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ダメ女のエール ~笑顔のキセキ~  作者: F'sy
第四章・闘病
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五日目

 入院以来、まともに食事を摂ったのは初日ぐらいだったので、体力的な面から一日あたり予定していた薬の量が流せず、抗ガン剤の投与期間が延びていた。

 しかしようやく五日目の今日、午前中で抗ガン剤が終わって栄養剤に切り替わることになった。だからといって、すぐにこのつらさから解放されるわけではないが、苦痛をもたらす薬を体に流していないというだけで、気分的にかなり違う。


 五日間、体中に流れ続けていた薬。点滴パックの中身はもう、下に向かって伸びる透明なチューブの中に残るだけだ。

(もうちょっとで終わりだ……。少しは楽になるかなぁ……?)

 点滴台には十五センチ四方ほどの大きさの機械が取り付けられていて、薬の流れが悪くなったり点滴パックの中身がなくなったりした時に、音で知らせるようになっている。

 視線を上にずらし、オレンジ色の液体が入ったパックを眺める。

(薬って怖いな……。でも、あと三回もこれやらなきゃいけないんだ。……治療関連死っていうのも、わかる気がする……)

 私は目をつぶって、その考えを頭から追い出した。目を開き、残りわずかになった液体をじっと見つめて薬がなくなる瞬間を待つ。

(もうちょっと……もうちょっと……終わったぁ!)

 喜ぶ私より数秒遅れて、ピー、ピー、と音が鳴り、私はすぐにコールボタンを押した。ベッドの頭上に取り付けられた可動式のスピーカーから、看護師さんが「はーい、どうしましたー?」と応える。

「点滴、終わりました〜」

「はーい、伺いまーす」


 すぐに看護師さんが、新しい点滴パックを持ってきた。

「やっと終わったよ〜!」

「良かったねー、お疲れさまでした!」

 嬉しくて声に出して言うと、空になった点滴パックを栄養剤の入ったパックと交換しながら、看護師さんが一緒になって喜んでくれる。


 それにしても、看護師というのは大変な職業だと思う。

 私はこの数日間でかなりわがままを言ってしまったが、看護師さんたちはいつも笑顔で接してくれる。私なんて、子供がぐずっているとすぐに苛立ってしまうのに……。大人が駄々をこねても、まるで子供をあやすようにそれを受け入れ、安心感を与えてくれる。私には到底できない仕事だ。

「看護師さん」

「ん? なぁに?」

「……やっぱ、いい。なんでもな〜い」

「? 変なのー。大丈夫だよ、終わったらちゃんと食べられるようになるだろうから」

「え? ……違うって! 別にお腹空いたんじゃないよ〜!」

「あはは、だってそんな顔してるんだもん」

「え〜、そうかな〜?」

「ちゃんと食べれば元気になるよ!」

「うん、そうだね」

 本当は「ありがとう」と言いたかったのだが、シュウや友達に言うのとは違って照れくさかった。

 看護師さんは忙しそうに、空のパックを持って病室を出ていく。勘違いこそしていたが、それでもさっきのような会話で私が救われていることに違いはない。やはりすごい職業だ。


 この日は眠るまで〝普通〟だった。お腹の痛みもほとんどなくなってきている。たぶん、気分的なものが大きいのだろう。

(もしかしたら、ホントにこのまま治ってくれるかも……)

 だがそれは、翌日すぐに期待のままで終わることとなった。

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