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ダメ女のエール ~笑顔のキセキ~  作者: F'sy
第五章・迷い
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取り繕い

 真剣に何かをしていると、時間の経過がものすごく早い。マフラーを編み始めてから六日、ついに今日で四クール目が終了し、あとは評価を待つのみとなった。

「は〜、やっと終わるよ〜」

「お疲れっ! 何ヵ月いたんだっけ? 四ヵ月? 長い〜、長すぎっ!」

 病室のみんなが労ってくれる。

 四クール目に入る前、私が家にいる間に病室の様子は変わった。それまでいた人たちはみんな無事に退院し、新たな患者で三つのベッドが埋まっていた。

 退院した三人は私よりずっと年上で、入院初心者の私に優しくいろいろと教えてくれた。その環境はとても居心地が良く、楽しくもあった。

 今ここにいるのは、みんな私よりも年下だ。話の内容やノリも若く、久々に高校時代を思い出しながら彼女たちと話していた。自分まで若返ったような気分になって、この環境もまた楽しい。

「サユさん、退院かぁ〜。楽しかったのに〜」

「ごめんね〜、お先っ! ……って言っても、まだわかんないけどね〜」

 評価のための検査も済んだことだし、早く結果が見たいところだ。


(あ、そうだ。シュウにメールしなきゃ)

 今日は、彼と付き合って一周年の日だ。治療が終わるのと同時にこの日を迎えるとは、なんてタイミングがいいんだろう。私はうきうきしながらメールを打った。

『お疲れ様!

 さて、今日は何の日でしょ〜?


 正解は……二人が付き合って一周年でした♪』

「サユさん、彼氏にメール? 顔がニヤけてるよ〜」

「え〜? そう〜?」

 まだ昼なのでシュウは仕事をしている時間だ。私はまた彼のことを想いながらマフラーを編み、夜を待った。


 今日は仕事が早く終わったらしく、七時過ぎにはシュウからのメールが届いた。

『そうだね〜、一年だ。早いもんだね!』

(あ、随分と簡単なメールね……)

 さっぱりしたメールに少しがっかりしたが、他に言いようがなかったんだろうと思い、返信した。

『この一年、いろいろあったね。

 シュウがいてくれて、ホントに感謝してるんだ。

 ありがとう。これからもよろしくね!』

 送信してすぐ、『しまった!』と思った。マフラーに添えるバースデーカードと同じ言葉を打ってしまった。だがそんな私の思いなど知らないシュウの反応は……。

『はいはーい。』

(……それだけ?)

 四クール目が始まってから、シュウはあまりメールをくれなくなった。こちらから送っても返事が遅かったり、その日のうちに返ってこないこともある。仕事が休みの日も病院には来てくれず、『明日は来れる?』と催促してみても用事があるなどと言われ、この治療中は一度も会っていない。


 ──胸の奥が、ぎゅっと痛む。今回の治療中、何度もこんなことを繰り返している。私はそのたび、以前のように気持ちを切り替えてきた。しかし、それもだんだんとつらくなってきている……。

 シュウが私のことを疎ましく思っていない、というのは、やはり私の都合のいい解釈だったのだろうか?


 今の私に、彼との間に生まれつつある壁を取り除く術はない。私にできる唯一のことは、一刻も早く病気を治すことだけ。

 病室の灯りが消されるまで、私は無心でマフラーを編み続けた。

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