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ダメ女のエール ~笑顔のキセキ~  作者: F'sy
第四章・闘病
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シュウの優しさ

 この三週間は予定どおり、週末は必ず家に帰った。週に一度帰ってくる私に、子供たちは大喜びだ。だが四クール目に入れば、またひと月は帰ってこられない。そのことを先に言っておかないと、前回のように二人に悲しい思いをさせてしまう。

 私はユヅキに、最初の週にそのことを話した。

「ユヅ、毎週帰ってこれるのは三週間だけなんだ。そのあとはまた一ヵ月、病院に行かなきゃいけないの」

「え〜? やだよ〜」

 不服そうな声を出すユヅキ。しかし、ここはしっかりと言って聞かせなければ。

「ごめんね。でも、もうすぐ終わりだからさ。ちゃーちゃんも頑張るから、ユヅもいい子にしててくれるかな?」

「……また一ヵ月したら、帰ってくる?」

「うん、もちろん。そのあとはどうなるのか、まだちゃーちゃんにもわからないんだけど……。たぶん、また週に一回は帰って来れるんじゃないかなぁ?」

「……わかった。いい子にしてる」

「ありがと、ユヅ」

 いつもユヅキにばかり我慢させているのが、今日は一段と心苦しかった。

(ホントに、あと少しになればいいな……。帰ってきたら、いっぱい甘えさせてあげるからね!)

 検査がない日は平日に外出が許可されることもあり、その時も家に帰って子供たちと過ごしていた。


 その三週間の中でシュウの休日と合う日も二度あったので、私は『どこか遊びに行きたい!』とメールした。

『じゃあ、箱根行って船乗ろう。』

『船?』

『そう、海賊船があるんだよ。芦ノ湖の遊覧船。』

『楽しそ〜、乗りたい!』

『あと、箱根といえば黒たまごだよ! 大涌谷にも行こう。』

『へぇ〜、今から楽しみだよ♪』

『いろいろ見て回るだろうから、体力つけとかなきゃね。』

『うん、ありがとう。』

 先日の鎌倉といい、私は初めて訪れる場所ばかりなので、どこへ行くにしてもとても楽しみだ。


 当日はまたもや晴天に恵まれた。どうやら私たちは、天気にはとことんついているらしい。

 車を走らせ、箱根に着いて真っ先に遊覧船に乗った。シュウの言っていたとおり海賊船を模した造りになっていて、とてもカッコいい。どちらかというと男性が好みそうな外観だったが、もちろん乗れば普通の遊覧船だ。

 船内は広く、いろんな方向から風が入ってきて気持ちが良い。もう九月も終わりに近づいているというのにまだ厳しい残暑が続いており、紅葉を期待していたのだがそれは見られなかった。しかし自然に囲まれた景色の中をゆっくりと風に吹かれながら進むと、東京ではなかなか味わえない清々しい気分でいっぱいになる。

 山や湖、出航してすぐ左に見える鳥居など、船の中から何枚も写真を撮った。


 次は大涌谷。硫黄の匂いにつられて、早速〝黒たまご〟を買う。袋には『ひとつ食べて七年、ふたつ食べて十四年……』と書いてあったので、私は欲張って三つも食べた。

「これで二十一年、寿命延びたかな♪』

「はは、そうだね」

「あと二つは食べれそう!」

「おい、何歳まで生きるつもり?」

「あはは、そうだね。そんなに長生きしたくないかなぁ〜」

「霞しか食わない生活なんて、嫌でしょ?」

「かすみ? ──あぁ、仙人ってこと? やだよ、そんなの〜」

「じゃあ、もうおしまい」

「は〜い」


 あたりを見ると、ロープウェイが目に入った。

「ロープウェイもあるんだね〜」

「そうそう、車じゃない人はあれで登ってくるんだよ」

「へぇ〜」

 車も楽でいいが、ロープウェイからの景色も見てみたいと思った。鎌倉で思いがけない肩透かしを喰らったから、というのも理由のひとつだ。

「また来れたら、今度は乗りたいな」

「よし、またいつか来よう。景色もちゃんと見てみな、すごい綺麗だよ」

 そう言われて、私は体を三六〇度回した。

「ホント、すごいね〜! 鎌倉も良かったけど、また違う感じで綺麗だね! 連れて来てくれてありがとう♪」

「どういたしまして」


 帰り際に〝わさびソフトクリーム〟というものを発見したので、鎌倉の時と同じようにひとつのソフトクリームを二人で食べる。しかし、ひと口食べた瞬間……。

「あ、おいし……ん? んーっ! からーいっ!」

「そんなに? どれ……うっ、ホントだ。おいしいけど、舌がヒリヒリするね」

「あじさいソフトのがおいしかった〜」

「まぁそう言うなよ、なんでも試してみないとわからないんだから」

「シュウ、あと全部あげる」

「え? 俺そんなに食えないよ。自分で食べたいって言ったんだから、最後まで食べなさい」

「だってこんなの、からくて食べらんないよ〜」

「じゃあ、半分ずつにしよう。ちょっとずつ交換しながら」

「う〜ん、わかった……」

 ひと口食べてはシュウに渡し、そのたび「からい、からい」と言ってほとんど半泣き状態でなんとか食べ切った。しかし、私は気付いていた。シュウのほうがたくさん食べてくれていたこと……。


 この日は他にも、彼の細かい優しさが目立った。──なぜか今日は、そんな彼の優しさに胸が痛んだ。

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