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ダメ女のエール ~笑顔のキセキ~  作者: F'sy
第四章・闘病
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解放の喜び

 ……閉じていた目を開けると──眠っていたかどうか定かではない──、ほんの少しだけ体が軽い気がした。

 それが気のせいではないことを最初に示してくれたのは、検温の結果だった。ずっと三十八度以上あった熱が、三十七度まで下がっていたのだ。


 そして、そのあとの採血の結果は……。

「上がり始めてきたね。もう少しだよ」

 先生が結果をプリントアウトした紙を私に差し出す。白血球数の記された箇所に、久しぶりに四桁の数字が並んでいた。

(……やっと、一〇〇〇超えた……)

 このままこの病室から出られないのではないかと思っていたが、ようやく先が見えてきた。結果を見て、また長いため息をつく。それは今までの重く暗いため息ではなく、全身の緊張が解けるような安心感から出たものだった。

「頑張ったね。たぶんあと二、三日もすれば、もとの病室に戻れるよ。注射も明日から一回にしよう」

 私の思いが伝わったかのように、先生が微笑みながら言った。私は「うん」と返事をしたつもりだったが、うまく声が出なかったのでただ頷き返した。


 上がり始めた白血球の数値は、その後も順調に上がっていった。日ごとに熱も下がり、体の怠さや痛み、さらにはあの酷い吐き気までもが治まりつつある。

「この調子なら、次の結果も良さそうだね。明日あたり、ここ出られるよ」

 先生が嬉しそうに言ってくれたので、私にも元気が戻ってくるようだった。

「ホント……? 良かった……」

 まだ声に張りはなく、ほとんど喋っていなかったせいで嗄れ声だが、ちゃんと返事をしようという気分になっている。ついこの間までは思えなかったことだ。


 隔離が終われば、あとはゆっくり回復を待つだけ。次の治療までの休憩のようなものだとわかっていても、ただベッドに寝ているだけでいいなら喜んでそうしたい。その間は、みんなとお喋りもできる。それが嬉しくて仕方なかった。

 一番嬉しいのは、やはり吐き気がなくなること。このつらさから解放されれば、また食事ができる。一時的にでもたくさん食べて、次の治療に備えなければ。今度は少し無理をしてでも食べよう。


 喋れる。食べれる。動ける。──なんて〝普通〟のことなんだろう。この〝普通〟は、もちろん元気だった頃の〝普通〟だ。

〝普通〟が嬉しい。こんなこと、思ったこともない。それが〝普通〟だったから。

 明日になるのがすごく待ち遠しい。やっといつもの私に戻れる。子供たちに会いたい。シュウに会いたい。友達に会いたい。会って、いっぱいお喋りしたい……!

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