元気一〇〇〇倍
やはり、二日目から吐き気が襲ってきた。日を追うごとに酷くなり、一日に何度も吐く。
満足に食事を摂れなくなってからは、飲み物で胃を満たしていた。ゼリーなど、噛まずに食べられるものはかろうじて喉を通ったが、それでも結局は吐いてしまう。
また一ヵ月間、この苦しみに耐えなければならない。『終わればまた元気になるんだから』──本当はこう思いたいのに、体がそうさせてくれない。副作用が現れ始めてから、私が思うこと。
(これが終わっても、少し休んでまた治療。その次も同じ。それに……そこまでたどり着けるかどうか……)
ポジティブにあろうとすればするほど、気持ちは真逆の方向へ向かっていった。
治療が始まる前日までは、意識して前向きに考えることができていた。だが治療がスタートしてからは、時間の経過とともに考え方がネガティブになってゆき、結局泣いている毎日……。
そんな中、ヨウちゃんやナミさん、大好きなシュウの顔を見ると安心する。みんなも、こんな私の姿を見るのはつらいだろうと思う。しかし嫌な顔ひとつ見せず、私を笑わせて励ましてくれる。短い時間だが、その時だけはつらい治療のことを忘れていられる。
──私は幸せ者だ。みんながいなかったら、今頃どうなっているかわからない。
どういう想いがあったのか自分自身よくわからなかったが、ある日のメールでシュウにこう聞いたことがあった。
『私のこと、大切?』
『俺は入院も大きな病気もしたことないから
サユの不安はわからない部分が多いけど……
少しでもわかってあげられればって思ってるよ。
サユのことは、もちろん大切だよ。
言葉だけじゃ信用できないかもしれないけど
俺にとって大事な存在です。』
『愛はある?』
『サユには負けてるかもしれないけど、あると思うよ!』
『遊びに行ったりできなくて、ゴメンね。』
『会えるだけで満足だよ!』
気を遣ってくれているのだろうか……。もし、私がシュウの立場なら──シュウがガンになったら。私にはたぶん、同じような言葉を彼にかけてあげられないかもしれない。勘繰ったわけではないが、『なんでシュウは、こんなふうに言えるんだろう』と少しだけ思った。
一度は私のもとから離れようとしたのに、戻ってきてくれた。仕事が休みの日も時間を割いて、来られるかぎり病院へ来てくれる。……シュウは、私が思っているより遥かに強い人なのかもしれない。
(私も、もっともっと強くなって病気と闘わなきゃね!)
『ありがとね、シュウ。私、シュウに出会えて幸せだよ!』
『教習所に通って、いい男見つけたねぇ(笑) 元気一〇〇〇倍だね、頑張れ!』
(ホントだよ、元気一〇〇〇倍! 頑張ろう!)
私はやっぱり、誰かがいてくれないと頑張れない。
(でも、それで頑張れるなら……いいよね?)