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ラムネシェルター  作者: 久方 夕
1/1

Episode 1

スズカはいつもの公園で友達とお菓子を食べ

てだべっていた。

駄菓子屋でちょうど最後の3つだったラムネを買

えて3人は上機嫌だった。

10時すぎのこんな時間に公園にいられるのは夏休みの特権だ。


「スズカのうちってさ今日なんかするの?ケーキ食べたりとか!」


「急にどうしたの?」


「えだって今日、誕生日じゃん。おめでとうやん」


スズカは今日が誕生日だということをすっかり忘れていた。


「施設にいたときは先生とかみんなに祝ってもらってたけど、今年はどうなんだろう。」


今日は誕生日は誕生日でも新しい家族との初めての誕生日だった。

そう思うととても緊張してきたのでつい、


「ねえ、今日の夜うちで誕生日会しようよ」


と言ってしまった。


「ううん、初めての誕生日でしょ。家族と祝ってきなよ」


友達は笑顔でそう言った。


施設にいた頃は3人は朝から晩までずっと一緒だった。物心ついたときにはもう施設にいて、物心ついたときには3人だった。

スズカは施設での暮らしが好きだった。

大好きな先生、お兄ちゃん、お姉ちゃん達、そして大好きな妹、弟達。

幸せだった。


そんなことを思い出しているとお昼ご飯の時間になってしまった。


「じゃあお昼ご飯だから解散ね。」


そう言って3人は別れた。スズカはお誕生日を祝ってもらうのが気恥ずかしかった。

ラジオ体操に行ってその帰りにお菓子を買ってという流れだったので、今日はまだ家族に顔を合わせていない。緊張しながら家に帰った。


「スズカちゃん、おかえりなさい。そしてお誕生日おめでとう。」


お母さんとお父さんはそう言って抱きしめてくれた。

お昼はそうめんを食べて、そうこうしているうちに一日はもう終わりかけだった。


夜ご飯を食べた後、私はケーキを食べて、そこから少し懐かしい日のことを思い出していた。

こんなに幸せなのに、なんだか申し訳なくなってこっそり外に出た。


初めはずっと施設にいたいと思っていた。だが、施設育ちではない友達の家へ行ったときに思ってしまった。私もあんな風になりたいと。大好きなお母さんとお父さん。頭を撫でて抱きしめてくれる。そんな家族というものに憧れてスズカは施設を出ようと決心した。本当は3人で同じ家へ行きたかったが、それはできないと言われた。なので3人は同じ学校だが、別々の家に住むことになった。


今、スズカはとても幸せだ。だが、少し心のどこかが冷たい。


「寂しい。」


自分の理解者の元から急に離れたものだから。そして家族とはコミュニケーションだということを知ってしまったからだ。スズカはまだこの家族に慣れていなかった。まだ知らない大人と話している気分のままだ。これから、私はお母さんとお父さんをちゃんと愛せるだろうか。


足は勝手に公園へと向かっていたみたいだ。

せっかくなので公園のベンチに腰掛けて黄昏た。


すると茂みからガサガサと音が聞こえた。

嘘。おばけ…?

そう思っているとそこから灰色の頭のおじさんが出てきた。


「わ!おじさんのおばけだーー!!!」


「し、静かにしろ」


そのおじさんはとても怯えた顔をしていた。携帯のカメラで照らすといっそうおばけらしくなった。

おじさんは無理やり作ったような笑顔で


「今、隠れ鬼してるんだよね。」


と言った。

そのとき、何人もの大人が大声を出して何かを呼ぶ声が聞こえた。


「やばい見つかっちゃったみたい。もういかなきゃ」


スズカはものすごく嫌な予感がしたので


「行く宛はあるの?」


と聞いた。

ニコッと笑い頷いた。爽やかな嘘くさい笑顔だ。

なんとなくスズカは言葉の続きを紡いだ。


「じゃあうちきなよ。」


大人の声が近い。スズカはそのおじさんの手を引いて走り出した。


「早く!鬼きちゃうよ!」


寂しかったから。おじさんが怯えていたから。これは人助けだ。

少女漫画で読んだ。ゴミ捨て場で寝ている人を拾った話。きっとよくあることだ。


そう、今私の部屋の中でごちゃごちゃ言っているおじさんをみて言い聞かせる。よくあることだ。


「おじさんじゃないよ。まだ26だし!あと俺は相川さんだ!」


どうやら声に出ていたようだ。このおじさんは相川さん。なぜあんなに警察に追われていたのかは話してくれない。ただ、なんでもするのでここに住まわせてください。そう言われた。何かきっと事情のある人だし、そんな人を住まわせるのはありえないことだ(そんな人じゃなくても他人という時点でありえない)

だが、スズカはこの人と初めて会ったような気はしなかった。むしろお母さんやお父さんよりずっと知ったいるような気がする。

前世で会ってたりして。スズカは笑った。


「ねえ相川さん、お誕生日会しようよ。」


「いいよ!ラムネちゃん。」


ラムネちゃん…?スズカは気になって聞き返した。


「ラムネちゃんって何ですかそれ。」


「昼間飲んでたでしょ。ラムネ」


相川さんは昼間から警察と隠れ鬼をしていたのか。本当に馬鹿な大人がいたもんだ。


「よろしくね。相川さん。」


「こちらこそよろしくね。ラムネちゃん。」


これがおかしな相川さんとおかしなラムネちゃんの物語


「ラムネシェルター」

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