまだ許せるとしてもダマスカスの軍閥から出向してきているアドラーにまで隠し事をするのであっては敵意を向けざるを得ない。彼はダマスカスの特務機関”マリカ”について以前から違和感を覚えていたのだ。


 「仮にも互いの背中を預け合っているのですから、最低限の情報開示はしていただかないと」


 噴飯やるかたなしといった風情で言葉を続ける。


 「すまないな、アドラー。察しの通り私は”マリカ”の犬だが、これに限っては個人的な情報なんだ」


 「ほう」


 アドラーは目を細めて感心したフリをする。その冷めた語気からしてふじわらしのぶへの不信感は増すばかりといったところだった。ふじわらしのぶもまた己の道化ぶりに苦笑している。

 

 「何と言えばいいのか。そうだな。私の中の私が認知できない情報がそう言っているんだ」


 そう言ってふじわらしのぶはアドラーに自分の左腕の袖の中身を見せる。人工皮膚と有機プラスチックに覆われた義手だった。別に珍しい代物では無かったが特にアドラーの目を引いたものは別にある。

 彼の手の甲に埋め込まれた菱形の水晶の存在だ。


 「それは記憶結晶というものですか…。まさかそれが中尉殿に目の前の怪物の性能について教えてくれたというのですか?」


 ふじわらしのぶは袖を下ろした後に息を吐く。


 「そういう事だ、ドラー。まだ覚醒に至ってはいないが、おそらくあの人型戦車クワドリガの中にもいるのだろう。ラグナと同じ知性生命体ディアノイドが――」


 ふじわらしのぶがアドラーに自分の秘密を打ち明けていた頃、同様に蔵人はリリに自分の右手の甲を見せていた。

 彼とアンナもまた幼い頃両親によって情報結晶を埋め込まれていたのだ。


 「すごい。初めて見た」


 リリは蔵人の手を取ってまじまじと見ている。アンナ以外の女性に身体を触れられて、恥ずかしさのあまり蔵人は顔を真っ赤にしていた。


 ちなみにリリもまた肉親以外の手を握った事などないのでこの後盛大に赤面することになる。


 「言っておくけどさ。これって精密機械だから、基本水は厳禁で風呂に入った後は綺麗に拭いているんだ」


 「せめて防水仕様にして欲しかったね」


 アンナも運転用の指抜き手袋を外して、自身の手の甲を見ている。


 「肌の手入れには特に気を使っていてね。食器洗いの後はニベアは欠かさない」


 「そう。それね」


 その後、蔵人とアンナは都市外部におけるスキンケアについて力説した。とても大事な話になるがその間の遮蔽物への移動はリリとマツダが共同して行っている。その場しのぎとはいえ中々のコンビネーションだった。


 「ありがとう、マツダ…さん?」


 「いえいえ。リリさんも結構いい腕でしたよ?」


 リ・エスペランザは横転しながらバードマンの攻撃を回避して岩陰に身を潜める。既に戦闘は続行されており、ふじわらしのぶはバードマンの持つ拳銃の弾丸を再装填していた。


 「敵の動きが鈍くなっていたような…」


 「フッ。この私を相手に遊ぶとは舐められたものだ」


 ふじわらしのぶは空になったカートリッジをギアボックスに収めると拳銃を片手にリ・エスペランザの追跡に戻る。

 大気中の灰塵ジンを集めて3Dプリンタで弾頭を生成するのはこの時代の惑星アトラスの戦場では珍しくない光景だが、命中度に今一つ信用が置けないという理由でふじわらしのぶは常に予備の弾頭を携帯していた。

 おかげでQDが余計な荷物を背負うことになるだが彼の戦闘時における敵機撃墜率は確かな物である為にその不毛な行為を誰も咎めはしない。


 「ウルスラグナといいましたか、それは。彼は同族との接見について何か言っていますか?」


 「いや何も。そもそも私は(ウルスラグナ)と話をした事が無い。機能の一部を使わせてもらっているだけだ。しかし彼らはどうだろうか?」


 ふじわらしのぶはゴーグル越しにリ・エスペランザを見る。背中から伸びたもう一本の首についてる顔がじっとバードマンを睨んでいた。


 場所は変わってリ・エスペランザのコックピット内。そこでは岡嶋兄妹の議論が始まっていた。


 「このまま一気に接近して勝負を決めるの‼」


 「敵に躱されたらどうするんだ、この狂戦士愚妹ッ‼」


 もはや敵機の内部にいるであろう人工知性についてではなく次に取るべき戦術についての口論になっていた。

 エネルギーの残量という視点から考えればアンナの意見も正しいのだが、他のダマスカスの兵士たちが約束を守るとは考え難い。

 特に秋ほどの顔合わせでチラ見した人馬型のQDとの追いかけっこともなれば如何にリ・エスペランザであろうとも苦戦を強いられるだろう。


 「ところでマツダさん。あのバードマンの中にはいるのかしら?貴方のお仲間は…」


 リリは手袋を嵌め直しながら蔵人とアンナの姿を見ている。あと少し時間が経過しても兄妹喧嘩を止めなかったら鉄拳制裁を加えるつもりだった。


 「いますねー。一〇〇パーくらいの確率で…。アッシらにはリリさんたちのような肉親とか、同郷意識とかそういった関係性は稀薄でしてねえ、世代が違うってだけで敵対しちまうんでさあ」


 マツダは過去の出来事を思い出しながら自虐気味に語る。しかし、それが本来何を意味するのかは岡嶋兄妹でさえも未だに理解出来ていない。


 「プログラムが世代で対立か。わかるような、わからにような…。それでコンタクトは取れたの?」


 リリは岡嶋兄妹の方をジト目で見る。アンナにヘッドロックされた蔵人が一方的二殴られている光景が目に映った。


 (やっぱり後で二人まとめて殴ろう…)


 ゴーグルの下に隠れているが額には既に血管が浮かんでいる。


 「さっきからやっているんですけどねー。音沙汰無しです。でも前もって忠告しておきますが、リリお嬢さん、アッシ等には話し合いによる戦争回避ってのはありませんぜ?」


 「アナタたちって何よりも無駄を嫌うんじゃないの?」


 「いえいえ。それは買い被りってもんですよ。アッシ等は新旧の入れ替えとかでしょっちゅう全滅戦争やっちゃうんでさあ。何せ、この身体も行ってみればおまけみたいなモンですし」


 「へえ…」


 人工知性マツダの合成音に自虐めいた響きが感じられる。おそらくは彼らにも人間では計り知れない事情という物があるのだろう。リリはそんなマツダの内心を察して黙っている事にした。


 「アイム・ザ・ウィナー‼」


 気がつくと兄妹対決に決着がついていた。勝者は岡嶋アンナ、蔵人は顔に幾つもの引っかき傷を作っている。


 「うえええええんっ‼絶対に負けられない戦いなのに、早くも泣かされたああああっ‼」


 泣き叫ぶ蔵人。あまりにも情けない茶番劇を見せつけられ、リリは少しだけこの二人に出会った事を後悔していた。


 「さてどうすっか…」


 ――パチンッ。


 アンナは掌と拳を打ち合わせて再度戦いに臨む。敵のバードマンは音も無くこちらに接近している。


 「とりあえず光剣フラガッハは封印ね。残りはメリケンサックとヴェノムピアッサーかあ…」


 アンナとてバードマンの異様なスピードには散々、苦汁をなめさせられている。


 「そうねえ…。この際だから通常弾で対処しましょう。今のバードマンなら魚鱗装甲スケイルの使用は控えるはずだわ」


 「なる。リリっちの意見採用っと。兄貴、マッちゃん、高速戦闘形態に変形してくれる?」


 アンナの提案を聞いて蔵人は顔面蒼白となる。リ・エスペランザの形態変化とは即ち、機鋼軍神により近い存在になる事を意味するのだ。

 今さらの話になるが、蔵人たちの両親が密かに機鋼軍神を再生する研究をしていたことはリリにも知られたくない事という感情がある。


 「…俺には戦う勇気が無い。ただの意気地なしだ。だからお前の決定には従う。だけど、いいんだな――アンナ。リリちゃんに本当の事を知られたら…」


 「くどい、童貞兄貴。あいつ等にはマッちゃんは渡さない。勝って前に進む。それだけに集中しろ」


 アンナは首に下げていたゴーグルをかけて正面を見据える。そこには銃を構えたバードマンの姿があった。

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