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ミッドフィルダー タクマ ~強豪校のエースが田舎の学校でサッカー始めました~  作者: 或 真土
ミッドフィルダー タクマ ~勝ち残れ!北海道大会Aブロック編~
10/25

SCORE 09 FIRST STEP

 ピリィィィィィッ‼


 主審がホイッスルが吹き、後半終了を告げる。オタモイ高校VS朝里高校は2ー2の同点のままだった。朝里高校の副将国本虎徹の顔にわずかな緊張が走る。


 (侮っていた…。梶原抜きでは烏合の衆だと思っていた…)


 梶原が怪我の再発を恐れ、一時ベンチに引っ込んだ後に総力を結集して追加点を狙った結果がこれである。自分たちは急増の弱小校にしてやられる程度の実力しか持っていなかったのか、と国本は己の見通しの甘さを責めた。


 「立てよ、虎徹。延長戦だ。身体が冷えちまうぜ?」


 ボールを最後まで押し込めなかった日向弘が悔しそうに言う。国本はその時、己の不明を恥じた。実力を出していなかったのはチームメイトではない、自分自身だったのだ。


 「悪い。俺サッカー舐めてたわ…」


 「俺もだ、虎徹。大川は札幌から小樽に引っ越してから一人で戦ってたんだ…。三年間、孤立無援で」


 日向は数年前、両親の仕事の都合で札幌から小樽に引っ越して行った大川ルイスの姿を思い浮かべる。どれほど心細かったか、理解者のいない場所で苦しんでいたかと思うと思うと不憫でならない。


 「勝とう、虎徹・俺たちの三年間がタダの仲良しクラブのサッカーごっこじゃなかった事を証明する為に…」


 国本はすぐに立ち上がり、チームメイトのもとに向って駆け出した。それに日向も続く。二人の全国級ストライカーに火がついた瞬間でもあった。


 「さーて、これで朝里イレブンに油断も何も無くなっちまったワケだ…」


 ベンチに戻ったタクマの顔にはいつもの気楽さが見えなかった。マネージャーの花園もスクラップ帳の過去のデータを眺めながら冷や汗をかいている。実際にオタモイ高校は崖っぷちに追いやられていた。DFのうち三人が怪我。GKの長沢に至っては指を骨折する始末だ。


 「一度の総力戦でチームが半壊。是がオタモイ高校の実力なんだよな…」



 

  わかっていると思うがここから先は選ばれた者しか入れない聖域だ。いいか、今まで人に迷惑をかけずに生きてきた善人だけがこの先に入る資格があるんだ。間違っても心の汚れた下衆は入るんじゃねえぞ。特にあれだ、俺を認めないヤツ。そういうヤツは「ゲラウェイヒア‼」って事だから、及びじゃないからそれだけは覚悟しておけ。




 ここまで言ってるんだ。わかるだろ?今俺がどれだけ心を痛めているか。察してくれよ、俺の心の傷を。例え明日俺に良い事が無くても、お前には良い事があるかもしれない。だからって調子こくなよ、雑魚助。俺は偉大なんだ。最高なんだ。俺的には既に天下を取ってるんだ。だから、だから…ポイント、ブクマ、いいねを忘れないでくれ。そして寝る前に俺の事を思い出してくれ。



 それが出来ないヤツは小説投稿サイト小説家になろうに入る資格は無い。消えろ。消えちまえ。俺にとって必要のない人間はいなくていいんだ。




 というわけで「斬光のエスペランザ」の続きだ。大した話じゃない。二、三

行で終わるから。


 PHASE 05 ”INTERRUDE” 


 岡嶋蔵人は煩雑に伸びた黒髪を掻き、事態を理解しようと努力する。

 目の前には猿轡をかまされ亀甲縛りにされた実妹。そして額から汗を流しながら怖い顔をしているショートカットの少女。


 ――普通に考えればこの少女に非があると思われるのだが、正確に難が在りすぎる妹が相手ならばむしろその反対の関係とも考えられる。


 「ええと、誰…さん?」


 蔵人は調子の外れた声でアンナに尋ねる。放浪生活が長い為、或いは元からの内向的な性格の為に初対面の女性に声をかけるのは躊躇われる。つまり岡嶋蔵人はヘタレなのだ。


 「私はリリ、――佐々木リリよ。衛生都市ジェノバの学生、こっちは命の恩人の岡嶋アンナさん」


 リリは肩で息をしながら不敵に笑っている。

 あれから小一時間、リリとアンナはお互いの尊厳をかけて戦っていたのだ。実際にアンナも簡単な格闘技の手解きを兄・蔵人から受けていたが、リリは引き籠もる前にはレスリング部に入っていたので負ける事は無かった。


 「それで貴男は誰?」


 リリは蔵人を指さす。一応、アンナの言うところの兄貴なのだろうが、彼女は再三兄という単語の前に変態と銘打っていたので心配になっていたのだ。


 「僕は一応ここの家主の岡嶋蔵人です」


 ペコリと頭を下げる。アンナの兄の第一印象は、――見ていて気の毒になるほど弱腰な態度の目立つ青年だった。


 「…もう止めてよね、全く」


 そう言ってリリは盛大なため息をつく。気のせいかもしれないが蔵人から怖がられているような気もする。


 「コホン」


 蔵人の登場で正気を取り戻したリリはアンナを拘束具から解放する。


 「それで兄貴、どこ行ってたの?」


 数分後、何事も無かったかのように三人はちゃぶ台を囲んでいた。

 テーブルの上には人数分の番茶が並んでいた。番茶特有の香ばしい匂いがリリの緊張を解きほぐす。


 「あ、それ飲んでいいよ。今お菓子用意するから」


 湯飲みを全て置いた後、蔵人は部屋の隅に置いてある大きな箱からポテトチップスとクッキーを持ってきた。そして皆が食べ易い様に袋を開ける。アンナはそれを無造作にバリバリと食べ始めた。


 「お前さ、お友達の前でそれは無いんじゃないの?こう「いただきます」とか言う事があるだろ?」


 「うるせえ、変態兄貴。それより今まで超可愛い妹放っておいてどこ行ってたのよ」


 「どこってマツキヨだよ、マツモトキヨシ。携帯トイレとゴミ袋が安かったんだ」


 蔵人はそう言ってズボンのポケットから携帯PCを取り出し、画面を二人に見せた。

 確かに画面には特売品という欄の中に「携帯トイレ」と「ゴミ袋」が明示されている。


 「スポドリの粉とミネラルウォーターは?」


 「あるよ」


 蔵人は大きめのバッグからスポーツドリンクの素とミネラルウォーターの入った大きなペットボトルを取り出した。

 アンナはそれらの品々に軽く目を通すと再び菓子をつまむ。


 「ところでアンナさんや、そろそろそちらの女性の紹介をしてくれませんかのう」


 蔵人はマツモトキヨシで購入した品々を冷蔵庫に入れながら尋ねる。

 一般的な話となるがこの時代の惑星アトラスの人間は基本的に都市の中で一生を終える。都市の外の世界はは昼は灼熱、夜は極寒の砂漠地帯なのでそうせざるを得ない。

 この二人の兄妹も故郷である工業都市シラクサを脱出してからは、人工知性たちが放棄したコーカサスのような廃墟群を本拠地として利用していた。

 中でもコーカサスの廃工場の内部は大がかりな発電機と生活支援用の貯水タンクが生きているので快適には程遠いがどうにか生存している。

 食料は今蔵人がしているように近くを通りかかった通商隊キャラバンの開催している市場マーケットだけが頼みの綱だった。

 また都市同士の交流はダマスカスのような特例を除けば皆無であり、下手に立ち入れば攻撃を受ける事になる。何より人類に偽装した人工知性たちの尖兵が都市に立ち入る事を、都市の人間等は恐れていたのだ。

 

 それほどまでにかの因縁深き”裁きの日”は人々の心に大きな爪痕を残している。


 「んー。アタシが優雅にブレックファーストを嗜んでいるところに、悪漢と巨乳美少女がやってきてえ。後一歩でレイプされそうにところを正義のヒロイン、アタシね、即参上。それでやっつけてやったわけよ」


 がっ‼


 リリは小柄なアンナの頭を脇に抱えてヘッドロックを極めた。表情が殺伐としているのは多分気のせいだろう。


 「おほほほ。お兄様、私が説明させていただきますわ。よろしくて?」


 そう言いながらリリは酸欠で抵抗出来なくなったアンナを放さない。基本インドア派だが、人型戦車のパーツ組み換えには体力が必要となる為にそれなりに鍛えていたのだ。


 「ど、どうぞ…」


 蔵人は息も絶え絶えとなったアンナをシーツの上に寝かせながら、リリが現状についての話を聞く事になった。


 「実は私、工業都市ジェノバの軍学校の生徒で…」


 「はあ…、結構なエリートさんで」


 故郷を追われ、流浪の身ではあるが工業都市ジェノバの盛況ぶりは蔵人とて知っている。

 その都市の有力者の子弟が軍学校に通う事は一種のステータスであり、いささか機械油の匂いが強烈だがリリの立ち振る舞いにからは育ちの良さという物を感じる。


 愚妹にガッチリと極まっているブルドッキングヘッドロックを除いて。


 「エリートって…世間的にはそう見えるかもしれないけどハッキリ言って落ちこぼれよ、アタシは。一族の誰にも期待されていないし。進学先だってとっくに没落している親戚が見栄張って勝手に決めたんだから」


 リリ自身は専門学校で技術と知識を学び、実家の工場で働くつもりだった。

 しかし本家から資金面で援助を受けていたリリの実家は本家の当主の命令でリリを軍学校に送り出す事になってしまったのである。

 機械関係の学科の成績ともかくほかの分野では常に底辺に入る為に、校内では肩身の狭い思いをしている。


 「アタシ将来は独立してQD(※人型戦車=クワドリガの事)関係の仕事で働きたいと思ってるのよ。それで実家の倉庫に眠っていたハウンドを引っ張り出してカスタムをカスタマイズして(※違法改造)して試しに都市の外で動かしてみたんだけど(※無免運転)」


 リリの語る”素性”の中には結構な罪状が揃っていた。通報すれば警察から褒賞がもらえるかもしれないほどの。


 蔵人とアンナは複雑な心境で聞き役に徹するしか無かった。


 「コーカサスの周囲がノーマークだった事は学校の授業で知っていた事だから、それで何回か試験運転に来ていたんだけど…今回はルシタニアの偵察部隊に見つかっちゃって、苦し紛れに蔵人たちの家に入ってきちゃったわけよ」


 「ははっ。俺たちも不法侵入者だからねっ。そこはお互い様って事で。それでルシタニアの兵隊さんたちは諦めて帰っちゃったの?」


 蔵人は流浪の身ゆえにリリの心細さを察する。最初ハナから蔵人たちをトラブルに巻き込んだ事を攻める気持ちは無い。


 「ええと…なんていうか、アンナがリ・エスペランザで助けに来てくれて」


 ぶほっ‼


 蔵人は飲んでいた番茶を一気に吐き出す。


 「お前、何やってんだよ‼エペの事が外部の人間に知れたら…」


 「だってえ…あのまま放っておいたらきっと今頃リリちゃんはさ」


 アンナは蔵人の耳元で囁く。すると蔵人の顔が一気に赤くなった。


 「そうなったら可哀想でしょ?」


 蔵人はリリの全身を凝視する。そして大量の鼻血を出した。


 「――確かにそれは大変だ…。よくやった妹。そんな嫁入り前の乙女が悪漢どもに寄って集って白濁液のプールに…おおぅっ‼」


 ガンッ‼ゴンッ‼


 鋼鉄のハンマーの如き拳が蔵人とアンナn脳天に容赦なく振り下ろされた。二人は激痛で言葉を紡ぐ事さえ出来なかった。


 「話の要点はそこじゃありませんから」


 「はい…」


 アンナは正座させられながら、ルシタニア兵との戦闘後にダマスカスの傭兵たちとも戦った事を話した。いつもは呑気な蔵人の顔にも焦りと緊張の色が見え始める。

 事と次第によってはいますぐにでもここを脱出する必要性が生じてきたのだ。


 「義勇軍と戦ったのか。それはまた厄介だったっろうな。二人とも怪我はしなかったのかい?」


 蔵人は年長者らしく二人の身の安全を心配する。


 「うん。リリちゃんって凄いんだよ、兄貴。エペ公に初めて乗ったのが信じられないくらいの腕前でさ」


 アンナは百戦錬磨で知られるダマスカスの傭兵たちを相手に華麗に立ち回ったリリの動きを思い出し、得意気な表情となる。

 彼女の嬉しそうな様子を見て、リリも気恥ずかしそうな顔をしていた。


 「うんうん、大したもんだ。マツダさんのサポート無しにそこまで戦えるなんて。駆動時の制御系統が普通のQDの二倍くらいあるから大変だったでしょ?」


 リリは蔵人の屈託のない笑顔を間近で見て、赤面する。

 蔵人とアンナは自分たちがいかなる事情でシラクサを追放され、リ・エスペランザを駆る事にになったかをリリに説明した。



 

 ――場所は変わってコーカサスの跡地から離れた汎人類同盟の首魁の一つ、産業都市ルシタニアとの国境近く。一面焼け野原となった草原の中心には神話に登場する人馬ケンタウロスの如き姿をした人型戦車が立っていた。



 ダマスカスの新鋭機”ケイロン”である。中世ヨーロッパで活躍した騎士の如く、機銃を組み込んだ突撃槍ランスを振りかざして地に伏すゴライアスの顔面を串刺しにする。

 操縦席ではプラチナブロンドの髪の青年が優雅な笑みを称えながら、眼下の敗残兵を見下ろす。


 「――我ながら悪趣味だとは思うよ、諸君。だがこうして圧倒的な戦力差を堪能するのも将帥たる者の特権とは思わんかね」


 そう言って噴煙を上げるゴライアスの頭部を踏みにじる。

 コックピットは既に突撃槍で貫かれているので万が一にもパイロットが生存している可能性は無かった。


 「ジークフリード()()、そろそろ引き上げませんか?テディのヤツがおとなしく留守番しているか、俺は心配でして」


 勝利の美酒に酔うケイロンの前にオルトロスが現れる。リリたちとの戦いで現れたものよりも軽装で、やや頼りない印象を受ける。それは斥候用のオルトロスで機体名をシリウスといった。


 「オットー君。テディの独断専行など今始まった奇行ではない。放っておきたまえ」


 それまでご満悦だったジークフリード・オースティン少尉の顔は一気に不機嫌なものに変わる。彼とセオドア・ワトキンソンは幼年学校から犬猿の仲だった。

 先に佐々木リリと岡嶋アンナの乗るリ・エスペランザにに敗北を喫したダマスカスの軍人の一人、チャーリーの本名だ。

 彼はダマスカス軍閥の一つ、アトキンソン財団の御曹司で公的には身分を偽って現在の試験部隊に所属している。

 ジークフリートと同じ小隊のオットー、マリアとは幼年学校からの腐れ縁でもあった。


 「マリア、燃料はどうなっている?」


 ジークフリードは敵残存勢力の確認に向かう前に先ほどの戦闘で消耗したエネルギーの残量を尋ねる。 

 人型戦車は基本、ギアボックスに搭載されているPFプロメテウスファイア機関によって半永久的な活動時間を約束されているが、機体の勝手が違えばエネルギー切れについても考えなければならない。  

 今日ジークフリード少尉が乗っているQD”ケイロン”はロールアウトしたばかりの新品だった。

 基地に戻った直後にはすぐにでも機体を洗浄してやるつもりである。

 ジークフリード・オースティンは優秀な軍人だが、やや潔癖症が過ぎるところが玉に瑕の男だった。


 「問題ありません、少尉。後一戦くらいは大丈夫でしょう」


 ジークフリードは静かに目を閉じ、相槌を打つ。心なしか表情に余裕が見られるのは予定通りに目的を達成したという何よりの証拠だ。


 「敵が弱いのか、はたまた我々の連携が一定の結果を出しているのか。甚だ評価が難しいところだな」


 今のジークフリート、マリア、オットーらによって構成された部隊は試験的に組まれたもので本来の物ではない。一糸乱れぬ動きは教本通りにしか戦えないルシタニアの兵士では物足りず、やや物足りなさを感じていた。


 「少尉殿、勝利の感慨に浸っているところ悪いですがねえ」


 そこにオットーから通信が入る。


 「どうした、准尉」


 通信電波の効果範囲を近距離に限定している為に人型戦車同士の距離が近く、わずかに不快さを感じてしまう程だ。

 オットーという男が何かと最悪のタイミングで悪い報せばかり持ってくるのが主な原因だろう。


 「オブライエンから救難信号が来てます。砂漠の真ん中で動けなくなったと」


 ジークフリードとマリアはほぼ同時に大きく息を吐いた。過度な諦念の溜め息である。


 「オットー、マリア。直ちに救援に向かうぞ。救援じゃない、鼻水を垂らして泣いている負け犬の泣き顔を拝みに、だ」


 ジークフリードはゆるいウェーブのかかったプラチナブロンドの前髪に手櫛を入れて、ケイロンの踵を返す。残るの二機のオルトロスも歩調を合わせる為に低姿勢のホバーダッシュでオブライエンの打った信号弾の反応近くまで移動した。

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