隔離・三日目
この病室へ来た晩から違和感を感じていた奥歯のあたりが、じんじんと痛み出してきた。左の頬に手を当てると、少し腫れているのがわかる。抗ガン剤とは関係ないと思っていたが、一応先生に話してみることにした。
「先生、なんか歯が痛い……」
「え? ちょっと見せて。……あ〜、だいぶ腫れてるなぁ。いつから?」
「一昨日ぐらい……」
「一昨日? なんでもっと早く言わないの!」
「すいません……」
「熱が下がらないのは、これが手伝ってるせいもあるね。もうちょっと見るから、口開けて」
言われるままに口を開く。
「出切ってない親不知のところ、炎症起こしてるね。治療したいけど今はできないよ、白血球数が少ないから。数値が戻ったら、被さってる歯茎を切るか、親不知自体を抜くか……」
「……抜くの、やだ……」
反射的にわがままを言ってしまう。治療を始めてから、変な癖がついてしまった。
「まぁどっちにしても、数値戻ってからだね。とりあえず、痛み止め飲んどこうか」
「……それ、なんか副作用ある……?」
「ないよ。ただの痛み止めだから」
「良かった……」
苦痛が和らぐなら、もう薬がどれだけ増えようが構わない。
(でも、今度は歯の治療か……。はぁ……)
痛む奥歯を頬の上から押さえ、今日もまた長いため息をついた。