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ダメ女のエール ~笑顔のキセキ~  作者: F'sy
最終章・エール
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掴んだものは……

 対面して座ったO先生は未だ表情を変えず、書類と数枚のCT写真を机に並べてゆく。ひと通り並べ終えたところで、ようやくこの狭い部屋に人の声が響いた。

「えー……。まずは長期間の治療、お疲れさまでした」

「……はい、お疲れさまです……」

 緊張で喉が渇いてしまい、掠れ声で返事をする。

「結果なんだけど……」

 すでに何度も見ているはずのCT写真を交互に手に取って眺めながら、先生はそこで嫌な間を置く。全身がぴりぴりと痺れ、手の平に汗が滲む。

「……ほとんどなくなってるよ」

「──えっ?」

 私は耳を疑った。

「本当に、長くつらい治療よく頑張ったね! この半年は無駄ではなかったよ。無駄じゃないっていうか、とても大きな意味のある半年だった。すごくラッキーだと思う」

「ホントに……? ほとんど……?」

「うん。おめでとう」

 一気に緊張から解放された私は、同時にありったけの感情を表に出して泣いた。

「すっ……ごい嬉しいよ〜!! ありがと〜、先生〜!!」

「あはは、本当に良かったね」

 そんな私を笑顔で見ながら、先生は話を続けた。

「とても珍しい病気だったから、抗ガン剤や放射線がここまで効くとは思わなかったよ。僕たちもいろんな科の先生方とたくさん会議して、効果のある治療法や薬について一所懸命に考えたけど……。本当、奇蹟に近いよ。ミラクルだね! ミラクルガールだ!」

「何それ〜、ダサっ! あんま嬉しくないよ〜!」

「え? そう?」

 とぼけたように言う先生を見て、泣きながら大笑いした。


 ──キセキ。ガンだとわかって余命宣告された時、私が一番最初に信じたもの。先生がその言葉を言ってくれた瞬間、私は本当の意味で解放された気分だった。

「まぁ、それは置いといて。この先はガンに付き物の再発の危険性も出てくる。でもここまで頑張れたんだから、僕たちと一緒に闘っていきましょう!」

「はい!」

 先生の言葉はとても力強く、大きな安心感を与えてくれた。

「生活にも少しずつ慣れていって、徐々に不安要素を取り除いていければいいね。僕たちも精一杯サポートします」

「先生、本当にありがとうございました! ──あ。そういえば、なんでわざわざ部屋変えたの?」

「ん? 病室で騒がれたくなかったから」

「……それだけ?」

「そうだよ」

 私は絶句した……のも束の間、すぐに怒りが込み上げてきた。

「すっごい緊張したんだよ〜! 絶対、悪い結果なんだと思ってさ〜!」

「ごめん、ごめん。あはは」

「あ〜、すごいストレス〜。これで悪くなったら、先生のせいだね!」

「えー! ……まぁ、その時は頑張りますよ」

 小さな部屋に大きな笑い声が、耳に痛いほど響いた。


 パンドラの箱には、ちゃんと希望が残っていた。そして、それを掴み取ることができた。

 病室に戻る廊下で、再び今までのことを思い返す。──長い半年だった。そして、つらかった。弱音ばかり吐いていた時期、『もういいや』と何度も思った。

 しかし今、こうして人生で最大級の喜びを得ることができた。


「サユさん、どうだったー!?」

 病室のみんなが、それぞれいろんな表情で私に注目する。

「……退院だよ!」

「ホント!? おめでとー!」

「ありがと〜!」

 みんなは手放しで喜んでくれて、私もますます病気に打ち勝ったことを実感できた。


 結局、わざわざ部屋を変えたO先生の配慮も無駄になり、あまりの騒がしさに慌てて飛んできた看護師さんに怒られたあと、父に電話した。

「もしもし、お父さん? 検査の結果、出たんだ。ほとんどなくなってるって! 明日の朝、退院するよ!」

「そうか、良かったな!」

 さすがの父も、この時ばかりは心から喜んでくれたようだった。高額な医療費の心配をしないで済むと思うと、私も父に対しての気後れがなくなった。

「子供たちには帰ったら話すよ」

「そうだな。お前が帰る前に教えたら、うるさくてかなわん」

 はは、と静かに笑う父。私も「そうだね」と言いながら、小さく笑った。久しぶりに父と一緒に笑った瞬間だった。

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