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ダメ女のエール ~笑顔のキセキ~  作者: F'sy
第五章・迷い
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移り気

 それから五日後、朝食を済ませてトイレに行った時のこと。

(──あっ!)

 こんなに早いとは思わなかった。四ヵ月ぶりに生理が戻ってきたのだ。

「先生、聞いて〜! 生理きたんだ!」

 ちょうど問診に来たO先生に、そのことを伝えた。

「それは良かった。抗ガン剤終わって、だいぶストレス減ったんだろうね」

「うん、先生の言ったとおりだったよ。なんかやっぱ安心する〜」

「あはは、そうだよね。でも油断しちゃ駄目だよ。様子見ながら、ゆっくりのんびりしよう」

「は〜い」


 ほっとした私は、気に掛かっていた副作用のことを聞いてみることにした。

「先生、そういえば……副作用で子供産めなくなるって言ってたけど、やっぱりそうなっちゃうのかなぁ?」

 先生は少し困った顔をしつつも、言葉を選んで答えてくれた。

「うーん……。こればっかりは、断定的なことは言いづらいね。もし子供ができたとしても、流産の危険性が出てきたり……」

「できてみないと、わからないってこと?」

「ん……。そういう言い方もしたくないけど……」

「そっか。ありがとう、先生」

 先生の回答は期待に沿ったものではなかったが、気遣って話してくれたことが嬉しかった。

(でも生理も戻ったし、ちゃんと病気が治ったらわからないよね)

 やはり今は、未来よりも現在の状況を打開するのが先決だと思い、そのことを深く考えるのはやめた。


 さらに五日経ち、ちょうど十一月に入った日に放射線治療が始まった。

 名前から受ける恐ろしげな印象と違い、治療は台の上に横になっているだけだった。一回の照射も五分程度で終わる。

 放射線科の先生が、照射のことを〝ガン細胞を焼く〟という表現をしていたのでそれなりの覚悟は持っていたが、機械から出ている放射線はもちろん見えないし、痛くも痒くもない。言ってみれば、採血よりも楽だ。


 ただ私の場合、胸の中央に照射するので上半身は裸にならなければいけない。まわりの放射線技師は男性ばかり。お情け程度のタオルはかけてもらえるが、それも照射の準備が整うと外されてしまう。

 技師たちはそんな光景を見慣れているだろうし、黙々と仕事をこなすだけの機械のような人たちが多いので、気にしなければいいのかもしれないが……やはり女性としては、とても恥ずかしい。それがこの治療の、唯一のつらさ。慣れるものではないと思うし、慣れてしまうのも羞恥心をなくしたようで嫌だ。


 しかし、そんな医師というよりは研究者といった感じの技師たちの中にも、ひとりだけ心ある先生がいた。

「体調、大丈夫ですか?」

「はい、大丈夫です」

「そろそろ喉の痛みや咳などが出てくる時期なので、症状が出たらすぐに言ってくださいね」

「はい」

 小泉という名のその先生は、治療の前後に必ず体の具合などを聞いてきてくれ、わずかな時間だが世間話をすることもある。話し方も柔らかく、出会った頃の──自動車教習所の教官と生徒という間柄だった頃の、シュウの雰囲気にそっくりだ。ここひと月、シュウと繋がりを持てていない寂しさが、小泉先生との短い会話をより楽しくさせていた。


 小泉先生は、照射をする直前までタオルをかけておいてくれたり、人間的な笑顔を見せて安心感を与えてくれたりする。そういった小さな気遣いや優しさは、私が小泉先生に少なからず惹かれていることを気付かせるのに、充分なものだった──。

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