温泉大好き聖女様
子育てで忙しくてただ伸ばして引っ詰めて結んでいた髪も、こうゆっくりする時間があると手入れしたくなるもので。
思い切ってバッサリ、肩口くらいの長さに整えた。
化粧も最近全くしていなかったし、少なくとも【肥え太った家畜】と言われないくらいにはしてみますかね?…お腹のお肉はそう簡単に落ちるものじゃないけど。
そう言った自分磨きも、魔力を研鑽する事に繋がるって言ってたし、悪い事ではないわよね!
「あら、美味しい!なんの魚か分からないけど口の中です、と溶けて後味爽やかで…」
「セイレン魚です。コチラのローレライと良く合いますよ」
女将さんがグラスに入ったお酒を持って来る。昼間から呑むお酒は最高ね!!
「【転送魔法】も【転移魔法】と同じくらい高度な魔法の筈なのですが、…頻繁に元の世界に贈り物をしていて疲れないのですか?」
「そんなの、温泉に入ったらバッチリ回復してるから大丈夫よ!心配しないで、マリアちゃん」
だって、異世界の温泉ってびっくりするくらい疲労回復に効果があるんだもの。魔法使って、温泉入って、お布団で寝たら何の問題もないくらい。
長年の肩こりと腰痛も治って気分がいいのよ。
これで温泉あがりに牛乳とマッサージチェアがあれば文句無しだけど、牛乳はともかくマッサージチェアはないのよねー。
マリアちゃん曰く、「あるにはあるのだけれど、なにぶん型が古い魔道具で動くかどうか怪しい」との事で諦めた。
「そういえば、魔力の補填ってそろそろ終わる頃よね?あー、やっと誠一さんや子ども達に会えるのねー!!楽しみー!!」
マリアちゃんの表情がビシリ、と固まる。
何かあったのかしら?
―――スマホの着信音。
電話の主は諒太。
「お母さんだけど、何かあった?あ、もしかして、、彼女が出来たとか!!」
「ちょっとテレビ通話にするから、直ぐ見て」
むぅ。ノリが悪い。
て。
え"。
「リヒターくん?」
スマホの画面の向こうには、リヒターくん。
いや待って、何でリヒターくんがあっちに?
スパーン!!
部屋の襖をアノンさんが勢いよく開けた。
「溜まった魔力が消えていると思ったら、どういう事なのか説明出来るわよねぇ…?」
あ、コレは怒ってるな。
私は気付いていなかったけど、溜めていた魔力の補填が消えていて、リヒターくんがあちらにいる事で察しは付くんだけど。
「せっかくケイちゃんが帰れるところだったのに、アンタが邪魔してどうするのかしらねぇ」
「おかーさん、リヒターくんがひっつき虫なのー」