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ダメ女のエール ~笑顔のキセキ~  作者: F'sy
第四章・闘病
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二クール目、開始

 あっという間に病院へ戻る日になってしまった。今日からまた、長くてつらい治療が始まる。子供たちは今朝、父に連れられて元気にそれぞれの行くべき場所へ出掛けていった。

「ちゃーちゃん、また夜電話してねー!」

「バイバーイ!」

 子供は慣れるのが早い。ひと月前は二人とも、私と離れるのをあんなに寂しがっていたのに……。病院へ戻ることに怯えている自分が、とても情けなく思えた。

(二回目だし、一回目よりは楽だよね……たぶん。──いや、きっと楽だ。絶対ラク!)

 根拠などない。この治療に慣れがあるのかどうかなんて知らない。ただそうでも思わないと、本当に家から出られなくなってしまいそうだった。

 昨晩のうちに準備しておいた荷物を持って、

「よしっ、行こう!」

 と声に出して気合いを入れ、玄関のドアを開けて病院へ出発した。


「はぁ〜……おはよ〜……」

 くたくたになって病室へ入り、みんなに挨拶をする。息が切れているので、大きく息を吐きながらでないと「おはよう」のひと言も言えない。

「あー、おかえりー」

「なんかイヤ……おかえりって……」

「あはは! でも今は、ここがサユちゃんの家だよー」

 つい三日前までいた病室。私がいない間は誰も退院していなかったので、見知った顔ばかりなのは安心感があっていい。

 変わった所といえば、ベッドが綺麗に整っていることぐらいだ。ホテルにチェックインしたような感じだが、わざわざお金を払ってこんな殺風景なところに泊まりたくはない、などと思いながら、バッグに詰めた着替えを取り出して治療を受ける準備にかかった。


 ベッドに横たわり呼吸も落ち着いてきた頃、O先生がやってきた。

「ゆっくりできた?」

「うん、やっぱりわが家はいいね〜♪」

「はは、そりゃそうだろうね。病院が好きな人なんていないよ」

「だよね〜。先生、何時から治療始めるの?」

「ん? あと二十分ぐらいしたら始めるよ」

「え〜、早いよ〜」

「早いって……。延ばしたってしょうがないじゃん」

「知ってる! 言ってみただけ」

「あ、そーですか。知ってるならもう始めようかな」

「あ〜、ごめんなさい! 二十分後でお願いしま〜す!」

「ははは、じゃあ準備しておいてください」

「は〜い」

 準備……心の準備だけなら、昨日からしている。しかし考えれば考えるほど、恐怖心は増すばかりだ。強烈な吐き気、嘔吐、高熱、隔離……。

(考えない。何も考えない。なるようにしかならない……)

 二十分間、恐怖心を追い払うことに尽力していた。


 ガラガラ……と、CVをおこなうための器具を乗せた台車が運ばれてきた。先生も前回と同じ人だ。

(やっぱり、麻酔ないんだ……)

 台車には、記憶にある器具しか乗っていない。麻酔のことを聞いてみようかとも思ったが、私はこの先生が苦手だ。

 良く言えば、真面目で仕事に忠実。しかし私には、何を言ってもにこりともせず、口調もまさに事務的という言葉がぴったりと合うこの先生が、感情のないロボットのように見える。下手に何か言うと単なるわがままに捉えられてしまいそうで──実際わがままかもしれないが──、何も言えなかった。

「じゃあ始めます」

 まだ消えていない左腕のあざの上から、太い注射針が突き刺さる。

「痛っ!」

 もともと血管が細いうえ、刺す箇所も前回の痕のせいでわかりづらくなているので、三、四回は刺し直した。一回で済んでいれば耐えられたかもしれないが、つい声を出してしまう。


 やっと刺さった針の中に白い管が通ってゆく感覚が、体に伝わってくる。この時も痛みをこらえるのに必死だ。

 腕の中を這う管の動きが止まると、カチャカチャと先生が器具を扱う音が聞こえ、皮膚に細かい痛みを感じる。皮膚と管を縫合しているのだろう。サクサク、とガーゼや包帯を切る音。ビッ、ビッ、とテープを剥がす音。一回目で学んだのは、その一部始終を見ないこと。お蔭で少しは耐えられたと思う。騒がなかったし、涙も浮かべていない。大人として、それが当然なのだろうが……。

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