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ダメ女のエール ~笑顔のキセキ~  作者: F'sy
最終章・エール
72/74

真っ赤なマフラー

「ただいま〜」

 夕方になり、子供たちが帰ってきた。

「おかえり〜」

「!?」

 驚かせようと思ってそう言うと、するはずのない私の声に子供たちは目を丸くしていた。

「ちゃーちゃん!? なんでいるの!?」

「へへ〜、退院したんだよ!」

 二人は顔を見合わせたかと思うと、にっこりと笑って全速力で駆けてくる。

「ちゃーちゃん! おかえりー!」

「ちゃーちゃーん!」

 そのままのスピードで突進してきた二人を支えきれず、私は床に押し倒された。

「いたた! 痛いなー、もー」

「ちゃーちゃん、今日で退院? もうずっと一緒にいられるの?」

「うん。今日からまたずっと一緒だよ!」

「やったー! 良かったね、ジョウ!」

「うん!」

 ユヅキとジョウは、また大きくなったようだ。……これからもどんどん成長する二人をちゃんと育てていけるだろうか、と少し思った。しかし、すぐにこう思い直す。──大丈夫、なぜなら私は母親だから、と。


「ちゃーちゃん、それなーに?」

 まだ片付けていなかった荷物を、ユヅキが指差す。その先には私が編んだマフラーがあった。

「ん〜? 内緒!」

「え〜? なんで〜?」

「ふふーん。なんでも!」

 もうじきシュウの誕生日だが、ユヅキの誕生日も近い。

「ねぇ、ユヅ。赤とオレンジ、どっちが好き?」

「え? うーん……赤!」

「やっぱりね〜。良かった!」

「?」

「ジョウも赤好き〜!」

「え〜? ジョウ、男の子なのに〜?」

「だって、赤はレッドだもん!」

「ん? ──あぁ、そっか! そうだよね〜♪」

 きっと、戦隊ヒーローのリーダーのことを言っているんだろう。それなら男の子らしい。


 二人を抱きながら話をしていると、二通のメールが立て続けに届いた。


『退院おめでとう! 良かったね!

 これからもいろいろと苦労はあるだろうけど、頑張っていくんだよ。

 私もできるかぎり力になるからね!』


 一通目はナミさんだった。相変わらずのこざっぱりとしたメールだが、今までこんなにたくさん〝!〟を使ったメールを彼女からもらったことはない。本当に喜んでくれているのが伝わってきて、私は力一杯『ありがとう!』と思いながら、目を潤ませた。


 もう一通の『祝・退院!』とタイトルの付けられたメールは、ヨウちゃんだった。


『Congratulations!!


 無事に退院できて良かったな!

 半年、長かったなぁ……ホント、よく耐えたと思うぞ。

 その頑張りがあれば、これからの障害なんて屁でもねぇな!

 先々の不安なんて、過ぎちまえばあっという間だ。

 家族がいて、彼氏がいて、俺らがいる。

 何も心配ないだろ。みんな、何かしら助けてくれるさ!

 ま、それも本人次第だけどな(笑)


 改めて、退院おめでとう!

 ちっと良くなったからって、無茶すんなよ!』


 ナミさんとは対照的に、ヨウちゃんはいつも長めのメールをくれる。ここには書けないが絵文字の量も半端じゃなく、このメールもカラフルに動いている。言葉遣い以外はまるで女の子のようなメールだが、派手好きでサービス精神旺盛なヨウちゃんらしい。

 メールでも会って話した時でも、いつも私の気分とシンクロした言葉や雰囲気で大きな安心感を与えてくれるヨウちゃん。さっきと同じように、私は心の中で『ありがとう』と想いを込めて言った。


「あ〜、マフラーだ〜!」

 メールに気を取られている間に、子供たちがマフラーを引っ張り出していた。

(あ、しまった……。ま、いっか!)

「ユヅ、そろそろ誕生日だね。おめでとう!」

「え〜? これ、ユヅの〜?」

「うん、赤いほうはユヅのだよ!」

「やったー! ありがとう、ちゃーちゃん!」

 すぐに慣れない手付きで、首にマフラーを巻きつけるユヅキ。子供は素直でいい。手編みだろうがなんだろうが、プレゼントはプレゼントとして喜んでくれる。

 シュウは、こんな手編みのマフラーなんて喜んでくれるだろうか? ──たぶん、大丈夫だろう。このマフラーへ込めた気持ちに、嘘偽りはないから。


「ちゃーちゃん、似合う〜?」

「お〜、似合うじゃ〜ん♪ 可愛いよ、ユヅ!」

「いいなぁ〜、ジョウは〜?」

「ジョウも、来年のお誕生日にね!」

 真っ赤なマフラーを取り合って遊ぶ、ユヅキとジョウ。何気ない、ひとつの家族の風景……。やはりいつ見てもいいものだ。


「戻ったか」

 部屋に入ってきた父が、うしろから声を掛けてきた。

「うん、ただいま」

「とりあえずひと安心だな」

「そうだね。再発の不安とかあるけど、先生も一緒に頑張ろうって言ってくれたし。気を付けていけば大丈夫かな」

「そうか。しばらくはゆっくりしろ」

「うん、ありがと」

 父も昔より優しくなったと思う。少しずつ、お互いに歩み寄っているような気がする。血の繋がりはなくても、やっぱり家族は家族だ。


 何度も聞かされた、父の厳しい言葉──。

(今なら言いたいこと、ちょっとはわかるよ……)

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