ウチの娘はあげません
先日召喚した【聖女】には娘がいる、と王子様の耳に入るのは韋駄天よりも速かった。
それというのもアノンさんの仔のリヒターくんが授業参観中のウチの娘の肖像画を手早く描きあげて「私の番が見付かりました」と仲の良い第2王子のシュナくんに丸々3日語り聞かせて新婚旅行の計画を立てているからだったりする。
仁奈はまだ8歳だし、仁奈が好きになった人と結婚して欲しいと言うのが親心。
息子達だって、結婚どころか、恋人のこの字すらないのだから早すぎると思うのよ、と言っても不思議そうな顔をしていた。
なんでも、エルド国の建国妃で聖女のアイと言う子が育った日本では小学校入学時から婚活が始まって中学卒業と同時に結婚する文化があったとかで、それが日本と言う国の常識だと思われていた様だ。
教会で読んだ彼女の手記によると、少子高齢化を最低ラインに収める方法としてAIが導入した法律でそう定まっていて、彼女にとっての元の世界の日本には、7歳歳上の恋人で婚約者がいたそうだ。
すごいな、別の世界の日本…
中学入学までは自由恋愛OK、日本政府を運営するAIが【理想の組み合わせ】として提示する組み合わせで結婚しても良いし、自由恋愛で見付けた恋人と結婚しても良い。
聖女アイは後者で恋人との再会の為に土地の浄化と魔力の補填を頑張っていたけど、建国王ランスが既成事実を作った。
「聖女って大変ね〜…」
私も一応は【聖女】だけれど、こーゆー事はなさそうで…
…自分で言ってて悲しくなってきたわ…
それはともかく。
「お前の娘を【聖女】として差し出せ!!」
頭がお花畑なのかな、ラートくんは。と言うか、【肥え太った家畜の様な女】の娘だけど、それはいいのかしら?
どれだけ【聖女】を妻にしたいのよ。
「ウチの娘はまだ8歳なんだけど」
「今から礼儀作法と王子妃教育を受けさせればデビュタントまでには立派な淑女に仕上がるだろうな!」
聞いてないな、コイツ。
コイツの相手をしている暇があったら魔力の研鑽を兼ねてポプリを作りたいんだけど。
この世界のハーブやお花って、魔力を編み込むと所謂現世利益のわかりやすい御守りになっていいのよね。
パート先の同僚が「宝くじで10万当たった」とか、「懸賞で欲しかったバッグが手に入った」とか、「ニートの息子が働きだした」とか言ってたし。
「聞いているのか、貴様!」
「兄上、聖女様の御子に手を出そうものなら魔族を敵に回しますよ」
あー、そーいえば【番】がどうこう、って言ってたわね、リヒターくん。
リヒターくんもリヒターくんで、結婚なんてまだはやいんじゃないかしら。
「ケイコ様、リヒター様は見た目こそ10代半ばですが、100年以上生きていらっしゃいますよ」
「そうなの、マリアちゃん?」
「かく言うわたしもハーフエルフですので、こう見えて80歳ですよ」
異世界って見た目で判断したら駄目なのね。
ん?
そうなると、リヒターくんって幼女趣味って事になるのかしら?
***
後日、すごい勢いで「【番】については本能的なものであって、オレの嗜好じゃないから!!あんなツルペタより、ニナの母親である貴女みたいにふくよかで母性の溢れた成人女性が好きだから!!」と言ったリヒターくんを誠一さんが絶対零度の眼差しで見ていたのはまた別のお話。