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《Message from Sayu》

 こうして私は、つらい治療を乗り越えました。


『この半年間、無駄ではなかった』──退院前に先生が言ってくれた言葉。これは病気に対してだけでなく、私の人間的な部分への言葉にも思えます。


 この入院生活の中で、私はいろいろなことを学びました。

 病気にならなければ出会えなかった人たち。先生方、看護師さんたち、同じ病室のみんな……そして、小泉先生。

 みんなと交わすどんな些細な会話の中からでも、自分の未熟さを感じ、それを改善し、また新たな自分にも出会える。この何十億人といる世界で、ひとりひとりとの出会いがとても貴重なものであり、運命的でもあると思います。

 出会いを大切にし、その人たちといろんな会話をし、何かを得る。それは必ず自分を成長させ、そのたびに人は強くなるものだと思いました。


 ガンと闘ってゆくうえで、家族や彼、友達の力は計り知れないほど大きなものでした。


 文中にも何度かあるように、父からはいつも厳しいことばかり言われました。最後には何となくわかったような気がしましたが、それまではまったく父の気持ちが理解できませんでした。

 今思うと、父はやはり私の父親なんだなぁ……と感じます。私のことをよくわかってくれているからこそ、常に甘やかさなかった。それが父からの、私へのエールでした。

 お父さん、ありがとう。


 無邪気な言動と表情で常に私を救ってくれた、ユヅキとジョウ。初めは『こんなことになってしまって……』と、二人のことをずいぶんと心配したのですが、闘病生活が始まってからは日を追うごとに立場が逆転していきました。

 とくにユヅキは、自分で考え、まわりの状況を把握し、私のことをとても気遣ってくれました。父がいたからこその成長だと思いますが、そのたびに自分の不甲斐なさを感じるとともに、子供たちを誇らしくも思いました。

 いっぱい、いっぱい、我慢させてごめんね。でも、ユヅキとジョウのお蔭でいつも頑張れたんだよ。ありがとう。


 ヨウちゃんやナミさんは、私の数少ない友達の中でもいつもすごく献身的に支えてくれて、本当に感謝しています。

 見舞いのたびに、たくさん差し入れを持ってきてくれる。つらそうにしている私を励まし、慰め、時には触れないでいてくれる。そのひとつひとつが細やかで、私はいつも助けられていました。

 人間として二人は私の遥か上を歩いていて、人に対する繊細な気遣いや、その時々に応じて見せる様々な表情には、常に勉強させられます。

 これから先、私も二人のような素敵な人になれたらいいなぁ。

 ヨウちゃん、ナミさん。ありがとう。


 そして、シュウ。

 彼からは、本当にたくさんの勇気と元気をもらいました。順位をつけるようなものではありませんが、気持ちとしてはやはり彼がいてくれたことが一番の力だったと思います。

 優しく言葉をかけてくれて、いろんな所へ連れて行ってくれて……。私の子供のような──子供よりタチが悪いかもしれません──を、彼はいつも広い心で受け止めてくれました。病気になって弱っていた私にとって、それがどれほど大きな力になっていたか。〝言葉では言い表せない〟とは、まさにこのことだと深く実感しました。


 今でも、彼との付き合いは続いています。彼のいない人生は考えられません……なんて言うと、また自分の身勝手さが嫌になりますが……。

 私が小泉先生に抱いた気持ちを、彼は今も知りません。そして、今後も話すつもりはありません。彼を失いたくないのはもちろん、常に負い目を感じ、戒めにしていこうという気持ちもあるからです。

 どう理由を付けようとも、自分勝手な言い訳にしかならないでしょう。しかし、退院した日の気持ちに嘘偽りはありません。

 ──『私はこの先、もっと変わらなければいけない。シュウのことだけを見ていられるように。』


 シュウ、戻ってきてくれてありがとう。

 そして今も私のそばにいてくれて、本当に、本当にありがとう。

 これからもよろしくね。



 そして、最後まで読んで下さった皆様。本当にありがとうございます。

 今さら言うことでもありませんが、私は褒められた人間ではありませんし、むしろ共感を得られないと思っています(それでも共感して頂けた方、感謝です!)。

 だからといって、無駄に自分を卑下しているわけでもありません。


 今回のことは、自分のいい加減な性格が幸いしたと思っています。それをさらにそう思わせてくれたのは、ヨウちゃんでした。彼は自身の経験から、『あんま深く考えんな。精神的に参るのは一番良くない』と言い、常に笑顔を提供してくれました。笑っている時はつらさが紛れたし、自分が病気であることを忘れられる時もありました。

 闘病中のすべての方が、私のようにいい加減であったり、そうなれたりするとはかぎりません。でも良い意味でそうすることにより、本当に気持ちが楽になるのです。

 この小説を読んだ方が、私自身が感じたことよりも、私を支えてくれた人たちからもらった言葉に感銘を受けて頂ければ幸いです。


 退院して丸二年が経とうとしている現在、私は治療ができない状態です。

 またわがままを言って二度目の抗ガン剤治療を受けず、退院後は肺に散らばった無数の小さなガンを、放射線治療ができる程度に大きくなったものから順に照射してゆく、という〝いたちごっこ〟を繰り返してきました。

 それもついに限界だと言われ、半年ほど前にようやく二度目の抗ガン剤治療を受けました。薬の強さや量は一度目よりレベルの低いものでしたが、頭蓋骨への転移や体が耐えられなかったことで中止せざるをえず、後半は頭への放射線治療しかできませんでした。

 結局、予定より早く退院して自宅療養ということになりました。自宅では酸素ボンベを常用し、長時間の外出時にも携帯酸素を持ち歩きます。モルヒネを投薬されていますが、それでも痛みは抑えきれません。

 ガンが左の声帯に繋がる神経を圧迫しているため、声は出すたび嫌になる嗄れ声で、咳も頻繁に出るような状態です。耳鼻科で診てもらったところ、声帯はもう回復しないようです。



 それでも、なんとか普通の生活を取り戻そうと頑張っています。新たな治療法や薬ができることを信じて、生き続けています。

 そんな気持ちでいられるのも、まわりにいる人たちが私に笑顔をくれるからです。


 子供たちの自然な笑顔が、いつも私を癒してくれる。


 ヨウちゃんやナミさんはいろんな話で笑わせてくれて、たくさん元気をくれる。


 病院の先生方や看護師さんたちの笑顔は、大きな安心感を与えてくれる。


 そして……初めは単純に好きだっただけのシュウの笑顔が、今は私に病気と真正面から向き合う力をくれる。


 最後になりますが、この小説を通じて私が言いたかったことはひとつです。



『笑顔は、副作用のない最高の薬』!



 二〇〇九年 十月

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