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ダメ女のエール ~笑顔のキセキ~  作者: F'sy
第四章・闘病
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久しぶりのデート

 翌朝、ユヅキを見送ったあとジョウを自転車に乗せて保育園へ向かう。今日もうだるような暑さだ。それも手伝って二、三分もペダルを漕ぐと、すぐに息が切れてしまう。

(あ〜、車があればなぁ……)

 入院前は、わが家にも父の車があった。しかし『入院するんだし、俺も使わないから必要ないだろう』と、医療費に充てるという理由で父が売ってしまった。

「ちゃーちゃん、バイバーイ!」

「はーい、バイバーイ」

 手を振るジョウに応え、建物の奥に入ったのを見届けて家に戻る。保育園は家からわずか十分ほどの距離だが、この行き帰りだけでどっと疲れが押し寄せる。


 部屋に入って呼吸を落ち着かせ、簡単に着替えを済ませてシュウからの連絡を待った。今日はシュウをドライブに行く約束をしている。約束自体は治療が始まってすぐにしていて、本当は少し遠出をする予定だったのだが、彼が私の体を気遣って近場のドライブに変更することになった。


 十時を少し過ぎた頃、シュウから電話がきた。

「おはよう。着いたよ」

「わかった、今行くね!」

 私は息切れしないように、ゆっくりとシュウの待っている場所まで歩いた。車に到着すると、「おはよう」と言いながらシュウが内側から助手席のドアを開けてくれる。

「おはよ! 久しぶりだね〜。あれ? シュウ、髪切った?」

 耳に少しかかるぐらいあったシュウの髪が、ソフトモヒカンのような髪型に変わっていた。

「うん、ついこの前ね。夏だし。どう?」

 ……もしかしたら、私の脱毛に合わせて切ってくれたのかもしれない。だが「夏だし」という部分を少し強調して言ったシュウに対して、そんなことを口にするほど私も野暮じゃない。

「似合うよ〜、カッコいいじゃん♪」

「そう? ありがとう。あ、今日どこ行く?」

「え〜とね……久しぶりに会ったから、初デートで行ったお台場!」

「オッケー、じゃあ行こう」


 お台場に着いて、二人で浜辺を歩く。しかし今日は以前のように、はしゃいだりしない。手を繋いで、穏やかな波の動きよりもゆっくりと歩いた。

「だいぶ痩せたねー。今日はたくさん食べなよ」

「うん! 何食べよっかなぁ〜♪」

「治療終わったばっかりなのに、食べる気満々じゃん!」

「自分でたくさん食べろって言ったんでしょ〜!」

 こんな何でもない会話に、二人で大笑いした。


 この日は何をするわけでもなく、ただ一緒にいただけだった。だが、それがとても大事だということをお互いが知っている。

 シュウと過ごすことで何倍にもなる、病気と闘うための勇気。彼がいてくれて……戻ってきてくれて、本当に良かった。その気持ちがとても大きくて、私は一日のうちに何度も、何かにつけて「ありがとう」と言っていた。

 帰り際は言いながら少し涙ぐんでしまったので、彼は「大丈夫だよ」と優しく頭を撫でてくれた。私は抱きつきたい衝動を抑え、車のテールランプが視界からなくなるまで彼を見送った。


 ──私は強くならなきゃいけない。さっき我慢せずに彼の胸に埋もれていたら、きっと這い上がれなくなってしまうと思った。シュウがくれる勇気を無駄にしたくない。

(よしっ、頑張ろう! もう弱音は吐かない。ポジティブにいこう!)

 支えてくれるシュウや友達のために、そしてユヅキとジョウの笑顔を毎日見るために、私はこの苦難を乗り越えるんだ。

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