最後の悩み
その日の夜、私は悩んでいた。
(どうやって切り出そう……?)
退院することをシュウにメールで伝える。それだけなら、何も考えることはないのだが……。
(やっぱり、言わないほうがいいか……)
小泉先生とのこと──。それを謝るかどうか悩んでいた。
(でも、シュウも悪いよ。……なんて思っちゃいけないよね。そうだ……まず、なんで連絡くれなくなったのか聞かなきゃ)
ひとりで原因を考えていても埒が明かない。そのことをメールに打ち始めようとして、また悩んだ。
(これも、どうやって切り出そうか……)
シュウと最後にメールしたのは、確か小泉先生と出掛ける二日前だ。ちょうど先生と外で会う約束をした日。その時のメールを開いてみた。
『もうすぐ放射線も終わりだよ!
そのあとCT撮って、結果が良ければ退院です♪
その時またメールするけど、お休み取れるかなぁ?
もし取れたら、お迎えよろしくお願いします。』
退院になった場合は迎えに来てもらおうという内容の、簡単なメール。この時の自分の気持ちを思い出すと、シュウに対して申し訳ないと思う。
送信ボックスを閉じ、受信ボックスを開いてシュウの返事を見る。
『そっか、お疲れさま。
休みが取れれば行けるかな。』
スクロールしなくても全部読める、感情の伝わらない簡素なメール。このメールに返事をしていない。
(これの返事だと、書きにくいなぁ〜)
考えながら、書いては消し、書いては消し……。
(ダメだ、いい言葉が見つからない……)
結局、聞くのは直接のほうがいいと思い直し、明日の退院のことだけメールしようと決めた。
『お仕事、お疲れさま!
昨日放射線終わって、さっき結果聞いたんだけど……。
ほとんどなくなってるって! すごくない!? めちゃくちゃ嬉しかったよ♪
先生も病室のみんなも喜んでくれて、大泣きしちゃった(笑)
それで明日の朝、退院なんだけど……仕事?
それならバスで帰るけど、もし休みなら来てくれるかなぁ……?
連絡遅くなってごめんね。』
送信して時計を見ると、もう十二時を過ぎていた。十時前には携帯を手にしていたので、二時間以上も悩んでいたことになる。
(え! もうこんな時間!? ……今日は返事来ないかもなぁ)
シュウは基本的に、遅い時間にメールを返してこない。どちらにしろ病室は出なければいけないので、メールは明日の朝に返ってきても問題ない。今夜はもう寝てしまおうと思い、携帯を閉じて目をつぶった。
そうして五分もしないうちに、携帯が鳴る。
(……うそ。シュウ?)
携帯を開くと、やはりシュウだった。受信ボックスを開いてメールを読む。
『わかった。着いたら連絡するよ。』
メールの長さなんて、どうでもよかった。すぐに返事をくれたことが嬉しかった。しかし、問題は明日だ。
(はぁ……。なんか、結果聞いた時より緊張する……)
とりあえず今日は、簡単な返信だけして終わらせようと思った。
『ありがとう♪ じゃあ明日の朝、玄関で待ってるね! おやすみ〜。』