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ダメ女のエール ~笑顔のキセキ~  作者: F'sy
第四章・闘病
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夏を満喫

 世間は夏休みなので、目的地に到着するまでの道のりは人で溢れていた。

「やっぱ混んでるね〜」

「そうだね、夏休みだし。道路は空いてたけど、現地は混んでるね」

 普段は人混みが嫌いな私だが、シュウと手を繋いでゆっくり歩いていると、楽しさしか感じない。

「あ、大仏見えてきたよ、シュウ!」

「やっぱ大きいねー!」

 想像していたほどではなかったが、それでも大きいことには変わりない。間近で見るとなおその存在感に圧倒された。

「そうだ、写真撮ってもらおうよ! ──あ、すいませ〜ん。写真撮ってもらえますか〜?」

 自分と同い年くらいの女性に声を掛け、カメラのシャッターを押してもらう。

「撮りますよ〜」

 その女性が言うと、シュウが慌てて私の手を持つ。

「サユ、ピースして笑おう!」

「うん!」

 ポーズを決めた瞬間にシャッターの音が聞こえたので、うまく撮ってもらえたか少し不安だったが、カメラのディスプレイを見てみるとすごく良く撮れていた。

「ありがとうございます!」

 お姉さんにお礼を言うと、実はすでに頭の中がソフトクリーム一色になっていた私は、シュウに催促した。

「ソフトクリーム食べよう♪」

「よし、買いに行くか」


〝あじさいソフト〟というのぼりの出ている店に向かう。カウンタ—から中を覗くと、機械から出てくるソフトクリームは綺麗な薄紫色をしていて、とても美味しそうだ。

「へぇ〜、ホントに紫色だ〜! 美味しそう♪」

「すいません、あじさいソフトひとつください」

「え? ひとつ?」

「うん。俺そんなに食べられないから、一緒に食べよう」

 店員さんに渡された薄紫色と緑色が混ざったソフトクリームを、二人で仲良く食べた。薄紫色の部分は紫イモ、緑色の部分は抹茶の味だった。

「おいし〜♪」

「抹茶のとこ、すごいうまい」

「あ、シュウ! 片側ばっかり食べないでよ!」

 そんなことを言いながらも、結局ソフトクリームの半分以上が私の胃に収まった。


「次は江ノ島だ〜!」

 本当は江ノ電に乗りたかったのだが、江ノ島へ到着したあとも歩くことを考え、車で向かった。

 海岸沿いを走りながら海を見渡す。サーファーや家族連れ、パラソルの下で楽しげに笑っているカップル。どこを見ても夏の装いだ。その風景を眺めているだけでも楽しかった。

 車を停めて、江ノ島まで浜辺をゆっくり歩く。海の匂い、照りつける太陽、あたりの人たちのはしゃぐ声──。私たちもひっきりなしに話をしながら江ノ島に入り、途中のベンチで休んでからまた歩き出す。目当てはもちろん展望台だ。


 今の私にとって、展望台までの道のりはかなりきつそうだった。たどり着けるかどうか心配に思っていると、

「エスカーで行こう」

 とシュウが言った。

「え〜、何それ?」

「行けばわかるよ」

 シュウについて歩いていると、〝エスカー〟と書かれた看板が見えてきた。入り口でチケットを買い、まずはエスカレーターに乗る。上がりきると、またエスカレーターだ。それに、随分と長い。

「ねぇ、エスカーは?」

「え? 今乗ってんじゃん」

「は? ……もしかして、これ……?」

「そうだよ、ははは」

 結構ショックだった。私はてっきりロープウェイのようなものかと思っていた。それが、ただのエスカレーター……。

(──ん? エスカレーター……エスカレーター……エスカー……。ダジャレかっ!)

 あまりのくだらなさに口には出せず、密かに失笑した。


 このオヤジギャグ的な名前が付けられた乗り物が終わればすぐに展望台に着くものかと思っていたが、そこから今度は階段の昇り降りが激しい商店街風の道が待っていた。言い忘れたが、私は鎌倉も江ノ島も人生初だ。

 さらにゆっくりと階段の道を歩き、ようやく展望台に着いた。展望台からは江ノ島の海が一望できて、まるで絵葉書のような光景に私はため息まじりの感嘆を洩らした。

「すっ……ごい綺麗だねぇ〜……」

「天気いいから最高だよ。ほら、あそこに富士山」

「あ、ホントだ! これはビデオに撮らなきゃ♪」

 ビデオカメラを右手に持ちながら、最後に一番いいポジションで終わるように展望台の中をゆっくり一周する。

(帰ったら、何回も観るんだろうなぁ……)

 そう思いつつ、この光景を目に焼き付けるようにいつまでも眺めていた。


 帰り道、先ほど通った商店街でごはんを食べる。入院中に生ものが食べられなかった鬱憤を晴らすように、当然のごとく私は生しらす丼を注文した。

 他にもたくさんの海の幸があり、焼きはまぐりの香ばしい匂いなどはものすごく私の食欲をかき立てたが、やはりまずは生しらすを食べないと江ノ島に来た意味がない。


 運ばれてきた生しらす丼は、見た目もとても綺麗だった。ちょうど窓際の席に通されたので、しらすが太陽の光でキラキラと輝いて見える。食べるのがもったいないぐらいだったが、山のように盛られたしらすの磯の香りに鼻腔がくすぐられ、その考えを瞬時に消した。

「いただきま〜す♪」

「いただきます」

 シュウも同じ生しらす丼を注文して、同時に箸をつけた。

「うまい!」「おいしい!」

 食べている間、二人ともほとんどその単語だけで会話していた。噛むたびにしらすがプチプチと弾け、磯の香りが鼻から抜ける。味、食感、香り、どれをとっても最高だった。

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