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ダメ女のエール ~笑顔のキセキ~  作者: F'sy
第四章・闘病
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隔離・二日目

 毎朝の検温の時間。電子音が鳴り、体温計の表示を見て驚く。

(──四十度!?)

「看護師さ〜ん……。四十度もある〜……」

「えっ? ──ホントだ! 先生に言ってくるね!」

 看護師さんが病室を出てから十数分後、先生が点滴のパックを持ってやってきた。

「抗生剤入れるよー」

 栄養剤と一緒に抗生剤も流す。

(……薬ばっかり。薬漬けだ……)

 高熱で頭が働かず、新たに下げられたパックを眺めて感情もなくそう思った。


 ベッドが沼のように、ゆっくりと体を沈めてゆく。

(私、どうなるんだろう……)

(人間の体って、こんなふうになっちゃうんだ……)

(今ここで目を閉じたら、また開けられるかなぁ……)

 一日中、おかしなことばかり考えていた。薬のせい? 高熱のせい? それとも、ほとんどの時間をひとりで過ごしているせい? ──たぶん、全部。


 体を動かせないので筋肉も落ちる。夕方、わずか一週間でひと回りも細くなった自分の腕を見て、検尿のついでに体重計に乗ってみようと思った。

 壁に手をつき、吐き気と怠さで腰から折れ曲がった体を真っ直ぐにして支えると、せわしなく動いていたデジタルの数字が少しずつ落ち着いてくる。ようやく止まった数字は、私に今日二度目の驚きを与えた。

(ウソ……四十三キロ……!?)

 十キロも落ちていた。痩せた体を確認するように腕を見た時、気付く。

(──あ、そうか。手、離さないと……)

 いつもなら自分の間抜けさに吹き出すところだが、そんな気力もない今はそれだけ思うと手を離し、また体重計を見た。体がふらついてしまって数字が安定しないので、そこそこの見当を付けて読む。

(それでも、五キロぐらい減ってる……)

 動かないうえろくに食事も摂っていないので、このぐらい減っていても不思議ではないのかもしれない。だが過去に何度か試したダイエットでも、一週間で五キロなど落ちたことはなかった。それだけこの治療は、体に負担がかかっているのだろう。


 そんな治療が、果たして本当に病気を治してくれるのだろうか? そう考えると、体重計に示された数字を見たことも相俟って、ますます体力が奪われてゆくような感覚に囚われた。

 このままでは倒れてしまいそうだったので、重い足でスリッパを引きずりながらベッドへ戻った。


 横になり、全身の力を抜いて天井を見上げると、またさっきのようなおかしな考えが頭の中を埋め尽くす。疲労と高熱で半分しか開かない瞼も、閉じたら本当に二度と開かなくなる気がして、しきりにまばたきを繰り返していた。

(なんで……? なんで私だけが、こんなつらい思いしなきゃいけないの……!?)

 つらさが悔しさに、悔しさが悲しみに変わり、悲しんでいる自分に気付くとまたつらくなる。私の心の中には、負の感情で作られた円が描かれている。

 早くこの円を断ち切りたい。──でも、どうやって? 今はもう、何を思っても少しの気力も湧いてきやしないのに……。

(助けて……もう負けそうだよ……)

 この夜はずっと泣いていた。

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