第二子、出産
そんな中、出産予定日が近づいてきた。予定日は五月三日。……ゴールデンウィークだ。ひとつの問題が生まれた。
祝日は保育所が休みだ。父の仕事は原則として土日や祝日の休みがなく、平日の決められた休日以外は休めない。私が入院している間、誰もユヅキの面倒を見られないことになる。
(どうしよう……)
考えた末、産婦人科へ行って先生に申し出た。
「先生。三十六週目に入ったら陣痛促進剤で産みたいので、入院させてください」
「えぇ? 何もないのに促進剤は打てないよ。赤ちゃんが『外に出たい!』って思わなきゃ、陣痛はこないよ」
(……わかってる。でも……)
「でも、どうしてもそうしなきゃならないんです!」
私は先生に事情を説明した。先生は渋々ながら了解してくれて、後日入院することになった。
促進剤は、入院したその日からすぐ打ち始めた。一日目、二日目と朝晩二回打っているのに、微弱陣痛しかこない。赤ちゃんが下へ降りてくるように、階段の昇り降りを足が筋肉痛で動かせなくなるほど続けた。
三日目も同じように注射を済ませて陣痛を待っていたが、その気配はまったくない。
(このままじゃ、入院中に連休になっちゃう……)
夜になり、私は先生を呼んだ。
「先生。注射、打ってもらえませんか?」
「駄目だよ。これは一日に二本までしか打てないよ」
「でも、早くしないと休みに入っちゃう……。先生、なんとかお願いします!」
なかなか了解してくれない先生に、私は縋るように何度も頼み込んだ。
「……わかったよ」
「あ、ありがとうございます!」
五分ほどで、先生が注射器を持って戻ってきた。自分で頼んでおきながら不安になりつつも、この日三本目の注射針が右腕に刺さるのを見ていた。
(お願い、赤ちゃん……なんとか出てきて!)
促進剤を打って間もなく、急激にお腹が痛みだした。
(きた……!)
同時に子宮口も開いてきたので、急いで分娩室へ運ばれる。その間にも陣痛は激しさを増してゆき、分娩室に到着すると陣痛はピークを迎え……三十分ほどで無事に産まれた。
産まれたばかりの赤ちゃんを見せてもらい、また号泣した。涙が溢れて止まらなかった。この喜びは理屈じゃない。産まれてきた赤ちゃんを見ると、さっきまでの苦しみなんてどこかへ消え失せてしまう。このまま自分の赤ちゃんを、ずっとそばに置いておきたいと思う。
私はユヅキが産まれた時と同じ言葉を、この子にもかけた。
「産まれてきてくれて、ありがとう……! これからよろしくね……!」
自分の病室へ戻る途中で、父に電話した。
「お父さん? 無事に産まれました。男の子だよ!」
「おお、そうか!」
父もまた、自分のことのように喜んでくれる。
子供たちの父親は、どちらも酷い男だった。とくに産まれたばかりのこの子の父親は……殺してやりたいぐらい、憎い。しかし赤ちゃんは、そんなことなど関係なく愛しい。どれだけ生活が苦しくなろうとも、堕ろすことなど考えもしなかった。
この子も〝私の〟子供。二人とも、私だけの子供たち。
翌日、父が見舞いに来てくれた時に私は言った。
「二人目は私が名前考えたからさ〜。ユヅキはお父さんが付けたから、今度は私ね!」
すると父は、
「もう考えてある」
と一切の表情を作らずに言った。……私は数秒間、絶句した。開いた口が塞がらないとはこのことだ。
「……そ、そ〜なんだ……」
私は結局、それしか言えなかった。その時の父に並々ならぬ威圧感のようなものを感じたというか、なんというか……。
父が付けた名前は〝ジョウ〟。──淡々と名前を言う父。言い返せない私。今でもこのことを思い出すと笑ってしまうのは、父が付けた名前が悪くないからだと思う。
これからは生活もさらに大変になる。ユヅキよりも早くジョウを保育所に預けて、またキャバクラで働こうと思っていた。早く借金を返して、毎日子供たちと触れ合える生活を送るために。
しかし、正直悩む。あんな男に出会った場所には、気分的に戻りたいとは思えない。それに、戻れば色々と聞かれるだろう。話したくないことまで言わなければならなくなるかもしれない。それは避けたかった。
(他の店にしようか……)
そんなことを考えながらジョウの世話をしていた。こうしていると、家で子供と一緒にいることがとても幸せに感じる。できることなら、こんな生活をずっと続けていきたい。
(でも、働かなきゃそれもできないもんね……)
とにかく仕事をしなければ。私はまた、今度こそ父との約束を守るために奔走し始めた。