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ダメ女のエール ~笑顔のキセキ~  作者: F'sy
第四章・闘病
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治療への慣れ

 朝、すぐに治療が始まった。痛いことに変わりはないし嬉しいということもないのだが、三回目なのでCVにもだいぶ慣れた。


 それよりも気になることがある。今まではつらさが先立っていて気が付かなかったのだが、治療を始めてから二ヵ月、生理がきていない。

(副作用だと思うけど……。一応、先生に聞いてみようかな)

 昼食前、問診に来たO先生にそのことを話した。

「先生、生理がきてないんだけど……」

「副作用か、もしくは抗ガン剤が細胞を壊してるんだね。子宮は細胞の集まりだから。あと考えられるのはストレスとか、今は体力も落ちてるから子宮自体が働いてないのかもしれない。いずれにしても、治療が終わってリラックスすればもとに戻ると思うよ」

「そっかぁ。ならいいや」

 むしろ今は、生理などないほうが気が楽だ。──これが原因で赤ちゃんが産めなくなるのだとしたら、話は別だが……。


 いつもと同じ治療、いつもと同じ副作用。普段はぐったりとしているが、慣れのお蔭で吐き気に耐えられる時もあり、そんな時はここぞとばかりに食べる。

 入院中にはまってしまったのは、味の濃いカップラーメンやお菓子類だ。副作用で味覚がおかしくなり、病院食の味付けではまったく味がしないのと同じように感じる。

 先生曰く「食べられる物を、食べられる時に摂取してほしい」とのことなので、箸の進まない病院食よりそちらを優先して食べた。栄養面は点滴で補っているので、体力を落とさないために食事を摂る、といった感じだ。


 白血球が下がると、食事に制限が設けられる。すべて加熱食になり、生ものは一切食べられない。野菜も温野菜のみ。果物なども缶詰になり、しかも温めたものが出される。正直、おいしくはない。

 私はシュウが来てくれる時に、病院食では出されないものを頼むようになった。

『シュウ、枝豆とゆで卵が食べたい。』

『わかった。かちかち卵、持ってくよ。』

 固ゆではあまり好きではないのだが、食べられるだけましなので我慢する。


 隔離の時は相変わらず、食欲どころか動く気力すらない。しかしそれもパターンとして考えるようになったので、とにかく早く数値が上がることだけを待つ。


 精神的なものはやはりとても大きい。そういった治療に対するいい意味での慣れが、だんだんと自分の弱さに打ち勝っている気分にもなり、シュウにメールする回数も減っていった。


 とくにいつもと変わりなく、三クール目も終了した。自分でも驚くほど淡々と治療を受けていたので、こんなことを考える。

(ホントに、余命宣告なんてされるほどなのかなぁ……?)

 もちろん何事もなく治療を受けられるのは、シュウや友達のサポートを受け、子供たちの元気な声に励まされているからこそできることだ。しかし気分的な慣れはともかく、治療を重ねるごとに肉体的にも少しずつ楽になってきているので、『もしかしたら、このまま治っちゃうかも?』という期待感が日々増している。


 クール間には必ず、抗ガン剤がどれだけ効いているかを調べる〝評価〟を造影CTによっておこなう。一、二クール目の評価では、腫瘍がわずかに小さくなっていて、血液の流れも多少良くなっていた。

 今回はそれ以上の期待を持って検査に臨んだので、評価が楽しみで仕方なかった。

 しかし結果は……ほとんど変わらず。

(ま、そんなにうまいこといかないか……。次に期待しよ!)

 がっかりはしたもののそこまで気分は落ち込まず、その程度の思いで済んだ。われながら、ずいぶんと前向きになったものだと思う。


 肺にぽつぽつと影が見えるとのことで、四クール目に入る前、体の様子を見て〝気管支鏡検査〟をする必要があると伝えられた。この検査は、口から気管支を通して肺に管を入れ、細胞を採取するというものだ。肺への内視鏡検査のようなものだろう。


 翌々日、体調も良かったので気管支鏡検査をおこなった。

(検査のやり方はわかったけど……どういうふうにやるんだろ?)

「まず、喉に注射打つよ」

「え〜! 喉に!?」

 思わず大きな声を出してしまった。喉に注射するなんて、聞いたことがない。

「ちょっと痛いよ」

 喉に針が刺さる。あまりの痛さに、最初のCVの時のように泣いてしまった。

 仰向けになり、口からカメラを入れてゆく。検査の時間はおよそ三十分程度だったが、とても長い三十分に感じた。


 検査が終わり、カメラが抜かれる。

「うぅ……死ぬかと思った……。もう絶対やらない」

「はいはい、よく頑張りました。あ、もうひとつ検査やりたいんだけど」

「え〜? ……どんな?」

「血液ガスを採る検査で、動脈から採血するから……これもまた痛いんだ」

「えー! もう痛いのやだよー!」

「そうは言ってもねぇ……。手首か足の付け根から採るんだけど、手首のほうが痛いから足からにしよう」

 言葉も出ない。私は無言で泣いた。


「じゃあ始めるよ」

「……! 痛ーーーい!」

 私は大人げないのか……。いや、誰もがこうなると思う。恥も外聞もなく、私は大声で叫んだ。

「終わったよー」

「あ〜……あ〜……。良かったぁ〜……」

 精根尽き果てた感じだ。しかし今までの抗ガン剤治療に比べたら、この瞬間で終わるだけいいのかもしれない。


 検査の結果、肺は正常で細胞にも問題なかったので、とりあえずひと安心だ。しかも四クール目までは、その他の検査などで約三週間は間が空く。週末はなるべく病院から出るようにして、無理のない程度に好きなことをしようと思った。


 いつ何が起こるかなんてわからない。もしかしたら、このまま抗ガン剤が効かずに終わってしまう可能性もある。だが今は、それすらもネガティブに捉えることはなくなった。

 攻めと守り。そのバランスをうまくとることが、私にとっての最良の方法だと考えるようになっていた。

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