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ダメ女のエール ~笑顔のキセキ~  作者: F'sy
第五章・迷い
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言い訳

 ……シュウと付き合い始めて、私は変わった。病気になってからはさらに。どちらも良い意味ではない。


 シュウと出会ってからも、母親としての義務は言葉どおり義務としてこなしてきた。だが振り返ってみれば、それだけだったと思う。生活のために必死に働いていた頃の責任感や、子供のことを第一に考える気持ちが、日を追うごとに薄れているような気がする。

 入院し、その義務すら満足に果たせなくなった私は、そんな自分の状態をさらに悪化させた。二人の子供を養う責任を持つべき母親としての自覚を胸の奥にしまい込み、私はひとりの女に戻りつつある……。

 好きになった人の前で女になることは、もちろん悪くはないと思う。しかしそう言えるのは、母親と女性という二つの自分をコントロールできている人だけだ。私にはそれができていない。


 シュウとの結婚は何度も考えたし、彼に直接話したこともしばしばある。私の気持ちの中では、誰かと付き合うこと自体が結婚を前提にしているものだし、子供を持つ私と付き合った彼も同じだと思っていた。父親のいる家庭を求めていた私にとって、彼との出会いはそれを満たしてくれるものだと期待していた。


 しかしシュウは、結婚を口にするたび──まだ私のガンが発覚する前の話だ──はぐらかしてきた。初めのうちは話が急すぎたからだと反省したが、月日が経っても変わらない彼の態度に、結婚は私の勝手な思い込みだったことがわかってきた。結婚できないのなら、彼と一緒にいる意味はない。私は別れを考え始めていた。


 そんな時にガンだとわかり、頼れる人がシュウしかいなかった私は、『結婚は考えてない』と彼にはっきりと言われたにも拘らず、別れとは逆に彼がそばにいてくれることを望んだ。この際、結婚は後回しにしようと思ったからだ。

 もちろん、それは間違いではなかった。彼の笑顔や励ましには幾度となく救われたし、何より一緒にいることで私は幸せな気持ちになれた。──つい最近までは。


 シュウには私たち三人を養えるほどの稼ぎはないが、もともと共稼ぎも視野に入れていたのでそこまでは求めていなかった。パートに出るぐらい、保険会社とキャバクラを掛け持っていた頃に比べればどうということはない。

 だが、そこまで深く話したことはない。先ほども言ったように、結婚の話をするとすぐにはぐらかされてしまうから。無理にでも話していれば変わっていたかもしれない、と少し前まではよく考えていた。


 そして今、私の目の前には……。


 私は汚い女だ。子供で、わがままで、自分勝手な女だ。

 勝手に別れを考えていたくせに、自分がつらくなると手の平を返すように考えを一八〇度方向転換させた。そんな私のもとへ戻ってきてくれたシュウに、たくさんの救いをもらった。なのに、ちょっとしたことで彼を疑い、安易な理由でまた別れを考えている。


 一時の気の迷い──そんな言葉で済ませられることじゃない。

 シュウへの罪悪感から、今ここで言い訳せずにはいられなかった。


(……シュウ、ごめんなさい……)

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