取り繕い
真剣に何かをしていると、時間の経過がものすごく早い。マフラーを編み始めてから六日、ついに今日で四クール目が終了し、あとは評価を待つのみとなった。
「は〜、やっと終わるよ〜」
「お疲れっ! 何ヵ月いたんだっけ? 四ヵ月? 長い〜、長すぎっ!」
病室のみんなが労ってくれる。
四クール目に入る前、私が家にいる間に病室の様子は変わった。それまでいた人たちはみんな無事に退院し、新たな患者で三つのベッドが埋まっていた。
退院した三人は私よりずっと年上で、入院初心者の私に優しくいろいろと教えてくれた。その環境はとても居心地が良く、楽しくもあった。
今ここにいるのは、みんな私よりも年下だ。話の内容やノリも若く、久々に高校時代を思い出しながら彼女たちと話していた。自分まで若返ったような気分になって、この環境もまた楽しい。
「サユさん、退院かぁ〜。楽しかったのに〜」
「ごめんね〜、お先っ! ……って言っても、まだわかんないけどね〜」
評価のための検査も済んだことだし、早く結果が見たいところだ。
(あ、そうだ。シュウにメールしなきゃ)
今日は、彼と付き合って一周年の日だ。治療が終わるのと同時にこの日を迎えるとは、なんてタイミングがいいんだろう。私はうきうきしながらメールを打った。
『お疲れ様!
さて、今日は何の日でしょ〜?
正解は……二人が付き合って一周年でした♪』
「サユさん、彼氏にメール? 顔がニヤけてるよ〜」
「え〜? そう〜?」
まだ昼なのでシュウは仕事をしている時間だ。私はまた彼のことを想いながらマフラーを編み、夜を待った。
今日は仕事が早く終わったらしく、七時過ぎにはシュウからのメールが届いた。
『そうだね〜、一年だ。早いもんだね!』
(あ、随分と簡単なメールね……)
さっぱりしたメールに少しがっかりしたが、他に言いようがなかったんだろうと思い、返信した。
『この一年、いろいろあったね。
シュウがいてくれて、ホントに感謝してるんだ。
ありがとう。これからもよろしくね!』
送信してすぐ、『しまった!』と思った。マフラーに添えるバースデーカードと同じ言葉を打ってしまった。だがそんな私の思いなど知らないシュウの反応は……。
『はいはーい。』
(……それだけ?)
四クール目が始まってから、シュウはあまりメールをくれなくなった。こちらから送っても返事が遅かったり、その日のうちに返ってこないこともある。仕事が休みの日も病院には来てくれず、『明日は来れる?』と催促してみても用事があるなどと言われ、この治療中は一度も会っていない。
──胸の奥が、ぎゅっと痛む。今回の治療中、何度もこんなことを繰り返している。私はそのたび、以前のように気持ちを切り替えてきた。しかし、それもだんだんとつらくなってきている……。
シュウが私のことを疎ましく思っていない、というのは、やはり私の都合のいい解釈だったのだろうか?
今の私に、彼との間に生まれつつある壁を取り除く術はない。私にできる唯一のことは、一刻も早く病気を治すことだけ。
病室の灯りが消されるまで、私は無心でマフラーを編み続けた。